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.政治  投稿日:2016/7/24

都知事選候補者政策評価 増田寛也候補 東京都長期ビジョンを読み解く!【特別編】


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

「西村健の地方自治ウォッチング」

地方の専門家が世界的な都会を経営できるのか。

特別編の第2弾、今回は増田寛也候補だ。日本創成会議の一員として「地方消滅」という非常に素晴らしい問題提起をされ、地方創生の理論的支柱となった地方自治の専門家。

しかし、メディアでの印象をまとめると、

・低い知名度と高い組織からの信頼度

・低い実績と高い能力

・丁寧な言動に見える低姿勢と著作に見える高レベルの問題意識

となんだかイメージの定まらないお方のようにも見えたりする。

筆者は内閣府の派遣で地方創生のアドバイザーなどもしている関係で、多くの著作を読んだり、講演を聞いてきて、能力が非常に高い方という印象がある。業界の先輩として大いに評価しているが(特に東京一極集中の解消という点)、岩手県知事時代に業績についての疑問の声も出ている。

なんとも一言で理解できない奥深い増田候補の政策を見ていこう。

 

 増田氏の政策(HP)

 

2 特徴

「あたたかさと夢あふれる東京」というお約束のキャッチフレーズは別として、「待機児童解消・緊急プログラム」を策定し8000人の待機児童を早期解消、妊娠・出産・産後・子育てを切れ目なく支援する「子育て世代包括支援」の構築、ICT/ロボット活用など「未来志向型ケア」を推進、子どもの貧困対応など、さすがの現場起点の問題意識が見られる。こうした問題解決の方法、先端技術の活用だけでなく、「チャレンジド」という言葉を積極的に使うなど(障がいのある人のこと)、政策動向の知識や理解面でもそれなりの安定感が垣間見れる。

一方で、「子どもの貧困をなくし、生活困窮者に寄り添う「地域共生社会」の実現」というフワフワした、抽象的な概念を掲げているのが目立つ。「友達以外皆風景」の現代で、「地域共生」というお題目を掲げてなんら意味があるのか。

知事の上司にもしなれたら(そんな立場の人はいませんが:笑)「イメージは?具体的に?」と突き返したくなるレベルの、まさに官僚的作文という印象。この文言で業績や責任を深く追求されるのを回避したいのかもしれない。

 

3 疑問点

 増田候補が大好きな「3本柱」にならって3本柱で疑問点を示したい。

(1)「待機児童解消・緊急プログラム」を策定し、8000人の待機児童を早期解消」

プログラム策定→解消までの道のりは「どのように」するのだろうか?待機児童のような複雑な要因や利害が絡む「ジレンマ」の解決は非常に難しいものがある。これまで多くの計画・施策・事業・プロジェクトが立案され、実施されてきたが、解消には至っていない非常に難しい問題。心からそのシナリオが知りたいところだ。

低い保育士の収入確保とその財源の補充、規制緩和(廃校・都営住宅の転用)などは可能なのか、そして、杉並区でも問題になっている保育所建設反対問題をどう前に進めるのか、見解を聞きたいところ。

 

(2)「帰宅困難者の一時滞在施設を大幅に増加」

防災対策として掲げているが、この政策を特だしして「柱」にしているのはなぜか?ここで「柱」に掲げているということは、優先するという意味合いに解釈できるもの。個人的には、帰宅困難は都民が1日(いや数時間)我慢すればいいだけとも言えるし、企業に待機させるなどの対策をとればいいとレベルのものと思っている。

東京都の地域防災計画の中で、なぜこれが防災において大事な問題なのか?そもそも防災というより防災後の対応とも言えるわけだし。

また、東京電力社外取締役(2014年6月〜16年7月)としての専門的な見解を示していただけなかったのは残念である。

 

(3)「東京を世界の環境先進都市に発展」

「東京を世界の環境先進都市に発展」させるとのことだが、可能なのか?

東京都の環境基本計画を見てみよう。

まずは都道府県における位置付け。

(参考資料)

そこには、使用電力量(電灯)(人口1人当たり)は平成26年度で2,129kWhと(少ない順でみると)14位、ごみ排出量(人口1人1日当たり)は(少ない順でみると)949gで22位、リサイクル率は23.2%と11位と日本国内でもトップレベルとはいえない状況。

さあ、どうしましょう。

「東京都環境白書2015」

「みどり率」(緑が地表を覆う部分に公園区域・水面を加えた面積が、地域全体に占める割合)についてみると、区部で 19.8%、多摩部で 67.1%、都全域で 50.5%、2008年からの5年間の変化で見てもほぼ横ばいで推移している。

東京の緑・景観・屋外広告物に関する世論調査をみるとさらに驚くべきことが書かれている。東京の緑を増やしたり保全することが「必要だと思う」と答えた都民は96%という世論調査結果なのである。つまり、圧倒的な都民のニーズが満たされていない現状なのだ。

こんな中、「世界の先進を目指す」となぜ言えるのか?

個人的には、根底にあるのは一極集中の問題だと思っている。なので、地方創生の「神」(筆者はそう思っていた)の増田氏の口からあまり語られないのは大いに疑問である(個人的には「高度制限など東京の開発を規制する」「都民のパーソナルスペースを拡大する」くらい言ってもらいたかった)。

 

4 評価

評価結果とその理由は以下になる。(☆は1〜3で評価︎)

 

問題意識                  ☆☆ 【理由】︎子育て、介護、防災と議論されており、程度の大きい課題順に示している。

政策としての基礎条件 ☆   【理由】「政策」の条件を満たしていない。

政策の具体性            ☆   【理由】抽象的な文言が目立つ。

政策の網羅性            ☆☆       【理由】それなりに網羅されている。

実行可能性               ︎☆☆ 【理由】手順は踏んでいて、主体性は見える。

 

以上、感情を殺して文章を書きました。

上記あくまで私の意見ですのでご参考に。繰り返しますが、特定個人を応援する目的で記載していませんので悪しからず。

 *トップ写真:©西村健

 


この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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