.国際  投稿日:2018/10/25

憤る米国、南北同時制裁も

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朴斗鎮(コリア国際研究所所長) 

 

【まとめ】

・中露と足並み揃え「対北制裁緩和」主張の韓国と米国の亀裂鮮明に。

・南北軍事境界線上空の飛行禁止区域設定に米国の怒り拡大。

・「韓国は北朝鮮側」と見切った米国、「南北同時制裁」の可能性。

 

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対北朝鮮制裁の緩和・解除で南北関係の進展を急ぐ文在寅政権と、文在寅政権の「前のめり」に不満をもつ米国との対立は8月ごろから表面化した。キッカケは、国連安全保障理事会による北朝鮮制裁決議によって全面禁止されている北朝鮮産石炭9,156トンがロシア産と偽って韓国に輸入されていた事実が明らかになったことだ(7月17日)。

こうした事態に対処するために、マーク・ランバート米国務省東アジア太平洋副次官補代行がソウルを訪問した。7月26日午前8時30分から1時間ほど鍾路区駐韓米国大使館で、南北経済協力企業関係者と懇談会を持ち、「一部の例外が認められたからといって、北朝鮮に対する制裁が解除されたなどと誤解しないように」と米国政府の警告性メッセージを伝達し、「対北朝鮮経済協力に前のめりにならないように」と釘を刺した。

この懇談会には、コレイル(鉄道)、KT(通信)、ポスコ(製鉄)、コーロン(産業素材)、ハンラ(健設)と開城工業団地企業協会など南北経済協力企業関係者15人が参加した。参加者によると、ランバート代行はかなり強硬な口調だったという。

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写真)マーク・ランバート米国務省米国務省次官補代理代行と拉致被害者の家族ら 2018年9月17日
出典)アメリカ大使館Twitter

だが、文在寅政権は米国側の警告にも関わらず、中露と足並みをそろえて米国を無視する形で「制裁緩和」を主張し続けている。韓国政府の前のめりに苛立ちを強めたトランプ政権は、それにブレーキをかけようと、ここにきて「南北同時制裁」の姿勢まで見せ始めた。

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写真)ワーキングディナーに臨むポンペオ米国務長官と韓国の康京和外相(2018年10月7日 ソウル)
出典)韓国外務省ホームページ

 

1、南北鉄道・軍事合意・対北制裁解除…ことごとくぶつかる米韓

9月に入っての開城工業団地内の南北共同事務所の開所(14日)、南北鉄道連結事業(着工式11月末か12月初)、板門店宣言の履行に向けた南北軍事合意書履行(11月1日から実施)、韓国の独自制裁に対する解除の動き(10月10日の国会)、これらに対する米韓の立場の違いが鮮明となり、その範囲も急拡大する様相を呈している。

とりわけ9月に平壌(ピョンヤン)で開かれた「9・19南北首脳会談」での軍事分野の合意に米国は極めて強い不快感を持った。この合意内容に対する韓国側からの詳細な事前説明や協議がなかっただけでなく、南北軍事境界線上空を飛行禁止区域に設定したことが深刻だった。

これまで米韓両国軍は、この地域の上空に随時偵察機などを飛ばして北朝鮮軍を監視してきた。これが封鎖されれば、北朝鮮を監視する主要な目が塞がれることになるからだ。米国のポンペオ国務長官は、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外交部長官に怒りの電話で詰問したという。

さらに10月10日の韓国国会国政監査で、康京和長官が「5.24措置(2010年の天安艦撃沈に対する対北独自制裁)の解除を検討中」と発言したために米国の怒りはさらに拡大した。中露の動きで弱体化しつつある制裁包囲網に穴があくからだ。この発言には国務省だけでなく、トランプ大統領も即座に反応した。

トランプ大統領は10日(現地時間)、「彼ら(韓国)はわれわれ(米国)の承認なしに(対北制裁を)解除しないだろう」と述べ、国務省は「われわれがその地点(非核化)に早く到達できれば、より早く制裁を解除できるだろう」とコメントし、北朝鮮の非核化前に制裁の解除はしないとの原則を再度明確にした。北朝鮮の非核化が口先だけの状況にある現在、制裁解除を検討するのは早すぎるということだ。

