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.国際  投稿日:2019/3/29

米、対北朝鮮軍事圧力を強化


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・各国が北朝鮮への「瀬取り」の監視強化。

・米国は新たな軍事作戦行動で北朝鮮へ圧力をかける。

・米の監視・軍事強化に北朝鮮も敏感に反応。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44898でお読みください。】

 

ハノイでの「第2回米朝首脳会談」決裂後、米国は対北朝鮮国連安保理制裁履行の監視を強化するとともに、それと並行して軍事的圧力も再び強化し始めている。

 

■ 制裁破りと「瀬取り監視」の強化

米財務省は3月21日(現地時間)、大連に拠点を置く中国企業が北朝鮮の情報機関、朝鮮人民軍総参謀部偵察局傘下の企業に物資やサービスを提供していたとして、中国の海運企業2社を新たに制裁対象に加えたと発表した。

ムニューシン米財務長官は声明で「北朝鮮との違法な取引を隠そうとしている海運会社は大きなリスクにさらされることを明確にする」と表明した(この直後、トランプ大統領は、ツイッターで新たな制裁強化を中止させたと表明したが、すでに発表されたものではないとされている)。

また米国財務省や国務省は、制裁逃れの取り締まりを強化するため、瀬取りにかかわったとしている18隻、北朝鮮産の石炭を輸出したとみられる49隻の船舶リストも公表した。船籍は北朝鮮だけでなく、アフリカのシエラレオネなど他国のものもある。

北朝鮮との違法な洋上取引(瀬取り)に関わった疑いがある船舶リストに「LUNIS」という名前の韓国船籍の船(韓国政府が嫌疑なしとしていた船舶)が含まれていることも公表した。これについて韓国外交部の当局者は22日、「韓米が注視してきた船であり、国連安全保障理事会の(北朝鮮制裁)決議に違反したかどうかを徹底して調査する」と述べた。また、同省が発表した指針に対する注意を国内の業界に促す予定だと伝えただ。しかし韓国軍は北朝鮮の違法行為を確認してもこれを公表しないため、さまざまな憶測を呼び起こしている。

米国は、「瀬取り」などを徹底的に監視するために沿岸警備隊のバーソルフ警備艦(4500t)を3月初めに佐世保港に配備した。26日には韓国に入った。米本土で作戦する沿岸警備隊の警備艦が韓国内に入港するのは2007年以来初めてだ。一括妥結式の完全な非核化を受け入れるまで、北朝鮮に対する制裁から逃れられないよう強力に履行し、圧力をかけるというトランプ政権の意思が反映された措置といえる。この「瀬取り監視」には英国のモントロース護衛艦(4900t)、フランスのバンデミエール鑑(2600t)も合流する。

▲写真 「バーソルフ」(WMSL-750)2009年撮影 出典:米国国土安全保障省

米軍はこの作戦行動をより完全にするために陸軍所属の「空飛ぶ聞き耳」と言われるRC-12Xガードレイルを韓国に5機追加派遣し10機体制とした。この偵察機は全19機だが、4機は予備として米国に、残りの5機は欧州で展開している。10機を韓国に配備したことを見ても米国がいかに「瀬取り監視」に力を入れようとしているかが分かる。またP-8Aポセイドン哨戒機も配備された。

 

■ B-52出動で軍事的圧力も強化

3月20日、米インド太平洋司令部によると、米空軍のB-52戦略爆撃機2機が19日、グアムのアンダーソン基地から発進して日本列島の東海岸に沿って北上し、津軽海峡を抜け日本海(東海)上空まで飛行し、アンダーソン基地に引き返したことが確認された。

米朝非核化交渉を考慮して、朝鮮半島周辺では展開していなかったB-52爆撃機が朝鮮半島周辺に登場したのは、今年1月の金正恩の中国訪問時と2月の米朝ハノイ会談に合わせた飛行に次ぐ3度目だ。この飛行について、米インド太平洋司令部はホームページを通じて、「国際法と関連規定を順守して行われた該当作戦地域の訓練」と明らかにしたが、今回は様子が違った。

その特徴は、B-52が各種偵察機や原子力潜水艦と連携し、何らかの軍事作戦が行われたと推定されることだ。

 3月19日にB-52が飛来した1時間後、超高空偵察機のU-2Sドラゴンレイディが確認(午前10時ごろ烏山上空で確認)され、また11時ごろにはグローバルホーク(沖縄嘉手納から飛来)も確認された。韓国江原道上空ではRC-135Wリベットジョイント(信号収集機能や弾道ミサイル情報収集、弾道ミサイル実験の光学・電磁情報収集)も確認された。

▲写真 RQ-4 グローバルホーク 出典:Flickr; Giles Thomas

また米国大統領など指揮部に北朝鮮のミサイル発射関連情報などを直接提供する電子偵察機「RC-135U:コンバットセント」(12日午後6時10分に横田基地に飛来し13日に嘉手納基地へ)を14日から韓国西海(ソへ・黄海)上に投入した。そして韓米連合捜索救助訓練(パシフィックサンダー)に参加している3早期警報統制機(AWACS機セントリー=電子機器を搭載して、敵の航空機の侵入を早期に察知・解析し、迎撃戦闘機を指揮・統制する空飛ぶレーダーサイト)も19日、京畿道烏山(キョンギド・オサン)飛行場で確認された(東亜日報2019・3・21)。

そればかりかB-52飛行3日前の16日には、デルタホースなど特殊部隊を送り込む水中スクーターを搭載したバージニア級原子力潜水艦のイリノイが横須賀基地を出港している。その1時間前には横田基地に特殊部隊員を輸送するMC130軍用機が沖縄から飛来したという。沖縄読谷村にはグリーンベレーが駐屯するが、その要員が横田基地を経由して横須賀に向かったのではないかと推測されている。

▲写真 RC-135Uコンバットセント 出典:Official United States Air Force Website

この軍事作戦行動が、ハノイ会談決裂後、非核化交渉の中断と挑発再開を示唆した金正恩に対する圧力であることは間違いない。ミサイル発射を再開すれば事態が2017年に逆戻りするとのシグナルを送ったものと思われる。韓国軍消息筋も、「B-52は北朝鮮が最も恐れる米戦略資産」とし、「核ミサイル挑発を強行すれば、いつでも韓半島で展開できるという意味のようだ」と話した。

 

■ 北朝鮮で突然の防空訓練

こうした米国側の動きに対応して北朝鮮では突然の防空訓練が実施された。自由アジア放送は3月16日に、北朝鮮両江道の消息筋から「今朝(3月14日)突然防空訓練を知らせるサイレン警報が鳴った」と伝えてきたと報道した。

消息筋は、「時を同じくして、各地域の人民班と機関、企業所では「米国と南朝鮮による戦争準備のための軍事合同訓練に徹底的に備えなければならない」と宣伝しているとし、「私たち(北朝鮮)は、いつでも万端の準備ができていると戦争の雰囲気を鼓吹させている」と付け加えた。このように金正恩のベトナム訪問後、突然の訓練を実施していることから、住民は「第2回朝米首脳会談がうまくいかなかったと直感している」と語った。

また、「騒がしい防空訓練サイレン音が繰り返し続くことで、社会全般の雰囲気が緊張したことは事実」とし、「一部の住民は、今後兵力の移動と配置訓練まであると予想しており、戦争勃発の可能性に対する不安感を募らせている」と強調した(RFA2019・3・16)

トップ写真:B-52(イメージ)出典:pixabay; Military Material


この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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