[為末大]<日本社会にある法律よりも大事なもの>私達は自分の為ではなく、社会の安定のために我慢する
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
日本社会の特徴の中で、私が長所と思う点は、それぞれの人が自分の責任の範疇を拡大させて、自分だけの為ではなく「全体の為に」という観点を持って行動する事だと思う。それが震災直後のパニックを防いだし、社会秩序を保つ事を支えていると思う。
自分だけのためではなく「社会の事も考えている人」の割合が多い。そして「他の人もそう考えているだろう」と考えている人の割合は多い。更には、自分の事よりも「社会の事を考えて動くべきだと考えている人」の割合も多い。そして最後の空気がかなり今の流れと対立する。
例えば、教員が入学式を休む事は、労働者を守る為の法律ではたぶん許される。でも、法律よりも大事なものがあるじゃないかと考える人が結構いる。女性が子育ての為に、定時で帰ろうとする。会社は法律を守らざるを得ない。でも、空気は「みんな苦しいのにあの人だけ」となって居心地は悪い。
リーマンショックの後、売り上げが落ちて全員の給与を何割か引き下げてしのいだ日本企業があったらしい。社員の数を2分の1に減らして、優秀な社員の給与を上げた外資系企業があったらしい。前者はとても美しい。でも後者の方が立ち直りも早かった。
日本人は幸福度が低いとよく聞くけれど、突き詰めると「幸福だ」と言うのが憚られる空気がある事が大きいように思う。昔「幸せだな」と発言した時に、「苦しい人がいる時になんてやつだ」と言われた事がある。私達は同じでなければならないと言われ育ってきた。
私達は「幸せになろう」と言いながら、幸せになった人を許さない。みんな同じくらい幸せでなければならないから。そしてそれが社会秩序を保っている。私達は私達の為にではなく、社会の安定の為に生きている。
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