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.政治  投稿日:2019/4/6

憲法改正と小西洋之参院議員


島田洋一(福井県立大学教授)

「島田洋一の国際政治力」

【まとめ】

・小西洋之参院議員、「『元号による時代支配』を体感。安倍政権の打倒に全力」とツイート。

・安倍政権が憲法改正を目指すに当たり、最も注意すべき議員。

・憲法改正は間違いなく厳しい戦いになる。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=45084でお読み下さい。】

 

新元号が令和と決まり、多くの国民がこれを歓迎、気構えを新たにする中、ことさら否定的方向に話を向ける人々もいた。中でも異彩を放っていたのが、「国会のクイズ王」こと小西洋之参院議員(立憲民主党会派。東大卒、元総務省課長補佐)である。小西氏のツイートを引いておこう。

「令和。安保法制という違憲の法令で平和を破壊した安倍総理が『和』の文字を元号に使った。まさに『元号による時代支配』を体感せざるを得ない。初春令月、気淑風和など出展の万葉集の歌にふさわしい時代とするよう、安倍政権の打倒に全力を尽くす」(@konishihiroyuki 4月1日小西氏のツイートより)

意味不明な「元号による時代支配」をどう「体感」できるのか分からないが、そこから「安倍政権の打倒」に至る強引な論理が氏の真骨頂である。

小西氏に政治家として尊敬できる要素はない。しかしその政権を躓かせる力は決して侮れない。安倍政権が憲法改正を目指すに当たって、最も注意すべき議員の1人と言えよう。

3月6日、議員質問が内閣に対して持つ「監督」機能について、横畠裕介内閣法制局長官が「このような場で声を荒らげて発言するようなことまでとは考えていない」と答弁し、国会が紛糾、撤回謝罪に追い込まれる事件があった。この答弁を引き出した質問者も小西氏だった。

▲写真 内閣法制局長官横畠祐介氏 出典:首相官邸

揚げ足取り狙いの「クイズ質問」を連発する小西氏に耐えかねた長官の心情は理解できるが、挑発に乗ったのはやはり失敗だった。それこそ相手の作戦だからである。

小西氏の厚顔は政界でも群を抜いている。今年1月13日、陸上自衛隊習志野演習場で「降下訓練始め」が行われ、筆者も参席した。離島奪還を想定し、航空自衛隊の輸送機や攻撃ヘリコプター、水陸両用車、パトリオット迎撃ミサイルなども登場、実戦さながらの内容だった。

▲写真 習志野演習場平成30年降下訓練始め平成30年1月12日 出典:陸上自衛隊第1空挺団

第1空挺団員約200名に加え、米軍在沖縄、在アラスカ基地からも約50名が参加した。例年以上に「日米合同」が強調され、中国への大いなる抑止力になったと言える。

平和安全法制の成立(2015年9月)で、日本が一段と米軍支援に踏み込む体制ができていなければ、米側もここまでは応じなかったろう。演習後の野宴(防衛省・自衛隊と招待客の交流バーベキュー)には米軍関係者の顔も多く見えた。

その場で来賓挨拶に立った政治家の1人が小西氏だった。氏は演習場を含む千葉県を選挙区とする。従って、平和安全法制廃止を唱える反軍平和主義者でありながら駆けつけたわけである。

小西氏はあろうことか、昨年幹部自衛官と起こした諍いに関し、防衛省の報告書から都合のよい部分を読み上げ、自分は自衛隊員の信頼を勝ち得ているとする演説を行った。さすがに招待客から「いい加減にしろ」「場をわきまえろ」などの野次が飛んだ。

記憶喚起のため、当該自衛官の供述から一部引いておこう。2018年4月中旬の夜、国会近くの路上でジョギング中の自衛官と小西氏が口論となり、自衛官が、「俺は自衛官だ。 あなたがやっていることは、日本の国益を損なうようなことじゃないか。戦争になった時に現場にまず行くのは、我々だ。その自衛官が、あなたがやっていることは、国民の命を守るとか、そういったこととは逆行しているように見えるんだ。東大まで出て、こんな活動しかできないなんて馬鹿なのか。」と直言した。

