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.国際  投稿日:2017/9/23

覚悟決めた米日、迷走する韓国(上)


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

 

【まとめ】

・トランプ大統領国連総会演説で北朝鮮を激しく非難。米政権首脳は圧力路線で一致。

・米世論調査で、国民の58%が軍事行動を支持すると回答。

・金正恩委員長は猛烈に反発。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全てが表示されず、キャプションと出典のみ残っていることがあります。その場合は、Japan In-depthのhttp://japan-indepth.jp/?p=36224お読みください。】

 

北朝鮮の核ミサイル完成を前にして、米国は北朝鮮に対して核保有を認めた対話に入るのか、それとも核不拡散体制と同盟国を守る軍事行動を含めた圧力路線に集中するのかの2者択一に迫られてきた。

しかしここにきての国連総会でのトランプ大統領の演説や米国主要閣僚の発言を見ると「北朝鮮に対して核保有を認めた対話」の選択肢はほぼなくなったと思われる。日本もまた日米同盟を強固にした米国との共同行動で覚悟を固めたようだ。

 

1. 圧力路線に的を絞った米国 

・トランプ大統領、国連総会演説で北朝鮮を激しく非難・警告

トランプ米大統領は9月19日、ニューヨークの国連本部で行った就任後初の一般討論演説で(41分間)、北朝鮮が後退しなければ「米国には北朝鮮を完全に破壊する以外の選択肢はなくなる可能性がある」と言明し、会場のどよめきを誘った

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▲写真 国連総会で演説する米トランプ大統領 出典:United Nations Photo

金正恩委員長を「ロケットマン」と呼び、「『ロケットマン』は自身、および自身の体制に対する自爆任務に就いている」と述べた。また日本人拉致をはじめ数々の人権侵害を行い数百万の自国民を餓死させ犯罪行為も糾弾した。

そのうえで、北朝鮮の核・ミサイル開発は「全世界に対する脅威であり、想像を絶する規模の人命が犠牲になる可能性がある」と批判。「世界を核の脅威にさらすこうした国と、一部の国が貿易を行うだけでなく、武器を提供し、財政支援を行っていることに憤りを感じる」と述べ暗に中国やロシアを非難した。

続けてトランプ米大統領は21日、日米韓首脳がニューヨークで行った昼食会の冒頭、北朝鮮と取引のある個人や企業、金融機関に対する制裁を強化する大統領令に同日署名したと発表した。

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▲写真 日米韓首脳会談 ニューヨーク 提供:内閣広報室

トランプ氏は記者団に対し、「北朝鮮の核・ミサイル開発は世界の平和と安全への重大な脅威であり、容認できない」と改めて強調。ヘイリー米国連大使は「北朝鮮と取引を行う者は、全員罰せられることになる」と指摘した。

 

・圧力路線で意思統一した米国首脳部

米国のホワイトハウス、国務省、国防省も金正恩政権に対する軍事的な選択肢について言及を始めた。ティラーソン国務長官の「外交努力が失敗すれば軍事的な選択肢しかなくなる」との発言や、ソウルを「重大な危険」に陥らせることのない軍事的手段があるとのマティス国防長官の発言などを考慮すれば、北朝鮮の第6回核実験核実験成功と日本を飛び越え3700km飛行した「火星12号」ミサイル発射後に米国首脳の選択肢はほぼ固まったように見える。

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▲写真 ティラーソン米国務長官 出典:United States Department of State

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▲写真 マティス米国防長官 出典:the White House

ホワイトハウスのマクマスター国家安保補佐官も「必要であれば軍事的選択肢の準備に早急に取り掛からねばならない」と述べた。

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▲写真 マクマスター米国家安保補佐官 出典:U.S. Army Public Affairs

外交的圧力の効果を高めるための駆け引との見方もあるが、以前とは異なり軍事オプションを含めた圧力路線に的を絞ったものであるのは間違いない。

 

