大人げない米朝 誤算生じる可能性?
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー2017#39(2017年9月25−10月1日)
【まとめ】
・10月総選挙、G8メンバーの4人が既に辞めている。
・米朝、罵りあいの応酬止まず、誤算が生じることを懸念。
・トランプ大統領とNFLの対立激化。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ残っていることがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=36363で記事をお読みください。】
今週のハイライトは何といっても衆議院解散だろう。振り返ってみれば、昨年の伊勢志摩サミットに出席した7人の首脳の内、既に4人が職を離れている。最初がEU離脱で躓いたキャメロン英首相、オバマ大統領は任期満了だったが、同じく国民投票に失敗したレンツィ伊首相、再選を諦めたオランド仏大統領だ。
写真)伊勢志摩サミット 出典)外務省「G7伊勢志摩サミット2016」
残っているのは、若いトルドー加首相を除けば、メルケル独首相と安倍総理だけ。そのメルケル首相は先週の総選挙で辛うじて第一党の座を維持したが、今後の連立政権作りは難航しそうだ。10月には日本でも総選挙がある。有権者の反応も複雑ではなかろうか。偶然とはいえ、時の流れを感じざるを得ない。
一方、最近北朝鮮情勢が何か変だ。先日は国連で北朝鮮外相が、「誇大妄想で独りよがりな精神的に錯乱した人物が核のボタンを持つことこそ国際平和と安全に対する重大な脅威」とトランプ氏を批判。これに対し、同氏は「彼がチビのロケットマンの考えに同調するなら両者とも遠からず姿を消す」とツイート。
(トランプ大統領のツイート)
Just heard Foreign Minister of North Korea speak at U.N. If he echoes thoughts of Little Rocket Man, they won't be around much longer!
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) September 24, 2017
これに対し北朝鮮の外相は、「明白な宣戦布告」であり、「今後、米国の戦略爆撃機が我が国の領空に入っていなくても、撃墜を含むあらゆる自衛的な対応を取る権利がある」と述べたそうな。典型的な売り言葉に買い言葉だが、単なる口喧嘩にしては大人げがない。こういう時は往々にして誤算が生じるものだ。
動画)北朝鮮が24日公開した、米原子力空母や戦略爆撃機をミサイルで撃退する仮想動画。
〇欧州・ロシア
25日に英国のEU離脱問題に関する交渉が再開される。同日にはフランスの労働者が再びストライキをやるそうだ。27日には仏伊首脳会談、28日にはロシアとトルコの首脳会議がアンカラで開かれる。個人的にはこのプーチンとエルドアンの会合が気になる。狐と狸の化かし合いだが、結果は要注意だ。
〇東アジア・大洋州
23日から米商務長官が訪中する。これも北朝鮮がらみだろうが、その北朝鮮は25日から国際貿易見本市を平壌で開催する。更に、26日からは中露海軍が日本海とオホーツク海で共同軍事演習を行うという。関係国が合理的な判断を下し続ける限り、大事には至らないだろう。怖いのはやはり誤算である。
〇南北アメリカ
先週トランプ氏が「各チームのオーナーはプロフットボールNFLの試合前に国歌斉唱で起立しない選手たちを解雇し、ファンは試合をボイコットすべきだ」と発言。これに、オーナー連と選手会は、「大統領の無神経で攻撃的発言は米国の理念に反する」と猛反発した。トランプ節は今も健在である。
写真)ジャクソンビル・ジャガーズ(バルチモア・レーベンスとの対戦前、国歌斉唱) 2017年9月24日出典)NFL
〇中東・アフリカ
25日にイラク・クルド地域で住民投票がある。独立を目指すというが、一体何を考えているのか。独立問題は古くて新しい問題だ。特に若いクルド人は独立も可能だと考えるのかもしれない。しかし、クルドを巡る国際戦略環境は甘くない。イラク・クルドの独立は地域の微妙な政治的均衡を破壊するだろう。
〇インド亜大陸
25日に米国防長官が訪印する。過去数年間、軍事面での米印協力は進んでおり、米国の強い意欲が感じられる。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ画像)会見する安倍首相 2017年9月25日 出典)首相官邸
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。