戦争したくてしょうがない男 トランプ政権「行く人来る人」列伝7
大原ケイ(英語版権エージェント)
「アメリカ本音通信」
【まとめ】
・戦争好き隠さぬ超タカ派。人望なく「副」の付く地位ばかり。
・クーデターや戦争を仕掛け、“敵国”トップ引きずり下ろすのが信条。
・イラン核合意離脱で中東の緊張高め、北朝鮮、ベネズエラでも成果なし。
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ジョン・ボルトン(国家安全保障問題担当大統領補佐官)
ロシア政府との癒着度:★
ドナルド・トランプとの親密度:★
任務に対して有能か:★
任期を全うできそうか:★★★
2016年、大統領に就任したばかりのトランプが国務長官を決める際、ジョン・ボルトンも候補のひとりとして挙げられていた。だが、側近の見かけを気にするトランプは、ボルトンのチョビ髭が気に入らないとして彼を却下し、面識がなかった(が恰幅の良い白人男性だというので)元エクソンCEO、レックス・ティラーソンを選んだというエピソードがある。
そのチョビ髭とは関係なく、ボルトンは長い間、戦争好きを隠さない「超タカ派」として多くの外交筋や国会議員から嫌われてきた。シリアからベネズエラ、そしてイエメン、北朝鮮などで、regime change(政権交代)を目指す、と言えば穏やかな外交政策のようだが、要するにクーデターを起こしたり戦争をしかけたりして、よその国のトップをその座から引きずり落とすために画策するのが信条なのだが、あまりにも無礼で人望がないために、ずっと「副」が付く地位しか与えられてこなかった。
▲写真 イラク駐留米軍部隊へのクリスマス慰労訪問のため、アル・アサード航空基地へ向かう大統領専用機内でイラクのアブドル・マハディ首相と電話するトランプ大統領とボルトン大統領補佐官(2018年12月26日)出典:The White House[Public domain]
ジョージ・W・ブッシュ大統領政権時代にボルトンがずっとやりたがっていたイラク戦争が実現したのは、9・11の同時多発テロ後に反イスラムに傾いた世論をディック・チェイニー副大統領、ドナルド・ラムズフェルド国防長官、ポール・ウォルフォウィッツ国防補佐官らボルトンと同じPNAC(アメリカ新世紀プロジェクト)所属のネオコン一派が軍やマスコミを騙し、テロの首謀者としてアル=カイーダのウサマ・ビン・ラディンではなく、無関係だったイラクのサダム・フセインに矛先が向けられるようにしたからである。
▲写真 ジョージ・W・ブッシュ大統領がボルトン氏を国連大使に任命すると発表(2005年8月1日)出典: White House photo by Paul Morse(Public domain)
そのボルトンが初めて国連大使というトップの座に立てたのが2005〜2006年。前任者のジョン・ダンフォースが任期途中で辞任したため、本来なら大統領に指名された国連大使候補は上院の承認を得なければならないが、上院が開催されていない時期を狙って指名され、有無を言わせず国連大使になることができた。だが、2006年の中間選挙で野党のデモクラッツ(民主党)が上院で過半数を占め、ボルトンがその後も正式に国連大使に任命される可能性は潰えた。
今回ボルトンが国家安全保障問題担当大統領補佐官になれたのは、以前からトランプの大本営放送局のようになっているフォックスTV局で、オバマ大統領が国連やEUと協力して締結にこぎつけたイラン核合意からの離脱をずっと訴え続けていたからだ。トランプはとにかく前任者であるオバマが成し遂げた功績をひとつ残らずひっくり返そうと必死なので、チョビ髭はともかく、自分の政権下で核合意から離脱し、ついでにその外交政策を推し進める者として責任を被ってくれれば都合がいいのである。
▲写真 左からジョン・ボルトン大統領補佐官、マイク・ポンペオ国務長官、トランプ大統領、マイク・ペンス副大統領(2018年5月2日)出典:U.S.Department of State photo[Public domain]
だが、もともとトランプは戦争をする(軍備を増強する)のはカネの無駄だと思っており、国民の目が「戦争になるかもしれない」と、国内での司法妨害に関する調査から逸れてくれるのはありがたいが、実際にイランと戦争をしたいわけではない。イラク戦争で懲りた下院議会も開戦に賛成する可能性はない。ボルトンの言動は非核化合意に尽力した国々にとって甚だ迷惑なのだ。
イランだけでなく、北朝鮮との首脳会談で一方的で急速な非核化を条件として突きつけさせたのもボルトンだし、先月にベネズエラでニコラス・マドゥロ大統領の再選を阻止しようとあれこれ表立って画策したのもボルトンだ。だが、結果を見る通り、成功した試しはないのだが。
そして今、非核化への合意から勝手に離脱したアメリカに対し1年間ガマンしてきたイランが、少しずつ核武装を進めても文句を言える立場にはないのに、ありもしないイランからの「脅威」に対して軍艦や戦闘機を配置し、勝手に中東の緊張を高めているのがボルトンなのだ。
戦争大好きといっても、ベトナム戦争時代に若者だったボルトンは、戦争肯定派だったものの、1929年に徴兵候補になってからは、州兵軍に入隊したり大学院に行ったりして戦地に行くのを免れているのだが。
トップ写真:ジョン・ロバート・ボルトン米大統領補佐官 出典:John Bolton twitter
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この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント
日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。