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.社会  投稿日:2019/8/26

まだ必要?都心の超高層ビル その1 東京都長期ビジョンを読み解く!その74


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

「西村健の地方自治ウォッチング」

【まとめ】

虎ノ門・麻布台地区に、約330メートルの超高層ビルが建設される。

・開発の目的・狙いは海外からのビジネスマンを呼び込むこと。

・超高層の都市開発は本当に必要なのか、歴史的な意味を語るべき。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合は、Japan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=47614でお読みください。】

 

■ 世界に羽ばたく都市を!

港区の虎ノ門・麻布台地区に、約330メートルの超高層ビルが建設される(完成は2023年)。大阪市の「あべのハルカス」(300メートル)を抜き、日本一の高さになる見込みだ。

そのコンセプトは「緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街 – Modern Urban Village -」といったものであり、緑と調和した「街」が生まれるそうだ。オフィス、住宅、ホテル、インターナショナルスクール、商業施設、文化施設などからなるらしい。

映像を見ても、とってもかっこいい。クリエイティブな感性を刺激する都市がそこにはある。その結果、東京は「摩天楼のように高層ビルは天空に伸び、かっこいい建築は増え、街は心躍るデザインで溢れ、しゃれた社交場やレストランは増えた。お金の匂いとクリエイティブの香りの奇妙な同居」が進むことだろう。(参考記事

 

■ ここに至るまで30年、ヒルズの都市開発の結晶!

▲写真 東京タワー ©️Japan In-depth編集部

詳細を見ていこう。

事業名称:虎ノ門・麻布台地区第一種市街地再開発事業

事業者:虎ノ門・麻布台地区市街地再開発組合

区域面積:約8.1ha(施行地区面積)

敷地面積:約63,900㎡(約19,330坪)

延床面積:約860,400㎡(約260,000坪)

主要用途:住宅(約1,400戸)、事務所(約213,900㎡)、店舗(約150店)、ホテル(約120室)、インターナショナルスクール(約14,000㎡、ブリティッシュ・スクール・イン・東京(予定))、中央広場(約6,000㎡)、文化施設(約9,000㎡)等

緑化面積:約2.4ha

駐車場:約1,880台

事業費:約5,800億円

組合員数:285人(2019年3月時点)

着工:2019年8月5日

竣工:2023年3月31日(予定)

【参照】森ビルHP

森ビルの資料にはそのプロジェクトへの思いが込められている。過去のヒルズで培ったすべてを注ぎ込んだ「ヒルズの未来形」でもあるそう。並々ならぬ意欲、力の入れようを示しているのは、どうも理由があるかららしい。1989年に街づくり協議会を設立、約30年もの時間をかけて推進してきたそう。利害関係者は300名の調整を、30年かけて行い、合意形成をすすめてきたと聞くと、森ビルのスタッフは相当の苦労をしただろう。大変お疲れ様である。

▲図 出典:都市再生特別地区(虎ノ門・麻布台地区) 都市計画(素案)の概要より

上図を見れば、このエリアが「ホット」な開発をしていることがわかるだろう。

 

■ 国家戦略特区??

開発の担当者が語っている虎ノ門・麻布台地区における取組のポイントをまとめると以下のようになる。

◇ポイント1:「都市基盤の整備とみどりの創出」。新設道路、地下歩行者通路の整備によって、周辺開発と連携したネットワークを実現するとともに、生物多様性に配慮した3,000㎡の緑地の整備

◇ポイント2「国際競争力強化に向けた都市機能の導入」。外国語対応 の医療施設をはじめとする、外国人の生活サポート機能と、日本の地域資源を活用した産業育成、海外展開を支援するビジネス支援機能を整備

◇ポイント3:「防災対応力強化と都市環境の向上」。災害時の業務支援機能と地域防災対応力を強化するとともに、環境負荷低減と緑化を推進

【参照】第1回 東京都都市再生分科会 配布資料、第1回東京都都市再生分科会(竹芝地区・虎ノ門四丁目地区)議事要旨より抜粋

2017年には、国家戦略特区法に基づき都市計画決定がされた。この開発が「国家戦略特区」の都市開発になることで、多くの面倒な手続きの緩和や都市計画で定めた容積率が緩和された。ちなみに、このベースになるのが、国家戦略特別区域法であり、都市計画法の特例がそこには記載されている。

この開発の目的・狙いは海外からのビジネスマンを呼び込むことだそうだ。「国際競争力強化に向けた都市機能の導入」として、外国人の生活を包括的にサポートする機能の導入が明確にうたわれている。多言語ワンストップ医療機能、外国人の地域順応支援機能、生活コンシェルジュ(多言語総合案内)機能などなど。居住・滞在・教育・生活支援・文化交流機能を備えた外国人にとっても暮らしやすい生活環境の整備を進めていく。その理由は、各国の大使館、グローバル企業などが集積しているからでもある。

 

■ 超高層の都市開発は本当に必要なのか?

外国人向けの都市開発が必要なのかはわかるが、なぜにこのような大規模・超高層なのだろうか?近くにある東京の象徴である「東京タワー」の高さを超え、景観自体が大きく変わってしまう。昭和や平成の時代からの決別ということなのだろうか、東京都は歴史的な意味を語るべきだろう。

また、京都にオフィスを構えた企業に世界各地から外国人が殺到していると聞く。中国や東南アジア、ドバイの超高層ビルに違和感を感じたり、魅力を感じないという外国人が増えてきているようにも思える。そうした中、外国人が求めるものになるのだろうかという疑問もある。

神谷町の名前は「三河の国八名郡にある村の名をとってつけられたもの」(参考:港区)だそう。しかし、森トラストは「神谷町ゴッドバレー協議会」の発足式を開くなどの取組を進めている。(参考記事)「God Valley」ということだそうだ。

ドバイや上海のような超高層ビルで埋め尽くされた「東京」の未来、それは、私たちが望んだものなのだろうか。

トップ写真:六本木ヒルズから見た神谷町・麻布台エリア(筆者撮影)


この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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