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.国際  投稿日:2019/2/9

トランプvsべゾス 対立と融和の愛憎


岩田太郎(在米ジャーナリスト)

【まとめ】

・ベゾス氏、不倫に関しアメリカン・メディアから脅迫受けたと明らかに。

・トランプ氏に批判的な新聞の社主べゾス氏への政権側の脅迫との見方浮上。

・べゾス氏とトランプ氏の敵対は実は表面的なものに過ぎない。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44058でお読み下さい。】

 

米ネット通販大手アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)が2月7日、自身のダブル不倫に関して、タブロイド紙『ナショナル・エンクワイアラー』の出版元アメリカン・メディアから、「局部が写ったものも含めたプライベートな写真を公表する」という脅迫を受けたと明らかにした。

アメリカン・メディアのデイビッド・ペッカーCEOは、トランプ大統領の数々のスキャンダルのネタ元を買収してもみ消す役割を演じてきた人物として知られる。

▲写真 デイビッド・ペッカーアメリカン・メディアCEO 出典:American Merdia, Inc.

このため、しばしば大統領に不利な報道をすることでトランプ氏の不興を買っている米『ワシントン・ポスト』紙の社主であるベゾス氏に、「大統領について悪いことは書くな」というメッセージを暗に伝えるための、政権側の脅迫ではないかとの見方が出ている。

これに対して、子供4人をもうけて25年連れ添った元妻のマッキンジーさんに1月に離婚されたベゾス氏は、みだらな写真やテキストメッセージについて、自身が浮気相手の元ニュース番組アンカーで、夫や子供のいるローレン・サンチェス氏に送ったものであると認めた。

▲写真 ローレン・サンチェス氏 出典:flicker: Keith HInkle

その上で、「ゆすりや脅迫に屈しない」と述べ、全面対決の姿勢を見せている。そのため、欧米メディアは「世界一の資産家であるベゾス氏が米大統領と対峙する構図だ」との見立てを伝えている。

一方、連邦検察当局は、アメリカン・メディアの脅迫による犯罪行為の可能性も視野に調査を開始している。

 

■ フェイクニュースのジェフ・ベゾス

今回の写真流出に関してベゾス氏は、「ワシントン・ポスト紙の買収が、私に複雑な状況をもたらした」と告白している。同紙がトランプ大統領の矛盾や行動に批判的で、そのためにトランプ氏が同紙オーナーのベゾス氏をツイッターなどでこき下ろしてきたからだ。

こうした構図の中で、トランプ氏に近いペッカー氏が「忖度」をしてベゾス氏の不倫ネタや写真を入手し、脅迫状を送付することになったとの見立てだ。

ベゾス氏は、「トランプを(自身の運営する宇宙企業「ブルー・オリジン」のロケットで)宇宙に放出してやる」などと過去に発言したこともあり、明らかに恨みを買う立場にあった。

一方のトランプ大統領は、「ワシントン・ポスト紙はクソ新聞」「ベゾスの新聞はアマゾンの税逃れのために運営されている」「同紙はフェイクニュースだ」などの発言を繰り返してきた。2人は、メディアという戦場では「宿敵」なのだ。

さらに、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いで、ベゾス氏が経営するアマゾンまでも攻撃する。たとえば、「ベゾスのアマゾンは独占禁止法違反だ」「アマゾンにインターネット税を支払わせるべきだ」「アマゾンは注文を受けた商品に対する州税を払っていない」「アマゾンは米郵政公社に不当に安く商品を配送させて、何十億ドルものカネを節税している」「アマゾンは不当な競争で多くの小売業者を倒産に追い込んでおり、不公平だ」などのツイートがそれに当たる。

 

■ 実は共通の利益を分かち合う2人

このように、メディアの論調の面では対立しているように見えるベゾスCEOとトランプ大統領だが、その敵対は実は表面的なものに過ぎない。

トランプ大統領は、米中貿易戦争の一環であるテック戦争において、米テクノロジー大手を勝たせなければならず、その中で重要な地位を占めるアマゾンを本気で弱体化させるわけにはいかない。電子商取引やクラウド、さらにインターネット広告で巨大な存在であるアマゾンという米テクノロジー大手の一角が欠けてしまえば、中国のアリババやテンセントは倒せないのだ。

