[為末大]<ストーリー社会、日本>結果を重視する「アメリカンアイドル」と本番がないAKB48の違い
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
アメリカに「アメリカンアイドル」というテレビ番組がある。
歌に絞り込み最も素晴らしい歌手を国民投票で決めていくというもので、とても人気の番組で、決勝戦に近くなるととんでもなく歌がうまい人達の戦いになっていく。途中でプロのアドバイスやレッスンも入り鍛え上げられていく。
少し仕組みは違うけれど、日本ではAKB48という仕組みがある。彼女達が一年に一度投票されて誰が一番かを決める大会。投票の基準は、個々人で違うだろうけれど、ざっくり言うと誰が一番好きかどうか。最も一年で支持された人が一位に輝く。
「アメリカンアイドル」も個々人のストーリーは重視されるけれど本番での歌とパフォーマンスの比重がかなり高い。それに関してAKBのシステムはそもそも本番がない。一年を通して頑張ってきた事が評価される。大学入試の試験のシステムで言えば日米は反対なことが興味深い。
娯楽産業は何を見て娯楽と感じるかだと思うけれど、舞台で行われている事だけを見て娯楽だと思えば日々の努力は全く見せる意味がない。ところがストーリーを娯楽だと考えるとむしろ舞台の裏側で一体どんな努力があってここまで来たのかを見た方が楽しい。
舞台だけの社会は厳しい。どんなに努力してもだめなものはだめ。「アメリカンアイドル」で審査をする人が“君は才能を持って生まれなかった。残念な事に”と言って追い返すシーンがある。結果だけを重視すれば、かなり厳しい社会ができあがる。
ストーリーを重視する社会では、どう頑張ったかという事が大事になる。ところが昨今世の中の空気が変わってきて、急に“頑張れ”ではなく“結果をだせ”と言い始めた。結果の出し方がわからなくて戸惑っている人は多いのではないかと私は思う。
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