[朴斗鎮]ブレが目立つ北朝鮮の政策決定
最近の北朝鮮動向で特徴的なのは、その政策や方針の急変が目立つことである。その典型が、今年3月を頂点とする核戦争挑発と5月からの対話路線への急旋回だ。これは米韓の抑止力に屈したとの見方も出来るが、理解しがたい面が多い。
この急旋回には何ら内的連関が見られないからだ。以前であれば、強硬路線から対話路線への転換過程には一定のプロセスがあった。そしてそれなりの果実も手にしていた。しかし金正恩時代の政策決定過程にはそのような痕跡は見られない。
金正恩第1書記はこの「核戦争騒動」発動で中国からも金融制裁を受け国際的孤立を深めた。その結果外貨事情をいっそう悪化させ、朴槿恵大統領の「信頼のプロセス」に乗らざるを得なくなったようだ。そしていまそれを逆利用しようとしている。北朝鮮が一方的に閉鎖した「開城工業団地」稼動再開でこれまでに見られない「譲歩」を行なったのはそのためと見られる。
しかしこのまま韓国との対話を進めるのかと思いきや、離散家族再会では4日前の土壇場で合意実施を延期した。これにはさすがに韓国野党まであきれている。親北朝鮮の代表格である朴智元議員までもテレビ出演して強く批判した。
それだけではない、人民に喜びを与えるといって進めている政策が、もっとも切実な食料問題の解決ではなく、道楽とも見られる娯楽施設やレジャー施設の建設といった「箱物」である。模範とする経済モデルまでもが巨大スキー場の建設となっている。この政策に対して、北朝鮮は、「経済建設と核武力建設の併進路線」と説明している。
金正恩第1書記の政策をまじめに分析するのは難しい。その真意や狙いが推し量りにくいからだ。そうした事から米国などでは、彼を「予測しがたい指導者」と呼んでいる。
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【プロフィール】
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。主な著書に、「北朝鮮 その世襲的個人崇拝思想−キム・イルソンチュチェ思想の歴史と真実」「朝鮮総連 その虚像と実像」など。その他論考多数。