選手村マンションはレガシー?東京都長期ビジョンを読み解く! その72
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
【まとめ】
・選手村マンションは異常なほどの「お得さ」。
・ハルミフラッグのメリット購入者のみ。公共性に欠ける。
・都市計画マスタープランの経緯は「正統性」がない。
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敗者復活。8月8日から!
本連載でも指摘した東京五輪チケット販売がまた始まるようだ。Newsweek誌によれば「チケット総数は780万枚。このうち25%はスポンサーや関係者、20~30%は日本以外の国々で販売」と言われている。世界でも人気のようだ。
東京五輪・パラリンピックまであと1年!混雑緩和策の実証実験、東京五輪音頭の盛り上げなど、行政を中心に1年後の開催に向けて関係者は準備に頑張っている。暑い中、ご苦労様である。
■ 選手村マンション、抽選倍率70倍!
さて、そうした中、選手村マンションの販売がスタートしたというニュースが話題だ。抽選倍率70倍超えの人気物件もあり、当選者は喜んだろう。
中央区晴海に建設される選手村の宿泊施設は21棟。五輪・パラリンピック終了後に、分譲・賃貸用のマンションに改修、50階建てタワーマンションも2棟、商業施設も建設され、5600戸が入居できる大規模な「町」ができる。
▲写真 出典:HARUMI FLAG HP
事業内容を見てみよう。
▲画像 出典:東京都都市整備局HP「市街地再開発事業」
540億円で出来上がる街の名前は「ハルミフラッグ」。訳せば、晴海地域の旗艦ということだろう。
■ 「ハルミフラッグ」の公共性は?
今回売り出されたマンションは、「270〜280万(坪あたり)」だそうだ。いわゆる坪単価、本体価格÷床延面積で計算される。問題は、周辺は350万円とも言われるので、相対的に安価であるとの指摘もある。
確かに、売れ残りリスクを防ぐためにも、安く買ってもらうのは、五輪のメリットであることを明らかにする意味で仕方ないかもしれない。安く買って高く売るということをゼネコン側にさせないだけまだましかもしれない。
しかし、応募倍率が70倍も集まるのは相当「お得だから」だろう。そんな異常なほどの「お得さ」を作り出すことは、一部の人にメリットがあるという意味で公平性に欠ける。
そもそも「都有地の売却値段が市場価格の10分の1以下」とも言われ、都有地を民間に売り渡した事実もあるのだ。
購入者は海岸沿いで、レインボーブリッジまで見えるなど景観はとても良いかもしれないが、多くの人にとっては東京の「圧迫感」が増し、「空が占有され」景観を失う。汐留の開発が、風の通り道をふさいだように、環境にどれだけ影響があるのかもわからない。ヒートアイランドを加速化させるとも言われている。
東京都の「都市計画マスタープラン」を見てみると以下のように明記されている。
▲画像 出典:「都市計画マスタープラン」
都市計画マスタープランは、東京都のまちづくりの姿の基本となる計画である。最上位の計画になる。そこに明記され、下位計画でもある「東京2020大会後の選手村におけるまちづくりの整備計画」によって、具体的な記載がされ、その計画に基づき、着々と粛々と進められてきた。
▲写真 出典:東京2020大会後の選手村
■ どこが「レガシー」?
こうした開発、これまで政策として都民に提示されましたか?なし崩し的に進めてませんか?という疑問を感じるのだ。コンパクトな五輪を目指すことを検討する段階で選手村がここに決まったのはわかるが、新たに巨大な街を作る必要性はわからない。
「レガシー」にするのなら、その経緯も含めて過去のブラックボックスをオープンにする一丁目一番地ではないだろうか。色々とうやむやになっており、「正統性」があるとはお世辞にも言えない。
一部の人の財産になるものは「レガシー」と言うには値しないだろう。小池都知事に期待しよう。
トップ写真 出典:東京都都市整備局HP「選手村の整備(大会後のまちづくり)」
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。