 この日の米国務省の定例記者会見では、記者から「(トランプ)政権内には『韓国は現在進行中の(非核化)プロセスで北朝鮮に傾倒し過ぎている』という認識があるのか」との質問が飛び出した。パラディーノ副報道官は「われわれは緊密に調整している」と答えたが、これに対し、さらに「それは、あらゆる面で同意するという意味ではないのではないか」と質問されると、「われわれ(米韓)は互いに率直に話しているため、さまざまなことを成し遂げる可能性がある」と述べた。外交の世界では「率直に(frankly)話す」という表現は、意見の隔たりが大きいという意味に受け止められる(朝鮮日報日本語版2018/10/11 )。

ウォールストリート・ジャーナルも米韓対立を報道

 米紙ウォールストリート・ジャーナルは10月18日付で「対北朝鮮政策をめぐって韓国と米国が争っている」と報じた。

 その背景について「韓国と北朝鮮が合意した鉄道の連結、南北共同連絡事務所の設置、文在寅大統領による9月の平壌訪問、文大統領により最近相次ぐ制裁緩和発言などがそのきっかけになった」と指摘した。

 米国でこのような報道が相次いでいるにもかかわらず、韓国外交部は18日「板門店宣言」と「平壌共同宣言」について「これらを実行に移すための努力は国際社会における制裁の枠を順守しながら行われており、そのプロセスにおいて韓米両国は緊密に連携し協議を続けている」と主張した。

また、「トランプ政権の高官が韓国に対し、経済協力のリストと具体的なスケジュールを事前に提示し、制裁に違反する可能性がないことを確認するよう要請した」と指摘した朝鮮日報の報道についても「事実に合致しない。報道の細かい内容や事実関係について細かく言及しない」などとコメントした(朝鮮日報日本語版2018/10/20 )。

最近の韓国政府発表には、不都合な事実を糊塗する傾向があるのでこうしたコメントを鵜呑みにすることはできない。

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写真)北朝鮮寄りの姿勢を強める文在寅大統領と金正恩委員長(2018年9月20日 白頭山総合公園)
出典)韓国大統領府facebook

 

2、韓国を北朝鮮側と見切った米国、南北同時制裁へ

 

韓国国内の雇用が大きく悪化し、経済成長が低迷しているにもかかわらず、「南北関係第一主義」で突き進む韓国では、文在寅大統領と南北関連閣僚だけでなく、経済閣僚までが、対北朝鮮制裁緩和促進を優先している。

金東兗(キム・ドンヨン)経済副首相は、国際通貨基金(IMF)や世界銀行の総裁と会談した際、自国の経済をさておいて「北朝鮮は改革・開放を進めているので、国際社会の一員となるよう積極的な役割を果たしてほしい」と要請した。これでは米国が、「韓国は北朝鮮側についた」と判断するのは当然のことだ。

米国だけではない。国際社会も韓国が北朝鮮側についたとの認識を深めている。フランスのルモンド紙は文在寅大統領の欧州歴訪を伝える記事の中で、「文大統領がフランスに来る理由は、北朝鮮の立場を支持するためだ」とはっきり指摘した(朝鮮日報日本語版2018/10/15)

こうした流れの中で、9月の南北首脳会談直後には米財務省(財務次官)が、駐米韓国大使と韓国の当該機関に通知した上で、ニューヨーク支店で送金・振込・両替などの取引を扱っている韓国の産業、企業、国民、新韓、農協、ウリィ、ハナのそれぞれの銀行に電子メールと直接の電話を通じて、対北朝鮮制裁を順守するよう要請(警告)していたことが(韓国の国会国政監査過程で)明らかになった。

米財務省は、現状を確認した上で「あまり先走るな」という趣旨の要請を強い口調で伝えたが、要請を受けた銀行は震え上がったという。もし(韓国の銀行が)北朝鮮との取引に関与すれば、米国政府の制裁対象になる恐れがあるからだ。

これまで米国は、相手を明確にせず「北朝鮮に対する制裁を緩めてはならない」と何度も警告してきたが、最近はこのようにその対象が韓国であることを隠さなくなった。

北朝鮮に対する制裁を巡っての相次ぐ一連の出来事は、米国が韓国を事実上の「制裁の抜け穴」と考え、「南北同時制裁」に踏み切る覚悟を見せたものと解釈される。

                                       

トップ写真)米韓首脳会談(2018年9月24日 米・ニューヨーク)
出典)The White House flickr

 

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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)など。

朴斗鎮

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