事実、トランプ大統領はアマゾンの「独占禁止法違反」に繰り返し文句をつけるが、2017年に同社による高級生鮮スーパーのホールフーズ買収を認可している。本当に政権がベゾスCEOの会社を「独禁法違反」と見なしているのであれば、アマゾンをさらに大きくさせる許可を出すわけがない。

また、トランプ政権が2017年12月に成立させた包括的税制改革法は、最高法人税率を35%から21%へと大幅に引き下げる一方、高い税率ゆえに米大手企業が海外で税逃れ的に留保していた巨額の利益を米国に持ち帰る際の税率を、さらに低い15.5%にすることで、米テクノロジー企業の財政基盤を数兆億円規模で大いに強化した。

アマゾンに関して言えば、トランプ大統領は「脱税しているのに罰を受けていない」などと攻撃してきた。ところが、税制改革で同社は2018年に7億2300万ドル、2019年には13億ドル、合計20億ドルもの節税ができると試算される。

「脱税」に対する罰どころか、ほうびをもらっている。だから、ベゾスCEOにとりトランプ大統領は「問題」というよりは救世主なのだ。2人の関係は、メディア報道では対立するが、「米国第一主義」の面では緊密に一致しており、ベゾスCEOはそれに乗る「政商」なのである。さらに、脅迫を受ける彼は、脅迫をする者でもあり、現実は複雑なのだ。

 

「被害者ベゾス」と「加害者ベゾス」

アメリカン・メディアに脅迫される「被害者」としてのベゾスCEOは、アマゾンのトップとしてニューヨーク市のロングアイランドシティに設立を計画している第2本社(HQ2)に関して、地元を脅す「加害者」でもある。

アマゾンの幹部は最近、ニューヨーク市の当局者に、「第2本社に対する住民の反対が大きすぎる」として「第2本社建設計画を再考の上、代替案を検討する」と伝えた。

地元政治家が反対を抑えなければ、カネやヒトをもたらさないという、一種の脅迫である。ニューヨーク市やニューヨーク州からアマゾンに提供される約30億ドル(約3300億円)分の助成金と税優遇措置に加え、高収入のIT労働者流入で地元住民の生活コストが急上昇して住処を追われる恐れや、地下鉄や幹線道路のさらなる混雑が予想されるため、住民や一部政治家の反対が高まっているのだ。

貧困層のための地域再開発の助成金が、アマゾン向けに流用される計画への強い住民の憤りは、ほんの序の口に過ぎない。地元選出の民主党の新星アレクサンドリア・オカシオ=コルテス米下院議員も、「アマゾンのやり方は下劣」と批判するなど、第2本社建設前からアマゾンは地元の敵のように見られている。

▲写真 アレクサンドリア・オカシオ=コルテス米下院議員 出典:US House of Representatives

実は、アマゾンが2017年に第2本社建設候補地の選定開始を発表した直後から、こうした非難は続いていた。米『ロサンゼルス・タイムズ』紙の経済コラムニスト、マイケル・ヒルツィック氏は、「アマゾンの手法は、公共福祉の立場から見れば、間違っている。『第2本社』を建設することでアマゾンが自治体から賄賂を受け取るのではなく、本社を置かせてもらえる特権に対して、アマゾンが受け入れ都市に諸費用を支払うべきだ」とこき下ろしている。

こうした経緯もあり、アマゾンは2月7日に、「低所得者層向けの再開発助成金は受けない」と表明する事態に追い込まれた。その中で、第2本社撤退の検討が伝えられたのである。

アマゾンが来なければ、カリフォルニア州のシリコンバレーのようなテクノロジーのイノベーションセンターになろうとするニューヨーク市の「夢」の基幹部分が壊れることになる。その弱みを、ベゾスCEOが突いている。その意味では、彼は「脅迫者」の立場にいる。

しかし、その脅迫が道義的に許されるならば、人工知能(AI)アシスタントのアレクサなどによるユーザーのプライバシー監視や侵害を非難されるベゾスCEOが、局部写真の弱みを握られて脅かされることは、道義的に問題ないということにはならないか。

このように、「被害者ベゾス」と「加害者ベゾス」、そして「トランプの敵としてのベゾス」と「トランプの政治に欠かせないベゾス」を比較検討すると、「トランプの政治に欠かせない政商ベゾス」や「プライバシーや地元開発の加害者ベゾス」が、彼の真実であるように思われるのだ。

トップ写真:ジェフ・ベゾス アマゾンCEO 出典:Seattle City Council


この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト

京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。

岩田太郎

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