安倍政権は軍拡?! 右派?!〜その実態は多額の税金をアメリカに貢ぎ、自衛隊を弱体化させている事実に警鐘①
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
[その②を読む]
安倍政権は軍拡、右派だとの主張があるが、実体は多額の税金をアメリカに貢ぎ、自衛隊を弱体化させるつもりだ。
次期中期防(中期防衛力整備計画)では、水陸両用装甲車(事実上AAV7)、大型無人機グローバルホーク、ティルトローター輸送機(事実上オスプレイ)など多くの新型装備の調達が予定されている。これらは全く性能や必要性が調査されず、あるいは形だけの調査を26年度にして導入される。
AAV7(水陸両用装甲車)は国会答弁で特地局長は平成29〜30年度までかけて参考品を調査すると述べたが、先行取得するAPC(装甲兵員輸送装甲車)型だけを使って平成26年中に車種選定を行う。これらは評価に使用されないにもかかわらず、評価用として調達される。しかもAPC型を使っての評価も実際に行われるのは3ヶ月程度である。この手の試験は通常は一年以上かけるのが普通だ。この程度では形だけの評価であり、単なるセレモニーに過ぎない。
平成26年度予算では評価用として指揮通信型と回収型を要求している。これらは当然車種選定後に調達されることになる。仮にAAV7が水陸両用装甲車として不適格であればこれらの調達は完全に税金の無駄となる。であれば、防衛省は初めからAAV7を調達するつもりであり、評価試験は形だけである。つまりは出来レースだ。
昨年末の防衛省来年度予算のレクチャーでこのことを担当者に尋ねたが、事態が変わってきているという。筆者はこの件に関して記者会見で陸幕長に質問したが、後日陸幕広報室からきた回答は「徳地局長の答弁は、平成25年4月当時判明している状況での説明であり、事後、米国との調整等が進んだため、これに伴う変化」とのことだった。
だがこれは極めて不思議な見解だ。米国との調整が進むと、必要な事前調査を行わず、あなた任せで装備調達を決めるというのであれば、それは独立国の「軍隊」ではあるまい。植民地や属国の軍隊だ。
軍事的、政治的な常識から考えれば特地局長の答弁から僅か半年で必要な評価試験を簡略化するのであれば、それは準戦時体制ということになる。つまり、防衛省は中国との武力衝突、あるいは戦争が極めて近い将来に発生すると考えている、ということになる。これはオスプレイやグローバルホークの調達にも言えることだ。オスプレイやグローバルホークも来年度予算で調査費が計上されているが、調査を待たずに中期防では調達が明記されている。
そうでなければ米国から何か圧力を掛けられて調達を決定した、あるいはその他の政治的な理由があるのだろう。必要性もきちんと調査していないに、アメリカ製の武器を大量購入することは極めて異様としか言いようがない。
だがこのような「軍拡」は可能だろうか。率直に申しあげれば不可能だ。
陸自の例を挙げてみよう。中期防で調達される、まったく新たなカテゴリーの主要装備とその予想調達費用は以下のとおりだ。
【オスプレイ:17機】陸自は1機120億円と見積り→合計2040億円
【機動戦闘車:99輌】陸自は1輌5億円と見積り→合計495億円
【AAV7:52輌】25年度予算は中古APC4輛で25億円(単価6.25億円)、26年度の指揮通信車と回収車は2輛で17億円(単価8.5億円)平均して1輛7億円→合計364億円
<総計金額 約2899億円>
これらの予算は、来年度には要求されておらず、再来年度からの要求となる。このため中期防残りの4年で割ると毎年725億円が必要となる。3自衛隊の装備調達予算は年約5千億円弱であり、この金額はその約14.5パーセント。
陸自の予算は概ね1.7兆円に過ぎない(防衛省予算の約36パーセント)。陸海空の予算比率は4・3・3であり、これを装備取得費に当てはめるならば陸自の使える装備予算は2千億円程度に過ぎない。725億円はその36パーセントを超える。換言すれば、既存の装備調達費を4割近く削減する必要がある。[その②を読む]
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