海上防衛体制強化急げ 山田吉彦東海大教授
「細川珠生のモーニングトーク」2017年9月2日放送
細川珠生(政治ジャーナリスト)
Japan In-depth 編集部(大川聖)
【まとめ】
・北朝鮮の無許可・無届のミサイル発射は宣戦布告に近い。経済制裁だけでは対抗措置として不十分。
・日本海のEEZ(排他的経済水域)内に北朝鮮漁船団が大量に入っていて危機的状況。
・日本は海上防衛体制として高度な装備を量的にも拡充し、人員を充足することが求められる。
8月29日、北朝鮮が今年13度目となる弾道ミサイルを発射した。北朝鮮は当初、グアム周辺に向けてミサイルを発射すると予告していたが、29日のミサイルは北海道上空を通過し、襟裳岬の東1180キロの太平洋に落下した。
ミサイルの脅威や尖閣諸島等、海上の安全保障について、政治ジャーナリストの細川珠生氏が、東海大学海洋学部教授山田吉彦氏に話をきいた。
■北朝鮮による無許可・無届のミサイル発射
山田氏は「本来、ミサイル発射訓練や人工衛星の打ち上げの際は、国連の国際海事機関と国際民間航空機関に届け出が必要である。」と述べた。
その上で「今回、北朝鮮はルールを無視して抜き打ちで発射した。無許可・無届のミサイルの実験はほとんど宣戦布告に等しい行為だ。それなりの対応をとっていかなければならない」と指摘した。
国連は北朝鮮に対し、経済制裁の強化で一致している。細川氏は、対抗措置として経済制裁で十分なのか、と質問した。
山田氏は「経済制裁を厳しくしているといっても北朝鮮は抜け道を持っている。どこまで中国、ロシアが対応するのか。今まで効果を発揮してこなかった事実がある。」と答え、経済制裁では十分ではないとの認識を示した。
その上で「何らかの形で北朝鮮のミサイル開発、核開発を抑えなければ手遅れになりかねない、もしかしたらすでに手遅れに近い状態かもしれない。」と警鐘を鳴らした。
また山田氏は「ミサイルのバリエーションも増えている。少なくともアメリカには届かないといっても十分に韓国も日本も範囲内に入っている。日本としても経済制裁だけではない方法も検討していかなければ日本の安全を守り切れない。」と強調した。
■北朝鮮への対抗措置
細川氏は、北朝鮮に対し、6か国で対応していくべきか、それとも中国・ロシアは当てにせず、日米韓又は日米でやっていくべきかと質問した。
山田氏はまず、現状、中国とロシアは、「北朝鮮を巡りお互いに牽制をしながら慎重に対処している。」と述べた。さらに、「北朝鮮が何らかの形で暴発するなり、他国が北朝鮮に対して動き出すとなると、北朝鮮の持っている日本海側の港が中国とロシアの取り合いになる。これをアメリカ、韓国も見過ごすわけにはいかないので、きっかけをどの国がいつ作るかも含め、牽制する状態になっている。北朝鮮は中国とロシアを天秤にかけながらアメリカを挑発している。」とし、6か国の関係性を説明した。
その上で「中国とアメリカが最終的に相いれるのはかなり難しい。少なくとも日米安保条約を基本に日米韓を見据えた形での安全保障体制の確立が求められる。」との考えを示した。
■海上の安全保障
山田氏は、「日本をとりまく海の状況は、危機を超えている」と述べ、さらに「尖閣諸島の周辺海域には常に中国の警備船が張り付いていて、その沖には1000隻もの中国漁船が来ている。日本海のEEZ(排他的経済水域)内には北朝鮮の漁船団が入っていて、今年6月1か月で日本の水産庁が追い返した船の数は延べ900隻にも上る。」と述べ、日本の周辺海域が危機的状況であることを改めて強調した。
また山田氏は、「海上保安庁も必死にやっているが、船も人も足りない。水産庁は丸腰で救助・取り締まりに当たらなければならない。」と述べ、現状、日本は海を守ることができていないと指摘した。
さらに「中国漁船を守る名目で中国海警局、人民解放軍が入ってきている。今年、中国海警局の船が日本の領海に侵入する事案も起こっている。自衛隊が沿岸を警備し、海上保安庁、海上自衛隊が連携しながら広い海を守っていく必要がある」と強調した。
▲写真:尖閣諸島沖で活動する海上保安庁の巡視船
また、山田氏は「他国の漁船団が日本海で乱獲しているため、日本の漁船は漁場を奪われている。また、日本製のレーダーを中国経由で持っている北朝鮮の漁船がいる。中国と北朝鮮は一体となって別の動きをしようとしている可能性もある。」と指摘した。
細川氏は、「日本は安全保障体制が整っていないこともあり、アメリカ頼みという実態もある。日本独自が軍事力を持たない限り根本的に解決できないのではないか。」と質問した。
山田氏は「日本は海洋国家で四方を海に囲まれていて、世界で6番目に広い海を持つといわれている。日本は海上防衛体制として、高度な装備を量的にも拡充し、人員を充足することが求められる。国民も自分の国は自分で守れる体制を支援していかなければならない」と主張した。
(この記事はラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」2017年9月2日放送の要約です)
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この記事を書いた人
細川珠生政治ジャーナリスト
1991年聖心女子大学卒。米・ペパーダイン大学政治学部留学。1995年「娘のいいぶん~ガンコ親父にうまく育てられる法」で第15回日本文芸大賞女流文学新人賞受賞。「細川珠生のモーニングトーク」(ラジオ日本、毎土7時5分)は現在放送20年目。2004年~2011年まで品川区教育委員。文部科学省、国土交通省、警察庁等の審議会等委員を歴任。星槎大学非常勤講師(現代政治論)。著書「自治体の挑戦」他多数。日本舞踊岩井流師範。熊本藩主・細川家の末裔。カトリック信者で洗礼名はガラシャ。政治評論家・故・細川隆一郎は父、故・細川隆元は大叔父。