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.社会  投稿日:2015/9/23

[林信吾]【消費税目的税化で福祉再建、図れ】~高度福祉国家の真実 10~


林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

執筆記事プロフィールblog

大ヒットした『半沢直樹』シリーズはじめ、池井戸潤氏原作の、銀行を舞台にした一群のドラマは、たしかにどれも面白い。

「銀行は、晴れた日に傘を貸し、雨が降ってきたら取り上げる」という表現が、幾度か出てくる。企業の業績がよく、資金が回っている時には強引にでも貸し付け、資金繰りが苦しくなると、借り手の都合などお構いなしに取り立てる、という意味で、昔からよく言われていたことであるらしい。銀行の場合は、まあ、理解できると言っては語弊があるけれども、とどのつまりはビジネスで、行員とその家族の生活もあるわけだから、致し方ない面はあるのかも知れない。

だが、福祉のシステムがこのように作用するというのは、あってはならないことだ。端的に言えば、保険をもっとも必要としている人から保険を取り上げるようなことをしたら、制度そのものが、いや、国家に対する信頼までもが揺らぎかねない。

人間誰もが年をとる。やがては身の回りのことも自分でできなくなり、介護の世話になる可能性は、誰にでもある。わが国では、そのような高齢者から介護保険を取り上げる政策が、厚生労働省の主導で進められているのだ。

この保険制度は、半額を公費(税金など)、そして半額は保険料でまかなわれており、40歳以上の給与生活者は給与から、そして年金受給額が年額18万円を超える場合は、年金から天引きされる。それ以外の人は、直接納付することになっているわけだ。

問題は、この直接納付する人たちだが、2013年度の未収額が274億円に達しているという。未納の人が、それだけ多いということだ。年金額が少なかったり、要するにお金がなければ、払える道理がないのだが、現行の制度は、それでは済まないようになっている。

短期間の滞納であれば、督促手数料と滞納期間に応じた延滞料を払えば、介護サービスを受けることはできるが、1年間滞納した場合は、ひとまずサービスの費用を全額支払い(通常は1割負担)、後で還付を受けることになる。さらに、滞納期間が2年以上となると、保険がひとまず停止された上、窓口負担も3割になってしまう。

これは金利のような考え方とは違って、保険料をきちんと納めている人と収めていない人とが同じ権利を行使できるのでは、きちんと収めている人に対して不公平なので、滞納者に一定のペナルティを科す必要があるのだ、と説明されている。そして厚生労働省は目下、制度の公平性維持の観点から、徴収を徹底するよう、各自治体に求めている。

国民健康保険も同様に運用されていて、生活に困窮した結果、無保険になってしまう家庭が、どんどん増えてきているのだ。普通に考えて、払う余裕があれば払うお金だろう。年老いて体の自由が利かなくなったり、病気で働けなくなったりした場合、まず頼りになるのが保険であるはずなのに、お金がないと医者にもかかれないのが現実。これは「雨の日に傘を取り上げる」よりもひどい話ではないだろうか。

前回、高福祉・高負担の理念の中で、資産を持つ中産階級が過大な負担を強いられている英国の実情を報告した。その轍を踏むことなく、このまま「低福祉・高負担」の国家になることを避けるには、どうすればよいか。実は、手段がないわけではないのだ。

消費税の(福祉)目的税化によって、より公平な負担でより高度の福祉を実現する。これである。そもそも消費税が導入されたのは、少子高齢化社会の到来を見越して、福祉の財源を確保する、という目的であったはずだ。消費税率8%の現在、税収に占める間接税の比率は、北欧の高度福祉国家と大差なくなっている。その意味を、あらためて問い直さねばならない。

(この記事は、
【最後は国が本当になんとかしてくれる、のか?】〜福祉先進国の真実 1〜
【英、無償の医療は当然の権利】〜福祉先進国の真実 2〜
【実は高福祉・高負担な英国】〜福祉先進国の真実 3〜
【英、医療の進歩が財政のネックに】〜福祉先進国の真実 4〜
【英、無償の医療は「クラウンジュエル=家宝」】〜福祉先進国の真実 5〜
【英、定年後切り詰めれば年1回海外旅行】〜福祉先進国の真実 6〜
【ニートはれっきとしたイギリス英語】〜福祉先進国の真実 7〜
【見えない社会保障、支える力失った日本 】~高度福祉国家の真実 8~
【アリとキリギリスと新自由主義】~高度福祉国家の真実 9~
の続きです。あわせてお読みください)

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