・軍事オプション発言の背景に軍事行動支持世論

米世論調査会社ギャラップは9月15日、北朝鮮の核・弾道ミサイル問題で平和的解決が不可能となった場合、米国民の58%が軍事行動を支持すると回答したとする調査結果を発表した。2003年1月に行われた同様の調査では47%だったが、今回は過半数に達した。

調査は、北朝鮮が6回目の核実験を強行した後の9月6~10日に電話で行われ、1022人から回答を得た。党派別では共和党支持者の87%が軍事行動を支持したのに対し、民主党支持者では37%にとどまった。無党派層の軍事行動支持は56%だった。

外交・経済的圧力を通じた平和的解決は「可能」であるとの回答は50%で、03年調査の72%から大幅に下落した。今回の調査で平和的解決は「できない」との回答は、03年調査比で25ポイント増の45%だった。

一方、北朝鮮が向こう6カ月の間に米国を攻撃する可能性については59%が「恐らくない」と答えた。

ギャラップの調査担当者は「米国民が今後、平和的解決への取り組みは無駄と判断した場合、先制軍事行動を支持する声は上昇するだろう」と予測した(産経新聞2017・9・16 )。

 

・「米国人避難作戦」の米実務者が訪韓

米国のエリザベス・コードレイ国防次官補代理(計画担当)が、北朝鮮による6回目の核実験直後に訪韓し、韓国に居住している米国人の避難作戦(NEO)を点検していたことが19日までに分かった。そのため「米国が北朝鮮に対する軍事行動を準備しているのではないか」との観測も出ている。在韓米軍はコードレイ氏の来韓について「定例の点検活動の一環」と説明した。

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▲写真 エリザベス・コードレイ国防次官補代理(計画担当)“Deputy Assistant Secretary of Defense for Plans“ 出典:U.S. Department of Defense

コードレイ氏は9月13日、大邱にある在韓米軍の第19遠征支援司令部を訪問し、サリバン司令官との会議に臨んだという。コードレイ氏は在韓米軍の対北任務・防御・準備態勢などについて話し合った後、在韓米国人の避難作戦と前方移動作戦についても理解を深めたという。第19遠征支援司令部は、在韓米軍の戦闘部隊を支援する部隊で、憲兵・輸送・装備部隊などがある(朝鮮日報日本語版2017・9・19付記事

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▲写真 在韓米軍の第19遠征支援司令部(19th Expeditionary Sustainment Command)ジョン・サリバン司令官とエリザベス・コードレイ国防次官補代理 Photos by Sgt. 1st Class Vincent Abril, 19th ESC Public Affairs

 

・猛烈に反発する金正恩、異例の声明を発表

こうしたトランプ大統領の国連総会の基調演説に対して21日、金正恩委員長は党中央委員会の庁舎で初めてとなる異例の国務委員会(最高権力機関)委員長声明を発表し「トランプが世界の面前に出て国家の存在自体を否定し、侮辱して我が共和国をなくすという歴代最も暴悪な宣戦布告をしてきた以上、我々もそれに相応した史上最高の超強硬な対応措置を深重に考慮するだろう」と話した。

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▲写真 金正恩北朝鮮委員長 Photo by petersnoopy

また、彼は「私は朝鮮民主主義人民共和国を代表する人として我が国と人民の尊厳と名誉、そして私自身のすべてをかけて我が共和国の絶滅を口にした米国統帥権者の妄言に対する代価を必ず支払わせるだろう」と明らかにした。

そして「私はトランプが我々のどの程度の反発まで予想してそのような奇怪な話を吐きだしたのかを考えている」とし「トランプが何を考えようが、それ以上の結果を目のあたりにすることになるだろう」と主張した。

米朝の緊張はいよいよ最終段階を迎えつつあるようだ。この対決はどちらかが譲歩するまで続くと思われるが、国際社会から孤立を続ける金委員長が勝利する可能性は極めて低い。

「覚悟決めた米日、迷走する韓国」(下)に続く。全2回)

トップ画像:国連グテーレス事務総長主催の昼食会で乾杯する米トランプ大統領 2017年9月19日 出典/United Nations Photo 

 

 


この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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