中国製戦闘機を買うメリットとは
文谷数重(軍事専門誌ライター)
【まとめ】
・空自が検討している新戦闘機案は性能、納期、価格の問題を抱える。
・F-35増勢を選択しても高価格により数は揃わない。戦闘機数は減少し対中軍事力比率は悪化。
・JF-17(中巴共同開発)のような低価格機を併用すべきである。
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空自の新戦闘機選定が迷走している。F-2、F-15後継機選定について国産開発、共同開発か、導入中にあるF-35への置き換えのいずれにも決めかねている。
だが、どれを選択しても戦闘機戦力は縮減する。鉄板なF-35を選んでも価格から調達数は確保できない。戦闘機戦力は350機から200機に減る。当然ながら戦闘機数での対中戦力比も大幅悪化する。
では、どうすればよいか?
安価な戦闘機を併用導入すべきである。例えば中国製JF-17だ。それをF-35と並行して導入し使い分けることだ。
▲図 併用比率と整備数
■ 新戦闘機はいずれも穴がある
新戦闘機案はいずれも穴がある。これは性能、納期、価格でみれば理解しやすい。
純国産開発は最悪だ。性能、納期、価格と全てが不出来となる。これは先例が示すとおりだ。例えばF-2戦闘機はコピー元のF-16と同性能ながら納期は遅延、価格は倍以上になった。偵察ヘリOH-1や輸送機C-2でも失態を繰り返した。
共同開発もあまり改善しない。海外企業と組むため性能は満たせる。だが納期と価格は解決しない。航空機開発は遅延と価格上昇は常識だ。
F-35増勢は現実的だが価格問題を解決し得ない。日本における調達単価は概ね150億円前後である。これはF-2、F-15の1.5倍だ。
▲写真 F-35。新戦闘機としてはF-35増勢が一番まともな選択肢である。最もリスクは少なく見積もりの2倍3倍する開発費用を積む必要はない。 出典:米空軍写真(撮影:Mark C. Olsen)(public daomain)
■ 対中バランスが悪化する
価格はどうしても解決し難い。そういうことだ。
結果、何が起きるか?
戦闘機戦力が急縮減する。現状はF-4、F-15、F-2合計で約350機である。日本はその調達に累計3.1兆円を投入した。だがF-35はいずれの機体よりも高い。同一予算規模では200機しか買えない。
これは中国との対峙にとって不都合である。
戦闘機比率は現状で3対1である。数え方次第だが中国海空軍は実用戦闘機を約1000機弱保有する。対してF-4を除外した日本戦闘機数は約300機である。それが5対1に悪化する。F-35導入でも日本戦闘機数は200機になる。国産開発や共同開発はさらに悪化する。
これは防衛力整備での問題となる。主眼としている対中バランシングが破綻するためだ。
■ 低価格機の併用
では、どうすればよいか?
低価格機を併用すればよい。それをF-35と組み合わせて使う。
具体的にはJF-17、韓国のFA-50、台湾の経国クラス、一品下るが中国JL-9である。これらの機体は低価格ながらそれなりの性能を持つ。実用には充分耐える。
▲写真 経国。台湾が自製した双発軽戦闘機。F-16と練習機兼用攻撃機の中間からやや戦闘機よりの位置にある。(撮影:Toshiro Aoki)CC BY-SA 3.0(public domain)
併用による利点は次の3つ。第1は数が揃うこと。第2はF-35を雑用から解放できること。第3は運用コストも下げられることだ。
■ 300機台を維持できる
第1は安価なため数が揃う利点である。特にJF-17は安い。輸出価格で30億円程度、グレードによっては25億円程度まで下がる。
これは戦力維持には都合がよい。高価格機導入で空く大穴を塞げる。予算規模3.1兆円とした場合、F-35単一装備では空自は戦闘機200機に縮小する。だがF-35とJF-17を1対1で整備すれば空自は350機を維持できる。1対0.5でも280機が維持できる。
しかも高級機数はあまり縮小しない。F-35は206機からそれぞれ187機、172機になるだけだ。10~15%減にとどまる。
■ F-35は雑用から解放される
第2はF-35を重要任務に専念させられる利点だ。
二線級の仕事を安価機に割り振ればそうなる。例えば東日本防空である。脅威度は低く大型機しかこない。全国各基地でのスクランブルもそうだ。行政的な国境警備であり高性能機はいらない。
それによりF-35は雑用から開放される。対中正面や海外派遣といった重要用途に専念できるのだ。
逆にいえば、そうしなければ雑用にも高級機を充てなければならない。仮に東日本防空で4基地に20機づつを配置すればそれだけで80機だ。200機空軍にとって戦力の4割に相当する
■ 運用コストを低減できる
第3が運用コスト節減だ。低価格機は運用経費も安い。
F-35の運用コストは1時間あたり1.7万ドルである。これは米軍の数字だ。
対して低価格機は半額以下となる。運用経費7500ドルのF-16よりもおそらく安い。JF-17についてT-38練習型の倍とみても6000ドルである。
このため併用により経費は節約できる。F-35とJF-17を1対1で配備した場合、総運用コストはF-35単一編制との67%となる。雑用任務を低価格機に負担させれば利益はさらに増す。F-35とJF-17の飛行時間が1対2になればコストは50%に下がる。
余慶はどう使ってもよい。飛行時間を増やしてもよいし部品等を購入してもよい。
ちなみに、この観点からすればF-15改修案は割に合わない。運用コストは1時間あたり2.1万ドルもする。改修に膨大な費用かけても性能はF-35より低く運用コストは高い。そのような結論となる。
■ パイロット数は確保できる
以上が低価格機を併用する利点である。JF-17ほかの低価格機を併用すれば戦闘機戦力問題は緩和できる。
なお、パイロット数は確保できる。「人口減から空自隊員は減る。戦闘機パイロットも不足する。だから戦闘機数は減らすしかない」は誤りだ。
まず人口減においても空自隊員数は急減しない。優先度から陸自を減らし海空自に傾斜配分するからだ。
またパイロット希望者も不足しない。身体検査を緩和し養成段階での落第を減らせば現状数は維持できる。
そして自衛隊は無理をしても配員する。必要な配置はそうする。これは潜水艦をみればよい。海自は人員不足であり潜水艦は希望者は少ない。だが対中対峙に必須な潜水艦は増やし乗員も完全充当している。
*なお、仔細は『軍事研究』の先月号に尽くしている。
文谷数重「F35のお供には中国産JF-17」『軍事研究』632(ジャパンミリタリレビュー,2018.11)pp.81-91.
トップ画像:JF-17 中国パキスタン共同開発の戦闘機。性能的にはパキスタンが保有するF-16初期型よりも優れるとされる。価格は極めて安い。出典:中国航空工業有限公司ウェブページの「業務領域」
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この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター
1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。