対して小西氏が、「あなたは現役の自衛官なのか。現役の自衛官がそんな発言をするのは、許されない。これは大問題だ。名前と所属を言いなさい。」と言い、さらに発言の撤回を求めた。自衛官は「撤回しません。 何が悪いんですか?名前は言いません。」と押し問答になった。

小西議員はさらに自衛官に「撤回しなさい。現職の自衛官がそんなことを言うのは大問題だ。防衛省の人事局に今から通報する。」と迫るとともに、近くの警察官を大声で呼んだ。

小西氏が誰かに電話するのを見た自衛官は、その「権力をかさに着る」「人の話を聞かない、すぐ通報する、すぐ警察を呼ぶという男らしくない行為」をさらに批判した。

警察官数名が応援に駆けつけ、双方から事情を聴く中で小西氏が、人格否定や政治活動の冒涜に謝罪がなされるなら当局に通報しないと述べたため、自衛官は騒ぎを起こした自身の未熟さを思い謝罪の言葉を述べた。その後握手して別れたという。

ところが小西氏は、この顛末を防衛省に通報し、翌日の参議院外交防衛委員会(2018年4月17日)にてこの件について質問し(小西参議院議員のご発言等)、事を政治問題化させた。いかにもこの人らしい振る舞いである。

小西氏については別の参考事例もある。平和安全法制の参院委員会採決(2015年9月19日)に際し、議長に背後から飛びかかった小西氏を佐藤正久議員(現外務副大臣、自民党)が拳で押し返した場面が、写真ではあたかも顔面にストレートが入ったように見え、国際的にも話題となった(佐藤氏はこの後しばらく「パンチ佐藤」と渾名される)。

▲写真 佐藤正久参議院議員 出典:@SatoMasahisa 

当日の小西氏のツイッターを追うと、その変遷ぶりが興味深い。

「誰にも暴力は振るってないし、また、振るわれてもいません」(17:41)、「強行採決の混乱の中で、私が誰かから殴られたのではないかと心配を頂きましたが、下から二人がかりで引きずり降ろされたタイミングと、丁度重なって見えるだけでした」(18:01)、「国民の憲法を守るため必死で気付きませんでしたが、顔を殴られていました」(23:42)、「強行採決の際に受けた殴打ですが、映像等にあるように事実です」(23:55)と説明が変わっている。

佐藤、小西両氏は因縁があり、その数週間後、「自衛隊員の母親の望みも虚しく、自衛隊員は他国の子供を殺傷する恐怖の使徒になるのである」(2015年9月30日)とツイートした小西氏に対し、佐藤氏が「いくら法案反対でも非常識過ぎる。注意する民主議員はいないのか!」と厳しく論難した(小西氏は数日後、「集団的自衛権行使を受ける国の子供達は自衛隊員を『恐怖の使徒』と思うだろう。違憲立法から自衛隊員を救わなければならない」に文章を修正)。

先の自衛官とのトラブルでも、小西氏は別れ際に、「あなたのような自衛官を殺させるわけにはいかない。だからこそ憲法改正をなんとかやめさせようと思っている」と語っている。

小西氏の厚顔無恥を嗤うのはたやすい。しかし彼が、上記の如き言動を繰り返しつつ、当選を重ねている事実は重い。憲法改正は間違いなく厳しい戦いになる。

 

参考)防衛省:自衛官の小西参議院議員に対する暴言を含む不適切発言事案について(最終報告)

トップ写真:小西洋之参院議員  出典:@konishihiroyuki

 

【訂正】

2019年4月14日に以下を修正しました。

修正前)横畠裕介内閣法制局長官「このような場で声を荒らげて発言するようなことまでとは考えていない」

修正後)横畠裕介内閣法制局長官が「このような場で声を荒らげて発言するようなことまでとは考えていない」

 

修正前)自衛官は『撤回しません。 何が悪いんですか?名前は言いません。』と押し問答になった。

修正後)自衛官は「撤回しません。 何が悪いんですか?名前は言いません。」と押し問答になった。


この記事を書いた人
島田洋一福井県立大学教授

福井県立大学教授、国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)評議員・企画委員、拉致被害者を救う会全国協議会副会長。1957年大阪府生まれ。京都大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。著書に『アメリカ・北朝鮮抗争史』など多数。月刊正論に「アメリカの深層」、月刊WILLに「天下の大道」連載中。産経新聞「正論」執筆メンバー。

島田洋一

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