[清谷信一]防衛省・技術研究本部に実戦的な装備は開発できるのか②〜必要な調達をする気のない自衛隊と必要ない装備を技術実証する技術研究本部の悪すぎる連携
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
前回の記事にも書いたように、単なる技術実証のために開発に過ぎない防衛省・技術研究本部(技本)のRWS(リモート・ウェポン・ステーション)開発。このような背景には、ユーザー側にも問題がある。既に他国では必要な装備として途上国ですら装備化が進んでいる。
RWSは陸自が最優先だと主張するゲリラ・コマンドウ対処やPKOなども必要なだけでなく、情報化、ネットワーク化のためにも必要だ。今まで陸自がRWSを導入してこなかったことは大きな間違いだし、唯我独尊で、現実を直視していないからだ。また隊員の人命の軽視ともいえよう。何しろ国内は病院がいっぱいあるからと、隊員の個人用ファーストエイドキットをPKO用のもののダウングレードを採用するぐらいだ。当初防衛が想定される南西諸島の離島のどこに総合病院があるのか。
艦艇も同じで、高速ボートによる自爆テロや海賊対処、島嶼をめぐる中国との紛争にも必要な装備だ。このような場合に護衛艦の主砲を撃てばオーバーキルだし、手動式の12.7ミリ機銃などでは高速ボートを追尾できない。機銃座では海賊の機銃や携行型対戦車榴弾ロケットなどで攻撃を受けた場合、人的な損害を出す可能性が高い。またRWSは録画もできるので、交戦が正当だったことを証明することもできる。その有用性は海保と北朝鮮武装船の交戦で明らかになっている。
(海軍用のミニターフンーン・提供:ラファール社)
だが海自はこれ黙殺している。自分たちの仕事は華々しい「艦体決戦」であり、小競り合いにはカネを使いたくないというのが本音だろう。
空自も基地警備に軽装甲機動車を導入しているが、極めて価値高い機体や、航空基地を守り、また周囲の市街地に対する副次被害を最小化するためには優秀なセンサーを持ち、正確な射撃が可能なRWSを装備するメリットは大きい。だが彼らにも興味はない。恐らく自衛隊は実戦を想定していないのだろう。そうであれば「余分」な予算を食うだけのRWSなどを調達するのであれば、既存の戦車や艦艇など見栄えがいい「火の出る玩具」を買買いたいのだろうが、それは平和ボケである。
ユーザーである自衛隊は本来必要なRWSを調達する気が全くなく、技本はユーザーが必要ない装備を技術実証として行う。技本と自衛隊の連携は非常に悪い。これでまともな装備開発ができるはずがない。
本年(2013)10月29、30日の両日での技本の発表会「防衛技術シンポジウム」ではRWSの仰角、俯角ですら「機密」扱いして公表しなかった。筆者が取材した限りではRWSの仰俯角を秘密にしているメーカーは存在しない。中国ですら公表している。何を秘密にし、何を公開していい情報が全く理解していない。
近年のRWSは仰角を大きく取る傾向がある。これは建物上階にこもった敵兵への攻撃やヘリやUAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空機)やなどに対処するためだ。見た限りでは技本のRWSはさほど仰角があるとも思えない。しかも先述のように技本がデータを公表していないので、外国の製品と比較のしようがない。
これでは納税者がその研究の是非をめぐる議論さえすることができないのだ。
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