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.国際  投稿日:2020/1/26

比、新型ウィルスで中国人観光客強制送還


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

 

 

【まとめ】

コロナウィルス、比政府中国人観光客強制送還。

・シンガポールはSARS教訓に感染阻止対策実施。

・インドネシアはコロナウィルスの脅威への認識が甘いとの批判。

 

中国湖北省武漢を中心にして中国各都市そして日米韓など海外にも感染が拡大し深刻な問題となっている新型コロナウィルスによる肺炎の感染阻止に東南アジア諸国連合(ASEAN)各国も必死の水際対策で対処している。

 

そんな中フィリピン政府がこれまでに武漢からフィリピン国内の主にリゾート地を訪れている中国人観光客を本来の日程を前倒しして政府が用意したチャーター機で中国に送還する計画に着手している。

 

これまでに送還した中国人と1月27日までに送還予定の中国人は合わせて634人とされ、フィリピン国内への感染拡大を懸念するドゥテルテ政権による半ば強制送還」という思い切った措置は「自国民保護を最優先した対応策」としてフィリピン国内では好意的に受け止められている。

 

フィリピンではこれまで1月12日にセブ島に中国から英語学習のために到着した中国人母子の子供(5)が発熱やセキ、喉の痛みを訴えていたことから新型コロナウィルスの感染の能性があるとして地元病院に隔離してウィルス検査を受けていた。

 

フィリピン国内の「熱帯医学研究所」では類似の既存コロナウィルスか新型かという最終的な確定ができないため男子の検体データをオーストラリアの検査機関に送って検査を依頼していたが、25日までに新型コロナウィルスではないことが確認されたという。

 

このため25日現在でフィリピン国内では感染が確認された患者はいないものの、なお感染の疑いがある患者が数人隔離されて検査を受けている状態と保健当局はしている。

 

★リゾート地ボラカイ島に集中の中国人

 

中国人観光客は1月25日の中国正月(春節)の長期休暇で中国国内を大移動するが、フィリピンにも例年多くの観光客が押し寄せる。

 

フィリピン中部パナイ島にある国際的なリゾート観光地ボラカイ島にも1月20日の週からパナイ島アクラン州カリボにあるカリボ空港やアクラン空港経由で多くの中国人観光客の訪問がはじまり、主要なホテルやビーチには中国人観光客が溢れる状態となっていた。

写真)混雑するボラカイ島のビーチ

出典)Flickr; Kullez

 

地元紙「スター」や「フィリピンスター」などによると、保健当局は運輸省、入国管理局などと協力して1月23日に武漢からカリボ、アクラン空港に飛ぶパンパシフィック航空とローヤルエアー航空による週6便ある直行便の運航を同日以降全面的に停止する措置に踏み切った。

 

直行便の運航停止以前にボラカイ島などに到着している中国人観光客が今回の送還計画の対象で、25日までに178人を中国に向かうチャーター便に乗せて送還した。

 

さらに24日には143人、26日には178人、27日には135人の合計で634人を送還するとしている。

 

対象となる中国人観光客の中には30日のまでボラカイ島などに滞在する旅程だったグループも含まれているが、予定を繰り上げてチャーター機で例外なく送還させる方針としている。

 

★シンガポールのSARSの教訓生かした対策

 

ASEAN各国ではこれまでにタイで4人、シンガポールで3人、ベトナムで1人の新型コロナウィルスへの感染が確認されている。

 

各国とも国際空港や国際フェリーターミナルなどでの主に中国から到着する観光客などに対してサーモグラフィーや簡易体温検知器での体温チェックを厳しく実施しているものの、薬物服用で体温が下がった人やそもそも発熱を伴わない感染例も報告されていることなどから空港などでの水際対策がどこまで効果的か疑問の声も出ている。

 

2002年~2003年にかけてASEAN地域でも流行した「重症急性呼吸器症候群(SARS)」の際の対処を教訓として今回の新型コロナウィルスへの感染対策を講じているシンガポールでは、1月23日に中国から来訪してホテル滞在中に発熱症状を訴え病院に隔離して検査していた中国人男性(66)が同国で初めての感染者と判定され、その後新たに2人が確認され25日までに感染者は3人となった。

 

この最初のケースの男性が搭乗していた航空機の座席の周囲の乗客約30人、チャンギ空港からホテルまでに利用した交通機関、ホテルで接触した従業員などを素早く見つけ出して隔離、次々と検査を実施したのだった。こうした即応で幅広い範囲での感染阻止対策を実行できるのがシンガポールの強みといえる。

 

世界経済フォーラム(ダボス会議)出席のためスイスを訪問中のリー・シェンロン首相はテレビを通じて「国民はパニックに陥ることなく冷静に対処してほしい、政府はできる限りのことを全力で実施している」と国民に冷静な対応を呼びかけている。

 

写真)リー・シェンロン首相

出典)ロシア大統領府

 

 

★政府の認識甘いインドネシア

 

国際的観光地バリ島に例年の春節では多くの中国人観光客が訪れるインドネシアではこれまでのところ感染者の報告はない。一時感染の可能性が濃厚な患者が発生したとの一部報道があったが、保健当局が全面的にこの報道を否定して火消しに躍起となるとともに「未確認のネット情報やSNSの偽ニュースに惑わされないように」と国民に呼びかける事態となっている。

 

24日の地元紙の報道ではバリ島を訪れている中国人の子供2人が発熱を訴えたため念のため検査をしており、現在検査機関の結果待ちという。

 

こうした中、テラワン・アグス・プロランド保健相が地元メディアに対して「すでに政府は十分に注意警戒しており、今のところ(新型コロナウィルス感染拡大の)危険はない。ただの風邪と同じものだ」と発言、世界的な拡大傾向にある新型コロナウィルスを通常の風邪と同等視するなど脅威への認識が極めて甘いとの批判を受ける始末となっている。

 

保健行政のトップがこうした認識でいることから空港などでの水際対策や感染の可能性が指摘されている患者の検査、隔離などが果たして十分に実施できるのか疑問視する声もでている。

 

いずれにしろASEAN各国も春節を迎え、中国人の大移動が始まる中で新型コロナウィルスの感染予防対策に頭を悩ませているのが現状だ。

 

トップ写真)上海虹橋国際空港

出典)Flickr; Kentaro IEMOTO


この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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