オリパラ・ボランティア募集の意義 東京都長期ビジョンを読み解く!その62
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
【まとめ】
・東京2020大会ボランティアの募集開始をめぐり批判噴出。
・ボランティアは経験からの「気づき」が成長のきっかけになる。
・日本社会の「自主性」培う壮大な社会実験として意義深い機会。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=42352でお読みください。】
東京五輪・パラリンピック、ボランティア募集が開始された。広瀬すずさんのCMもとってもかっこいい。しかし、世間は、批判のオンパレードである。
「12月までの2ヶ月で11万人集めるわけない!」
「ブラックボランティア!搾取!」
「交通費1000円しか払わない」
「重要な業務をボランティア」
「組織委員会の幹部の年収は?」
「広告代理店どうにかしろ!」
「総額100億円のアルバイト代を浮かせる?」
「5500億円をもらってんだから!」
といったものだ。
感情的なものが多い。中には、「学徒出陣」、「権威主義社会」、「1%貴族のためのものだ」など、社会論まで発展するものもある。確かに、そう考えるのも自然。しかし、正しいのか。
▲写真 ボランティア 出典:flickr(by ANDR3W A)
いつも東京五輪を厳しく批判してきた私だが、今回は言わせてもらう。ボランティア募集、集まるかどうかは別として、とってもいい機会と思っている。なぜなら、「東京 2020 アクション&レガシープラン 2017」にはその意味が明記されているのだ。みんなわかってる????
■ アクション&レガシープランで言われていること
そもそも、日本にはボランティアに関しての考え・議論がまだ不足している。そもそも、みなさん経済的な合理性(労働の対価は?といった)、損か得かという価値観で行われる主張ばかりだ。「東京 2020 アクション&レガシープラン 2017」を見てみよう。「アクション」の1つとして「参加の機会・活躍のチャンスの創出と大学連携等の推進」と明記している。詳細は以下。
認識: 重要なことは、若者がチャンスをつかむこと、そして、彼ら自身が当事者であるという意識を持つことです。将来を担う若者が、東京 2020 大会の様々な場面で、自らの役割を見つけて活躍することは、自分たちが、将来の国際社会や地域社会で活躍していくに際して、必ずや貴重な経験となります。また、組織委員会と全国の大学が連携し、それぞれの資源を活用してオリンピック・パラリンピック教育の推進やグローバル人材の育成、大会機運の醸成等に取り組む「大学連携」(平成29年度において795校と連携協定を締結)を推進していきます。
アクションの例: 学生や児童生徒による大会運営ボランティアや大会に関連する活動への参画
まさにその通り。
■ ボランティアをやらない・やる気もない外野が批判すること?
正直、ボランティア経験が少ないひとほど、厳しく言っているように見えるというのは言い過ぎだろうか。アムネスティ日本をはじめ長年、ボランティア経験が豊富な筆者が断言しよう。ボランティアをすることのメリットは数多い。
・普通出会わない人と出会う
・ボランティアを通した社会貢献をしたような嬉しい気持ち
・ちょっとした声かけ、交流を通した自己肯定感
・皆で一緒に支えあう、その一員としての誇り・共感
・世界的イベントに何かしらでかかわれる経験
・消費者・利用者という視点やいつもと違った目線から考えるきっかけ
他方、ボランティアに悩まされた経験もある身としては、様々な現実を見ることにもなる。本当に心から頑張る人、身勝手な人など様々な人がいることも気づく。こうした経験からの「気づき」が成長のきっかけになるのだ。
▲写真 2012年ロンドン大会で清掃にあたるボランティア 出典:flickr(by Don Byatt)
■ 新たな時代の社会づくり
日本には権威主義的な形での地域共同体、組織内マネジメントがまだまだ多い。内田樹さんではないが「他人が落としたごみを拾う人」はそう多くはいない。みなさん、なんとなく、組織や会合で責任を引き受けたり「せざるを得ない」のが現状。そこでは、「空気」が支配し、個人の自主性に関係ない奉仕、我慢あふれた「苦役」が目立つ。
そこにないのは、「自然な形でのちょっとした活動」「負担や苦役にならない自主性」。日本社会の「我慢」の文化は平成で終わりにしたいもの。単なる「盛り上がるイベント」という商業イベントを壮大な社会実験としてやってみるのも意義深いと思うのだが。
トップ画像:9月26日、東京2020大会へのボランティア募集開始 出典 東京ボランティアナビ公式ホームページ
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。