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.政治  投稿日:2019/4/21

災害救援受け入れのメリット


文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

・日本は災害救援の受け入れで失敗した。

・隣国の救援を受け入れる準備をあらかじめしておくべきだ。

・隣国救援は政府関係の改善、国民感情の緩和、デマ抑制の効果を生む

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=45322でお読みください。】

 

もし、東海大地震において中韓朝の災害救援を受け入れればどうなるだろうか?これら隣国との対立関係は一挙に緩和する。対立原因となっている日本側の悪感情が大幅に減少するからだ。

災害救援が注目されている。その実施により国家間の関係を改善・前進させる契機となるためだ。それは日本も変わらない。防衛省と外務省は常に国際緊急援助隊を投入できる体制をとっている。

▲写真 自衛隊は国際緊急援助隊の派遣準備体制を維持している。常に「おおすみ」型輸送艦の1隻は指定されており即時対応可能となっている。写真は「しもきた」。出典 : 海自ホームページ「装備品 輸送艦『おおすみ』型」

だが、日本は受け入れで失敗している。東日本大震災で中国による救援の過半を断ってしまった。それにより日中関係の改善に失敗し、同時に中国の不快感を引き起こしたのだ。これは張雲さんの『国際政治』記事に詳しい。(参照:※1)

失敗を繰り返さないためにはどうすればよいか?あらかじめ救援受け入れを決めておくことだ。特に関係改善が求められる中国、韓国、北朝鮮の援助を引き出し、受け入れる準備をしておくことである。それにより日本は災害救難の実施だけではなく、救難受け入れでも利益を得られるようになる。

 

■ 関係改善の機会となる

中国、韓国、北朝鮮による災害援助を受け入れる効果は大きい。その第一は関係改善の機会獲得である。救援受け入れは日本政府と中国、韓国、北朝鮮政府との距離を詰める契機となる。隣国との連絡・交渉の経路は弱っている。中韓朝との衝突により日本が自ら経路を狭めたためだ。

特に北朝鮮とは直接的な経路を遮断してしまった。なによりもその役割はアントニオ猪木議員に期待されている状況である。そのため現今の弾道弾・核問題や拉致問題、また将来の市場アクセスでも全く話はできない状態に陥っている。

災害救援の受け入れはそれを改善する。純粋に謝意を示し、敵意の切り下げをアピールできる。なによりも感謝や事務連絡のやりとりにより直接的な交渉チャンネルを再建し、あるいは強化できるのだ。

なによりも損はない。災害救援への感謝は何の約束を伴わない。またコスト負担もない。それで隣国との関係を改善できる点で費用対効果は極めて高い。

 

■ 日本の国民感情抑制

第二の効果は日本国民感情の緩和である。救援受け入れは中韓朝への拒絶的態度を緩和させる材料となる。この点でも利益は大きい。

中韓朝への国民感情は厳しい。安全保障での対立から日本人は中朝を敵国と扱っている。韓国も歴史問題での対立から敵対国とみなしている。いずれも「滅ぼすか滅ぼされるか」の宿敵ではない。それにもかかわらず不倶戴天の敵とみなされているのだ。

その弊害は大きい。なによりも日本政府による政策選択を不自由としている。国民感情から隣国との協調や妥協策の選択は困難となってしまった。また、損しか産まない非合理的な選択を迫られている。これも災害救援の受け入れにより改善する。中韓朝が善意で助けに来てくれた。その事実や報道で国民感情は緩和するためだ。

▲写真 中国は災害救難に熱心だ。特に海軍力の急成長と海洋主権の強引な主張への反感緩和から病院船活動を熱心に行っている。写真は医療船「岱山島」号、平和方舟と称されている。 出典:米海軍写真(撮影:Shannon Renfroe)

救援による国民感情緩和の実例は多い。日本国民の感情との関係で言えば、まずは東日本大震災での米軍救援の例だ。在日米軍では厄介者である在沖海兵隊までもが好意を持って受け入れられた。それにより「米海兵隊は駐留不要」の主張は一時的に弱まったのである。

古くは関東大震災の例もある。米国は食料1万8000トン、衣類55万枚、病院施設6000床分を援助した。これは斉藤達志さんの『軍事史学』での発表の数字だ(※2)。救援の効果は戦争中の国民世論にまで及んでいる。内務省による戦時下言論取締には「米国は大震災の救援に来てくれた。米国に負けても日本には悪いことはしない」といった発言が摘出されている。感情緩和の効果は相当に大きいのである。

頑なにすぎる隣国への国民感情を解きほぐす。あるいはそれにより毀損されている政策自由度を回復する。そのような効果も期待できる。

 

■ 排外デマの抑制

第三は排外デマや迫害の抑制である。大災害では決まって外国人犯罪のデマが流れる。かつての「井戸に毒を入れた」や、東日本大震災での「外国人が遺体から手指ごと指輪や時計を剥いだ」といった差別や排外主義に基づいたデマだ。きまって中韓朝国籍や出身者のせいにされる。

デマは迫害のリスクも高める。関東大震災での朝鮮人虐殺はそれが現実化した例だ。また東日本大震災でもそれに加担する主張もあった。各国海空軍の動静を針小棒大、あるいは無根拠で捏造し、尖閣や竹島で積極的行動に出ているといったデマがなされた。

救援受け入れはそれも抑制する。報道でそれが伝わればデマの伝播力は格段に落ちる。意図して排外主張を繰り返す民族差別扇動者によるデマはともかく、一般大衆からのデマは発生し難くなる。

また、デマ発生と国民感情悪化の循環拡大も防げる。災害時の排外デマは第二であげた国民感情悪化を増幅する。また国民感情が悪化すれば災害デマは発生しやすくなる。その増幅率を低下させることもできる。

 

■ 中韓朝での災害救援も可能となる

以上が災害援助受け入れのメリットである。災害時に中韓朝の救援隊を国内に入れるメリットについて第一から第三まで述べた。

実際にはそれ以外のメリットもある。相互主義により日本災害救援の中韓朝進出が容易となるそれにより日本は中韓朝政府との交渉チャンネルを太くし、相手側の国民感情を緩和させ、デマゴークに近い対日強硬運動家の活動を封殺でき、在留日本人を安全にする。なお、デメリットはほぼない。

各国救援隊員は悪さはしない。エリートだけが来るわけでもないが問題を起こす兵隊は連れて行かない。また自衛隊基地の利用も問題はない。秘密関連の物件は全て建物内にある。秘密取扱の資格がなければ日本人でも見られない。建物外には何の秘密もない。建物配置ほかは全て公開されている。

 

(※1)張雲「日中の誤認知と相互不信の再生産のメカニズム」『国際政治』184(有斐閣,東京,2016.3)pp.1-15.

中国は3月15日に病院船や医療班を含む大規模な救援援助を申し出た。日本は回答を27日まで引き伸ばし、その上で過半を断った件だ。受け入れた救援隊は15人であった。

さらに他国とのバランスも取り損なった。よりによって同日にイスラエルの緊急医療班を受け入れたこと。中国援助隊以上の救助隊28人を台湾から受け入れるといったバランスを欠く判断をしたためだ。

それにより日本は日中関係改善の実をとることができず、逆に中国側に不快感を与える始末となった。

 

(※2)斉藤達志「関東大震災における」『軍事史学』(錦星社,2012.6)pp.44-46.

トップ写真:韓国からの救援受け入れも両国関係の緩和に役立つ。大規模災害時に最も有効な輸送ヘリCH-47を保有し、しかも自力展開可能な距離にある。写真はフィリピン台風災害で派遣された韓国救難隊。


この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

文谷数重

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