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.国際  投稿日:2018/12/29

対北、軍事オプション復活も~2019年を占う~【朝鮮半島】


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

再び「米朝張状態への回帰」の方向に動く可能性高し。

北朝鮮、対話による「核兵器完全廃棄」に応じない場合軍事オプション復活も。

韓国は「北朝鮮非核化」巡り米側か北朝鮮側か、選択迫られる。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=43419でお読みください。】

 

朝鮮半島情勢は、2019年も米朝関係中心に展開することが予想されるが、金正恩委員長の非核化措置履行、すなわち「核兵器の申告」があるか否かがキーポイントとなるだろう。

2019年米朝非核化交渉のシナリオとしては、

金正恩の核申告履行で順調な「米朝非核化対話」の進行

交渉の停滞で再び米朝緊張状態への回帰

トランプ大統領の無原則な妥協で北朝鮮の核保有実質認定

の3つが考えられるが、今もって「第2回米朝首脳会談」のための高位級実務会談が行われていない状況であることから、どの方向に進むかは不透明な状態である。もしも2019年前半に意味のある米朝会談がもたれない場合、朝鮮半島はの「再び米朝緊張状態への回帰」の方向に動く可能性が高まると考えられる。

米国は3月までは交渉の雰囲気作りのため、韓米合同訓練である「キー・リゾルブ」「フォールイーグル」訓練は延期すると思われるが、7月までに進展がなかった場合、中止されている8月の「乙支フリーダムガーディアン(UFG)訓練」再開に踏み出す可能性が高い。北朝鮮がこれを口実に長距離ミサイルの追加実験などに出た場合、2017年のような対立激化局面が避けられなくなるだろう。

 

■ スティーブン・ビーガン特別代表の発言に注目

米国務省のスティーブン・ビーガン対北朝鮮特別代表は2018年11月20日、李ドフン韓半島(朝鮮半島)平和交渉本部長との単独会談を行い米韓ワーキンググループ実務陣との全体会議を進める中で、「米朝交渉の推進派も(米国)国内で政治的に追い込まれているうえに、民主党が下院多数党になり、このように時間が流れることを待っているわけにはいかない」との立場を明らかにし、「(米朝対話の)窓が閉められている」という発言を行った。

▲写真 ポンペオ国務長官とスティーブン・ビーガン対北朝鮮特別代表 出典:flickr U.S. Department of State

「窓が閉められている」との表現は過去に緊迫した状況で使われたことがある。ジョージ・W・ブッシュ政権時代の2003年1月28日、米国のジョン・ネグロポンテ国連大使が「外交的解決のために開いていた窓が閉められている」と話したが、それから約2カ月後(3月20日)に米国はイラクを侵攻した。

もちろんトランプ政権が北朝鮮の不誠実な態度に反発して直ちに北朝鮮に対する軍事行動を準備する可能性は低いと思われるが、「機会の窓」発言はトランプ政権内部で強硬圧迫論が頭をもたげていることを示唆するもので注目が必要だ。

 

■ 制栽強化だけでなく軍事オプション復活の可能性も

北朝鮮が対話による「核兵器の完全な廃棄」に応じない場合、制裁強化とともに軍事オプションの復活も否定できない。しかしそうした行動には文在寅政権が必死に妨害することは明らかだ。そのために米国はいま、韓国軍を動員しない方法でのミサイル基地破壊と「金正恩除去(レジームチェンジ)」訓練を強化し始めている。

ミサイル基地破壊訓練としては、11月19日に米国ユタ州ヒル空軍基地で史上初のF35A 60機によるミサイル基地破壊訓練「エレファントウォーク」が実施された。この訓練は、中国やロシアを想定したものだとしているが、実は北朝鮮のミサイル基地、特には移動式ミサイル発射台を壊滅する訓練であった。

▲写真 F-35A combat power exercise conducted at Hill AFB 出典:U.S. AIR FORCE

金正恩除去作戦も同時に準備されている。在日米軍基地を活用した韓国軍を使わない「斬首作戦体制」の構築だ。そのために上陸用強襲揚陸艦「ワプス」(1989年就航、41500トン)を2014年就航の強襲揚陸艦「アメリカ」(44900トン)に交代させる。「アメリカ艦」は海上上陸作戦用の「ワプス艦」とは違い、特殊部隊含む海兵隊と輸送機オスプレイ、スーパーコブラ戦闘ヘリ、重量輸送ヘリのシー・スタリオン(CH-53)、対潜水艦ヘリ、偵察ヘリ、そしてF35Bステルス戦闘機など、空からの潜入に特化した最新鋭武器を搭載している。

 

■ 韓国パッシングで米朝直接交渉へ移行も

金正恩にオールインした「仲裁者文在寅大統領」の「北朝鮮非核化交渉」での影響力は低下するだろう。数々の「ウソ連発」で国内的にはすでにレイムダック化していが、米国に対しても「朝鮮半島の非核化」は「北朝鮮の非核化」だと伝え、「金正恩が1年以内に非核化すると約束した」などと欺瞞したために、韓国パッシングで米朝交渉から排除される可能性もある。

▲写真 文在寅韓国大統領 ホワイトハウスでトランプ大統領と共同記者会見(2017年6月30日)出典:Wikipedia

韓国の民間シンクタンク、峨山政策研究院は12月19日に「2019年国際情勢展望」と題したリポートで「韓国が来年も北朝鮮問題ばかりに集中すれば、北東アジアのパワーバランスが変化する過程で『コリア・パッシング(韓国外し)』が現実化する恐れがある」と指摘した。

2019年、韓国は「北朝鮮非核化」をめぐって米国と北朝鮮のどちらの側につくのかの選択を迫られることとなるだろう。

金正恩委員長が核兵器の申告に踏み出すか否か、トランプ大統領が、これまでの「先核兵器申告」の原則を守れるかどうか、2019年朝鮮半島の行方はこの二人の指導者の決断にゆだねられている。

トップ写真:金正恩委員長とトランプ米大統領 出典:Wikimedia Commons


この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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