無料会員募集中
.国際  投稿日:2019/7/7

日米同盟解消の主張も 集団的自衛権の禁止とは 4


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・1990年代に出た日米同盟の片務性批判は少数派の声ではない。

・同盟解消論も例外的な主張ではなくなった。

・日本の集団的自衛権禁止は日米同盟の「崩壊要因」との報告も。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=46704でお読みください。】

 

1990年代にアメリカ側の各界でわきあがった日本の対米同盟片務性への批判の具体例をあげよう。ワシントンの大手研究機関のケイトー研究所(Cato Instituteが1995年10月に日米安全保障関係についての報告書を発表した。そのなかには以下のような骨子の記述があった。

「日本は東アジアで予測される危機への対処でアメリカの安全保障努力にただ乗りする意図を明白にしている。当研究所代表は訪日して日本政府当局者たちに、(1)南沙諸島をめぐる中国と周辺諸国との戦争(2)中国による台湾への軍事攻撃(3朝鮮半島での戦争という有事に日本がなにができるかを質問した。答えはいずれもゼロだった。集団的自衛権の禁止を理由に後方や兵站の支援もできない、というのだ。これでは日米同盟の意味はない。その種の有事が起きれば、同盟が機能しないことが明白となる。であれば、事前に日米同盟は解消したほうがよい」

日米同盟の解消までを説く辛辣な意見だった。日本への非難ともいえよう。

▲写真 ケイトー研究所(ワシントンD.C.)出典: AscendedAnathema from en.wikipedia.org

1995年というこの時期はソ連の崩壊後、中国が軍事的な膨張を開始し、南シナ海などで領有権主張を強引に広げていた。台湾に対しても軍事圧力を増していた。北朝鮮の核武装が明白となり、朝鮮半島での戦争の危機も高まっていた。この中国の軍事拡張は20年以上が過ぎた現在でもなお右肩上がりである。北朝鮮の核武装もトランプ政権の試みにもかかわらず、解消はされていない。

アメリカは以上のような有事を想定し、現実の対応を具体的に考えていたわけだ。その危機シナリオではどの有事にも日本の防衛や軍事での協力が得られないと判断したのが上記の報告書の結論に近かったのだ。日本が有事には結局はアメリカを助けない、アメリカとともに戦いはしない、という見通しを立てて、だとすれば、日米同盟の効用はアメリカにとってほとんどないから解消してしまえ、と、この報告書は提案するのだった。

ただし同報告書をまとめた「ケイトー研究所」はアメリカの国政の舞台でもリバタリアンと呼ばれる極端な個人の自由やアメリカの孤立主義をも唱えるグループの中核である。だから彼らが唱える日米同盟解消論は当時でも極端な少数派の意見だされた。だがそれでも日米同盟の片務性非難の部分は決して少数派の声ではなかった。さらに日米同盟解消論もまったくの例外的な主張ではなくなった。

▲図 台湾海峡。向かい合う台湾と中国本土。出典:パブリック・ドメイン

同じ趣旨の主張はこの時期、他でも顕著だったのである。アジア政策の民間の権威だったカリフォルニア大学のチャルマーズ・ジョンソン元教授は有力外交雑誌「フォーリン・アフェアーズ」95年8月号に発表した長文の論文で同じように日米同盟の解消を提言した。その骨子は次のようだった。

「アメリカは日本防衛のために莫大な代価を払っているのに、日本は集団的自衛権の禁止を口実に自国の安全保障はもちろん、地域的、国際的な安保課題への責任も負わない異常な国となっている。同盟国が攻撃を受けても座視するままだ。日本がアメリカのアジア戦略保持の真のカナメとなるには集団的自衛権の行使をはじめとする日米同盟の双務的結びつきへの変質が欠かせない。それができない場合、有事にアメリカにとって役に立たない同盟は平時に解消しておくべきだ。」という主張だった。

このように日本の集団的自衛権の行使禁止をアメリカ側からみての日米同盟の重大な欠陥だとする認識は、この時期でもすでに超党派の主張となっていた。

アメリカでも最大手の外交研究機関「外交問題評議会」の超党派専門家集団が1997年8月にまとめた日米防衛についての報告書も日本の集団的自衛権禁止を「日米同盟全体にひそむ危険な崩壊要因」と定義づけていた。そして日本側に率直にその点での政策修正を求め、「同盟をより対等で、より正常な方向へ」と促していた。

外交問題評議会自体は民主党に近く、時の民主党クリントン政権ともつながりが深かった。その報告書の作成にあたった専門家は約40人、ハロルド・ブラウン元国防長官リチャード・アーミテージ元国防次官補らが名を連ねていた。

▲写真 ハロルド・ブラウン元国防長官(左)とリチャード・アーミテージ元国防次官補 出典:いずれもパブリック・ドメイン

この報告書の特徴の一つは、朝鮮半島での戦争や台湾海峡での軍事衝突というシナリオに日本の支援を盛りこんでいないことだった。日本は集団的自衛権の禁止により、実際には米軍へのなんの支援もできないだろうと最悪の可能性を想定していた。そのうえで有事に日本のそうした回避があらわになれば、アメリカ国民は衝撃的に失望し、日米同盟自体が危機に瀕すると警告するのだった。

の続き。5につづく)

トップ写真:夕食会に臨む安倍首相とトランプ大統領(2018年9月23日 ニューヨーク)出典:首相官邸 facebook


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."