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.国際  投稿日:2017/9/1

ナチス・ヒトラー礼賛が絶対ダメなわけ


サンドラ・ヘフェリン

【まとめ】

・日本人の中には、ナチスを称賛する人がいたり、ナチスを連想させる「グッズ」を使用する人がいることに驚く。

・「ドイツ刑法典130条」の民衆扇動罪は、ヒトラーやナチスドイツを礼賛したり讃美したりする言動や、ナチス式の敬礼やナチスのシンボルを見せることを禁止している。

・唯一の被爆国である日本は国際社会の一部であり、人種差別撤廃条約に加盟している。ヒトラー礼賛が如何に多くの人を傷つけるかわかるはずだ。

 

筆者はよく「日本に来てビックリしたことは何ですか」と聞かれます。そこで観光客風に「ウォッシュレットにびっくりした!」とか「コンビニが24時間あいていることにビックリした!」とか「ニッポン女子のメイクにビックリした!」・・・などと言いたいところですが、実は筆者が20年前に来日して以来今に至るまで定期的にビックリしていること。それは日本では堂々とナチスを称賛する人がいたり、全面的に称賛はしないまでも「ナチスは○○がよかった」という風に部分的に褒めたりナチスを連想させる「グッズ」を使用してしまう人が定期的に登場することです。

実際に昨年10月にはナチスの軍服に似た衣装を着ながら歌ったり踊ったりしていた日本の女性アイドルグループ問題になりました。その後もヒトラーの顔がプリントされたTシャツを着てテレビに出る著名人がいたり(もっともこのTシャツに関しては横に“No War”の文字があり、本人はジョークだと理解して着ていたのだと思われます)、「ナチス政権下のドイツ医学の発展は目覚ましいものだった。」(※1)、「ナチスはがんばる女性の支援に積極的でした。」(※2)、そして極めつきは「南京もアウシュヴィッツも捏造だと思う。」(※3)と公の場でつぶやく医師まで出てきてしまいました。麻生太郎副総理兼財務相の「ナチス発言」については回数が増し、もはや「定期的なもの」となってしまっています。

ドイツ国内においては、これらの発言は「ドイツ刑法典130条」民衆扇動罪で禁止されています。ヒトラーやナチスドイツを礼賛したり讃美したりする言動が禁止されているのはもちろん、ナチス式の敬礼やナチスのシンボルを見せることも禁止です。

ドイツではこのような法律があるのに対し、日本にはナチスやヒトラーを称えてはいけないという法律はないため、ことヒトラーやナチスがテーマとなると「ドイツと日本」の間にはかなりの「温度差」があります。しかしそんな日本でもナチスを褒めたり称賛しないほうが良い理由を「身近な例」を挙げながらご紹介したいと思います。あえて人間関係的なものを中心とした「感覚的」なお話をさせていただきます。

 

その1)被害者が近くにいるかもしれないから

発言を聞いて周りに傷つく人がいるかもしれません。「日本にナチスの当時の被害者やその関係者はいないのではないか」というのは間違いです。実際にドイツ出身の筆者は時にドキッとするシチュエーションに日本国内で出くわしています。

何年か前、ある民放のバラエティー番組に「その他外国人大勢」の枠で出演したところ、待ち時間が非常に長く、外国人同士で控室で色々とおしゃべりをしていました。そんな中、ある人が、私に「僕はドイツのナチスの制服が大好きなんですよ」と言ったところ、その場にいたギャル風の女の子が「うちのおじいちゃんがね、スパイ容疑でナチスにつかまって、強制収容所に入っていたんだ・・・」と言うではありませんか。その後、色々と話を聞かせてもらったのですが、当然ながらそれは悲惨な内容でした。

ちなみにその時、控室にいた外国人はせいぜい20人ぐらい。その中にも家族や親族に被害者がいるのですから、「ナチスの○○が好き」「ナチスのココは素晴らしかった」というような発言に関しては、たとえ日本国内であっても、いつどこで身近な話として傷つく人がいるか分かりません。

