[宮家邦彦]外交・安保カレンダー(2013年12月9日-15日)
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
今週の注目は、何と言っても、13日から始まる日本・ASEAN特別首脳会議だろう。過去一年、中韓はそれぞれ別々の思惑から日本を孤立させようと努めてきたが、日本にとっては幸いなことに、どうやらそうした試みは裏目に出つつあるようだ。
そもそもこの日・ASEAN首脳会議、タイミングが絶妙である。図らずも日本は、最近の中国による防空識別圏設定のおかげで、東シナ海と南シナ海での「航行と飛行の自由」についてASEAN諸国と首脳レベルで認識を一致させることができそうだ。筆者が防空識別圏設定を「中国外交の大失敗」と呼ぶ理由はこれだ。韓国メディアですら中韓の孤立を憂いている。
タイの首相は訪日できそうもないが、今回の首脳会議の外交的意味を減ずることはないだろう。タイといえば、バンコクでの騒乱も気になる。今回の一連の動きは、タイにもエジプト並みの不安定要因があるということか。しかし、それ以上に気になるのが北朝鮮内政だ。一部には権力継承の「仕上げ」と見る向きもあるが、果たしてそうなのか。
北朝鮮は「国家」ではなく「企業」と考える方が分かりやすい、というのが筆者の見立てだ。この特殊な人間集団は1940年代のビジネスモデルを今も維持する巨大なオーナー中小企業。最近三代目が引き継いだが、既に会社は倒産の危機に瀕している。創業者の先々代を見て育った先代とは異なり、弱冠30歳の三代目にワンマン経営力はないかもしれない。まず古手の番頭を切り、今度は身内の相談相手まで失脚させたが、古いビジネスモデルと核兵器だけで三代目が生き延びることは難しいだろう。
最後に、中国について一言。「ワシントンポストが日中関係を憂慮」、「外交官では制御できなくなっている」なる報道を見て驚愕した。どうやら筆者の昔の同僚(複数)が外務省の対中政策について実名、匿名で同紙にぺらぺらと喋っているらしい。具体的には、「日本外務省内では、中国語を学び『チャイナスクール』出身と呼ばれる外交官が、駐中国大使やアジア大洋州局長に起用されない状態が続いていると指摘。これも日本国内の反中感情が一因だとの元外務省職員の見方を伝えた。」という。
個人的には「恥ずかしい」としか言いようがない。読者の皆さんはどうお思いだろうか。日本の対中外交を特定の語学専門家の処遇(または冷遇)で対外的に説明すること自体、およそプロの外交官・元外交官にあるべき言動ではないと思うのだが・・・。
今週も重要なイベントが目白押しだが、これ以上コメントするスペースがない。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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