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.政治  投稿日:2017/5/6

都議会自民、小池都政に対案を 東京都長期ビジョンを読み解く!その44


 西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

「西村健の地方自治ウォッチング」

【まとめ】

・小池都知事の言葉は多くの都民の心に響く。

・都議会自民、豊洲問題以外の論点出しなし。

・都議選に向け、健全な論争を期待。

 

■小池都政が持つ意味

小池都知事率いる都政はとても魅力的だ。時代の風や皆の期待やニーズをもとに進めている。小池都知事が文藝春秋5月号での寄稿では、

「『職員もよくやったが、すべての責任は私にある』と述べていれば、『男・石原』の評価はあがったのに」(P95)と石原元知事に皮肉を言い、

「私の周りをイエスマンで固めたいとは思いません。『ノーマン』がいるほうが健全な組織ですから」(P100)というリーダーとしての在り方を説く。

これらの言葉は多くの人の心に響くのも当然のことだろう。

他方、自民党は豊洲市場の問題は別にして、新しい東京の姿を提案できていない。都議会自民党決起大会が行われた。その後、HPを毎日眺めているが、政策はいまだに出てこない・・・(5月1日時点)。

 

■残念な状況

地方自治において知事や議員の提示するあいまいな言葉や抽象的なキャッチフレーズが「政策」とされ、一定の了解をされてきた。昔のように、イデオロギー、価値観、利害や考えがそう先鋭的な対立がある時代ではないのだから仕方がないかもしれない。

しかし、議論や対話がそこにはないために、ただただ政治家は利害関係者へのお願いに走り、メディア報道も落ち着いたものになり、無関心な住民が何をもとに投票していいのかわからなくなり、結果的に投票率が下がる。このサイクルがくりかえされる構造。中選挙区がその構造を補強する。

政策論争ができるだけの優秀な政治家が数多くいるにもかかわらず、残念な状況である。この国の言論空間は、住民が理解・納得できるレベルの論点を提示・作成できていない現実。特に、地方自治では、論点を出せないのは、メディアの問題もあるし、対立を明確にして議論する文化がないということもあるだろう。それを許す住民もいる。

日本の文化に根差す「空気」。共同体の同質性が失われている現代にもかかわらず、我々の言語空間を「空気」が規定する。

「空気」を壊す議論・対話は嫌われ、しょうもない政策の論点しか提示されない状況。それを許した我々有権者にも責任があるだろう。この問題は、我々都民が関心を継続的に持ち、予算書や事務事業評価シートをできるだけ読み、勇気をもって考えを表明し、意見を出し、他人の意見から真摯に学び、対話を深め、政策形成に少しずつ関与していくことでしか解決しない。

 

■自民党こそ論点を提起したら?

議会最大会派にありながら、現在は知事野党の立場に追いやられている「都議会自民党」は、豊洲移転以外には目立った批判の声を出しているようには思えない。黙って嵐が過ぎるのを待っていく戦略なのだろうか。それとも真摯に石原都政、猪瀬都政、舛添都政での行動を反省して沈黙しているのだろうか。それはわからない。

残念ながら、小池都政への対案を出しているように思えない。いったいどうしたのだろうか。例えば、自民党なら以下のような対案を出せば面白いのにと勝手ながら思う。

・都庁の機能を各地に分散させ、多摩地区にできる限り移転します

・テレワークを推進し、多摩地域に拠点を設けます

・多摩ニュータウンなどの団地を再生し、サスティナブルなまちづくりを推進します

・都内の景観を取り戻すため高層ビルの建設を規制します

・自転車や歩行優先空間を都内各所に作ります

・時差通勤やテレワーク、育児休暇を推進する企業を強力に支援します

・東京都に本社機能を構える企業の本社移転を支援し、住みよい空間づくりや新しい地域での子育てモデルを考え、推進します

・花粉症撲滅のためスギを早期に植え替えます

・不法入国者対策に取り組みます

・外国人および日本人へのヘイトスピーチ・差別対策を徹底的に行います

・横田基地の返還などの活動を提案します

・事務事業や予算を見直し、徹底的な民営化を進めます

・為政者や幹部の結果責任を問える制度を検討します

というのはどうだろう。

また、論点としては、

・東京都心の一極集中をどう考え・評価するか

・超高層ビルの開発による景観への影響をどう思うか

・東京五輪後の東京のまちづくりをどうするか

・各施策の優先順位はどうなっているか

を小池都知事に問うてみたらどうか。

上記の政策や論点なら自民党の支持団体も納得すると思うのだがどうだろう。厳しい言い方をすれば、発信すら聞こえてこない中で、都議会議員選挙に勝てるわけもないだろう。

健全な論争を都議選に向けて仕掛けることを期待したい。過去に何年間も与党だった側の責任を果たしてもらいたいものだ。

 

【訂正】2017年5月7日 15:00

本記事(初掲載日2017年5月6日)の本文中、「今現在与党である自民党は」を「議会最大会派にありながら、現在は知事野党の立場に追いやられている「都議会自民党」は」と訂正致しました。(本文では既に訂正済み)

誤:今現在与党である自民党は

正:議会最大会派にありながら、現在は知事野党の立場に追いやられている「都議会自民党」は

Japan In-depth編集部


この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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