先日も日本で長年付き合いのあるヨーロッパ某国出身の人から、ふとした会話の中で、その人の家系がユダヤ系だということを知らされました。その人も日本生活が長いので、当然日本人の知人・友達・仕事仲間が大勢いるわけです。誰かが「軽い気持ち」で「ナチスの○○が好き」と言ってしまったとしたら、それは大変なことです。

ちなみに日本人の一部には、ドイツ人と交流する際に社交辞令を言おうとして「次はイタリア無しで日独で戦争をしましょう」だとか「自分はヒトラーが好き」などと言い出す人をたびたび見かけますが、目の前のドイツ人がユダヤ系だったらどうするつもりなのでしょうか。

 

その2)広島と長崎で被爆した人々の気持ちを考えてみる

 いうまでもなく第二次世界大戦中に広島と長崎に落とされた原爆によって家族や親族を失った人、自身が被爆した人の苦悩は計り知れません。

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写真 広島 原爆ドーム

日本ではアウシュヴィッツは捏造だと主張する人が定期的にあらわれますが(1995年の「マルコポーロ事件」しかり、冒頭で紹介した2年前の医師の発言しかり)、これは「広島と長崎に原爆が落とされたというのは捏造だ。」と発言するのと同じぐらい被害者及びその関係者が負う傷は深いと考えてよいでしょう。

記事の冒頭にヒトラーの顔が描かれたTシャツを着たままテレビに出た著名人のことを書きましたが、もしも誰かが原爆投下時のキノコ雲のTシャツを「キノコの形がかわいいから」というような理由で着ていたら、どう思うでしょうか。さらには「原爆投下は結果的には科学の進歩に役立った」というような発言をしたら、どう思うでしょうか。

原爆投下により多くの人が理不尽な死を遂げた以上、そして多くの人が長年後遺症に悩まされている以上「原爆投下は結果的には科学の進歩に役立った」などとは絶対に言ってはいけませんし、同様に、ナチスの人体実験で多くの人が命を落とした以上「ナチス政権下のドイツ医学の発展は目覚ましいものだった。」というようなことは絶対に言ってはならないものです。

 

その3)日本も国際社会の一部である

最後は単純すぎる話かもしれませんが、日本も国際社会の一部であるということに尽きます。人種差別撤廃条約に日本も加盟していますし、文明を誇る先進国である以上、そして何よりも二度と戦争を起こさないと誓った国としては、戦争を起こした張本人であるヒトラー及びナチ党を褒め称えたり「ここが良かった」と発言したりすること、その全てが大変よろしくないことです。

ベルリンでは先月8月上旬にナチス式の敬礼をした中国人観光客二名が現地の警察に逮捕されるという事件がありました。中国も日本もドイツからは地理的に遠い国です。地理的に遠い国の歴史というものに対して、妙な憧れのような気持ちを持つ人が一部にいます。まずはそこから自覚してみるのもよいかもしれません。

最後に。日本には戦争の悲惨さをこの目で見ることのできる広島平和記念資料館があるように、ドイツにはダッハウ強制収容所ブーヘンヴァルト強制収容などがあり、そしてポーランドにはアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容があります。「ナチスのココがよかった」と発言する人々は一度は現地の強制収容所に足を運び、そこでじっくりナチスがやってきたことについて目に焼き付けてみるとよいでしょう。

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▲写真 アウシュヴィッツ強制収容所入り口。「ARBEIT MACHT FREI (働けば自由になります)」のサインがある。

 

※1

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※2

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※3

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参考)

http://blogos.com/article/241844/

http://masterlow.net/?p=3073

http://www.from-estonia-with-love.net/entry/takasu-remarks

トップ画像:「死の門」・アウシュヴィッツ第二強制収容所(ビルケナウ)の鉄道引込線  2004年夏 Photo by C.Puisney

 (この記事には複数の写真、リンクが含まれています。サイトによって見れないことがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=35864で記事をお読みください)


この記事を書いた人
サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴17年。自身が日独ハーフであることから、「ハーフといじめ問題」「バイリンガル教育について」など、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。HP「ハーフを考えよう」http://half-sandra.com/を運営。

サンドラ・ヘフェリン

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