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.国際  投稿日:2018/3/11

虎・象、インドネシアで野生動物殺害


大塚智彦(Pan Asia News 記者)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

インドネシアで希少動物が相次いで殺される事案が発生。

オランウータン殺害に国際動物保護団体も大きな衝撃。

・密猟に関して警察や軍が取り締まり強化。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=38883で記事をお読みください。】 

 

インドネシアで2018年1月から野生動物、それも希少動物で保護対象になっている動物が相次いで殺される事案が起きている。インドネシア政府が保護の重要性を改めて訴えるとともに警察は犯人逮捕に全力を挙げている。

殺害されたのはスマトラ島にしか生息していないスマトラ虎スマトラ象、さらにスマトラ島北部とカリマンタン島(マレーシア名ボルネオ島)でしか確認されていない人間に最も近い霊長類といわれるオランウータンで、いずれも絶滅が危惧される希少野生動物としてインドネシア政府によって殺害はもちろん、捕獲、密売も禁止されている。

3月4日、北スマトラ州のハトゥパンガン村というところで、住民に殺されて内臓を抜かれたスマトラ虎の死骸が建物の天井につるされているのを自然保護関係者や警察官が発見した。地元の住民にとってスマトラ虎は普段滅多に目にすることのない超自然的な存在として恐れ、崇められていたため、目撃した住民らが追跡していたところ、スマトラ虎が逆に住民を襲撃、住民2人が重傷を負ったという。このため住民らがスマトラ虎の殺害を計画、自然保護関係者などの警告を無視して殺害してしまった。そして内臓を抜いて建物の天井に吊るされたという。

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▲写真 スマトラ虎 flickr : Cliff

2月12日にはスマトラ島南部のウェイカンバス国立公園内でレンジャーがメスのスマトラ象の死骸を発見した。同月14日に環境森林省が明らかにした声明によると、象は5発の銃弾を浴びて死亡しており、歯、牙、鼻など体の一部が失われていたという。地元警察はレンジャーと協力して象を射殺した容疑者の行方を追っている。

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▲写真 スマトラ象 出典:National Park Service NPS Photo/ M. Flora

スマトラ象については2017年12月27日にスマトラ島北部のアチェ州東部にあるパームオイル(椰子油)農園の中でメスのスマトラ象の死後約10日の死骸が見つかっている。死骸のメスは妊娠13か月で、推定年齢は約25歳という。以前、付近の村の住民が「大切な肥料を象に食べられてしまった」と不満を口にしていたとの証言から、捜査当局は「何者かによって毒を盛られて殺害された可能性がある」との見解を示しているが、犯人逮捕には至っていないという。

 

■ 森の人も相次ぎ殺害、損壊も

1月下旬、カリマンタン島の中部カリマンタン州南バリト県で自宅敷地内に侵入したとして住民2人がオランウータンを射殺、首を切断して近くのバリト川に遺骸を放置した。

また、2月上旬には同じカリマンタン島の東カリマンタン州クタイ県で、農地を荒らしたオランウータンを農民5人が空気銃で殺害、警察の検視の結果、オランウータンの体内からは130発の銃弾がみつかる事案も起きている。

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▲写真 カリマンタン島のオランウータン flickr : Marc Veraart

オランウータンについては2017年12月にスマトラ島北部で新種が発見されるなど世界的なニュースになったこともあり、保護運動が高まりを見せていただけに、この2件のオランウータン殺害は、インドネシア政府だけでなく国際的な動物保護団体にも大きな衝撃を与えた。

 

■ 人間との共存が大きな課題

スマトラ虎は推定で300~500頭が生息しているだけで、熱帯雨林の奥深くを生活圏としている。またスマトラ象は推定で2400~2800とみられている。オランウータンはスマトラ島北部で約9200頭、カリマンタン島で12,300~15,500頭と推定されている。

オランウータンに関しては2月15日付けの米科学誌「カレント・バイオロジー」に「1999~2015年の16年間に生息数が約15万頭減少した」として絶滅の危機にまさに瀕している種である、との研究結果が発表されている。

いずれの野生動物も、インドネシアの地方で進むパームヤシの開発や紙パルプ生産のために伐採、開拓が進む森林、原生林によって生態系が破壊されているという現実がある。

その結果、餌を求めて畑や農園に出没せざるをない環境がある。環境森林省はスマトラ島、カリマンタン島に新たに74か所のコールセンターを設置するとともに自然保護・野生動物保護の専門家を派遣するなどして「野生動物への理解を深め、決して殺害することのないように」と保護を求めている。

さらに野生動物減少の大きな原因である密猟に関しても、警察や軍の協力を得て取り締まりを強化している。かつては密猟した希少動物はジャカルタなどの富裕層が「珍しいペット」として飼育していたり、国際的な密輸ルートで海外に動物園や愛好家に高額で売られたりしていた。

しかし近年は、虎や象、オランウータンといった大型動物は密輸が難しくなり、その場で殺害して中国の漢方薬の原料になる臓器、高額取引される象牙などだけが持ち去られるケースと単に農地を荒らしたというような理由で殺害するケースが増えている。

トップ画像:虎を狩ってポーズをとる住民ら バンタン・インドネシア 1941年 出典 国立世界博物館


この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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