未来世代の為に関係修復を(下)「知日派」韓国人の声 その5
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・領土問題・戦争被害問題は、国際司法裁判所に裁定を求めるべき。
・韓国の植民地支配と戦争被害者はお金を求めているわけではない。
・日韓は未来世代のため関係の再構築を目指すべき。
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昨年10月の徴用工判決以降、韓日両国の関係がこじれてきた問題について、お話しさせていただいております。
この問題の源流を探ってゆきますと、やはり領土問題などがあって、日本の政治家たちが相当ストレスを感じていたということがあったと思います。
わが国では独島(ドクト)、日本では竹島と呼んでいる領土の問題ですが、日本のある国会議員が、「戦争して取り戻さないと、駄目じゃないですか」などと発言して、物議を醸しましたね。以前にも北方領土の問題で同じ発言をしましたが、あれはたしか、酒に酔っての放言だったはずです。けれど、一度ならず二度までもとなりますと、どうやら確信犯ですね。
この人に、軍隊とはどういうところか教えてやりたい、とまず思いました。韓国には徴兵制度がありますので、私も軍隊経験者ですからね。
韓国陸軍の、現役師団の訓練では、実弾が飛び交います。これは訓練だと分かっていてさえ、最初は足がすくんで動けませんよ。
▲写真 韓国軍の軍事訓練の様子 出典:Flickr; 대한민국 국군 Republic of Korea Armed Forces
言わば仮想の戦場ですが、実弾が飛び交う音を聞いた時の、あの怖さ。重装備で山越えする時の辛さ……そんな世界を知りもしないで、軽々しく戦争などという言葉を口にするとは、私に言わせれば、少しおかしい人ですね。ただ、おかしな人の言うこと、で済まされる問題でないことも事実です。
私は、領土問題だけでなく今次の徴用工や慰安婦など戦争被害の問題は、ひとまず国際司法裁判所に裁定を求めるのがよいと考えています。自分たちで解決するに越したことはありませんが、話し合いでは埒が明かない、ということも分かりかけてきていますから。
領土問題は、客観的に見て日本に軍配が上がる可能性があると思いますが、そのことも踏まえて、両国民が納得できる現実的な解決法は、他にあまりないと思いますので。
戦後の韓日両国の関係の中では、他にも極端なことを考える人もいたようです。
あの石原慎太郎氏にインタビューしたことがあります。都知事を退任して少し経った頃ですから、かれこれ5年ほど前になりますか。
▲写真 石原慎太郎氏(2009年)出典:Wikimedia Commons(パブリックドメイン)
その時に聞いたのですが、彼が韓国の歴代大統領の中で、もっとも尊敬していたのが、パク・チョンヒ(朴正煕)だったそうです。前大統領パク・クネの父親ですね。
彼が大統領だった頃、つまり1960年代から70年代にかけてですが、石原氏は若手の国会議員で、青嵐会というタカ派の政治集団に属していました。
パク・チョンヒも反共ということを正面に打ち出していましたから、イデオロギーの面で通じ合っていたのでしょう。訪日した際、青嵐会の会合にも顔を出したそうです。その際、領土問題に話が及んで、彼がこう言ったとか。
「あんな離れ小島のために韓日の関係がおかしくなるのは、よろしくない。いっそのこと大量の発破を仕掛けて、この世から消してしまえばよいのではないか」
青嵐会の面々、それを聞いて拍手喝采だったそうですよ。
▲写真 朴正煕氏 出典:Wikipedia(パブリックドメイン)
この話を石原氏から聞かされた時は、唖然とさせられましたけど、今にして思えば、戦争して取り戻さないと駄目じゃないか、よりは真っ当な意見だったかも知れない、とさえ思えます。
当人は、あれだけの口を叩いたからには、韓国軍が実効支配している島に、日本刀ひっさげて日章旗を立てに行くくらいの気概があるに違いないですが、離れ小島の奪い合いで両国の若者が血を流しよいものでしょうか。
まあ、あの人は特殊な例なのでしょうが、ああいう人がマスコミに露出してますと、時代が下ると政治家もこうなるのか、と言いたくなりますね。
爆破してしまえ、というのも、もちろん極端な意見ですけど、戦争以外の手段はいくらでもあるわけです。
領土問題と言いますが、その根底にあるのは漁業権の問題ですからね。
これは日本と中国との間の問題ですけれど、尖閣諸島だって同様ではないですか。その海域に豊富な地下資源があるらしい、ということが分かってきた途端に、騒がしくなったではないですか。
とは言うものの、徴用工とか、慰安婦もそうですけど、日本による植民地支配とあの戦争で被害を受けた韓国人たちは、今さらお金が欲しくて騒いでいるわけではないということを、私はあえて日本の読者に訴えたいと思います。
お金の問題だけなら、前にも述べましたが、日韓基本条約で一応の決着は見ているわけですからね。げんに元徴用工の中には、日本政府からの謝罪がなかったとして、企業が提示した補償金の受け取りを拒否した人もいるのです。
ただ、ここは誤解していただきたくないのですが、日本政府が謝罪しなければなにも始まらない、という態度も、あまり生産的ではないと、私は考えています。
韓国人のことを「恨(ハン)の民族」などと言う人もいるようですが、恨むべき、憎むべきは戦争や植民地主義であって、日本や日本人ではないはずです。
多くの韓国人、とりわけ若い世代は、そのことを理解していますよ。京都アニメーションが放火され、多くの犠牲者が出た時に、どれだけの韓国人が哀悼の意を表したか。韓流アイドルにはまったことがきっかけで、ついには韓国語をマスターしたという日本人も、大勢いるではありませんか。
韓日両国の政治家に今一度問いたいのは、そのことです。
あなたたちの言う「国益」「国家の威信」とは、こうした若い世代の思いを無にすることなのでしょうか。未来世代のために、相互批判と自己批判は共に必要だということが、どうして理解できないのですか?
韓日両国は歴史的な結びつきも深く、長きにわたって親しい関係だったではありませんか。江戸時代にも国交がありました。当時の朝鮮には、インジンの倭乱(豊臣秀吉の朝鮮出兵)という「歴史問題」があり、一方の日本は鎖国という体制であったにもかかわらず、です。
不幸な時代もありました。犠牲者のことは、忘れるべきではありません。
けれども、未来世代のために、関係を再構築することは、もっと大切だと私は思います。
(取材・構成・文責/林信吾)
【ヤン・テフン】
1967年、釜山生まれ。韓国の大学に合格していたが、兵役満了後、日本に私費留学し、城西大学経済学部卒業。韓国のTV製作会社の日本子会社勤務を経て、通訳・コーディネイターとして独立。現在はジャーナリストとしても活躍中。
トップ写真:竹島/独島(ドクト)出典:Wikimedia Commons
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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト
1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。