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.国際  投稿日:2020/3/3

ジョコ政権発足百日、評価二分


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・第2期ジョコ・ウィドド内閣、発足100日経て評価は二分。

・高評価の国営企業相と財務相。法務人権相は「適格性」に疑問。

・大統領の閻魔帳次第で遠からず閣僚交代も。

 

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領が再選を果たし2019年10月23日に第2期政権を発足させて、約100日が経過したことを受けて政権に対する評価が出始めているが、その数字を巡って評価が分かれる結果となっている。また各閣僚個人への「評価」も世論調査で明らかになった。

通常新政権誕生から約100日を「ハネムーン期間」と称して、まずはお手並み拝見でメディアも野党も直接的な批判を控える傾向がある。ジョコ・ウィドド大統領の場合2014年から2019年までの5年間第1期として政権を担当した経緯があることから、第2期への国民の期待は高く、このたび行われた世論調査の結果も高い評価とまで言えない結果となった。

昨年10月の政権発足時にジョコ・ウィドド大統領はマスコミに対して「100日の政権の目標はあえて設けないので、100日間で政権評価をしないように」と注文をつけた。こうした姿勢は当時「目標を設定して達成できなかった、肯定的動きになっていなかったりした時の予防線を張った。つまりそれだけ第2期政権に自信がないのではないか」と否定的にとらえる向きがあった。

その一方で「若手や専門家など非政党関係者の閣僚を自身が選んで組閣した内閣だけに各閣僚にハネムーン評価にとらわれることなく、自由に仕事をしてほしい」との”親心”と前向きの評価もあった。

そうした配慮を示しながらもジョコ・ウィドド大統領は閣僚発表の席などで「真面目に仕事に前向きに取り組み、必死に仕事をしてほしい。そうでなければ辞めてもらう」と各閣僚に職務への真摯な取り組みを念押ししたのだった。

 

■ まずまずの評価か低評価か、判断分かれる

2月14日に大手紙「テンポ」などが伝えた「アルバラ・リサーチセンター」による世論調査の結果で、ジョコ・ウィドド大統領の第2期政権は調査した7項目全てで50%以上の「満足している」との評価を得た。

各項目の満足度は①家庭経済の改善64.7%②法の公正な執行63.6%③労働環境改善62.2%④腐敗汚職根絶61.5%⑤就職の安定60.8%⑥食品価格の安定56.2%⑦貧困克服51.9%となっている。

この調査結果をどう見るかでマスコミや政党関係者の評価は割れている。

政権発足100日の評価つまり試運転段階とはいえ前政権を引き継いだ閣僚(34閣僚中11人が留任あるいは横滑り)、継続された政策も多いことを勘案するとどの項目でも60%台に留まっている結果は「御祝儀評価でもなく、新鮮味がなくあまり期待できないということではないか」(地元マスコミ記者)というのだ。

生活に直結する食品価格の安定が56.2%と低い評価に留まっていることも生活レベルでの不満が残っていることを示しているといえる。

その一方で50%を下回る数字が出なかったことで「とりあえず好調な政権の滑り出しといえるのではないか。今後この数字を踏まえてさらに国民のために『前進する内閣』を続けていきたい」(最大与党闘争民主党幹部)との評価もある。「前進する内閣」は第2期政権にジョコ・ウィドド大統領が名付けた名前である。

「アルバラ・リサーチセンター」の世論調査は1月末から2月初旬にかけて全国13州の国民1000人を対象に実施した結果としている。

 

■ 最高評価の国営企業相と財務相

また「マハカ・グループ」による世論調査では各閣僚の評価も下され、エリック・トヒル国営企業相とスリ・ムルヤニ財務相がそれぞれ最高評価を受けた。同グループはエリック国営企業相が創業した民間企業だけにエリック氏への最高評価はある程度斟酌が必要と言われている。

▲写真 エリック・トヒル国営企業相 出典:Erick Thohir twitter

スリ財務相は世界銀行理事からジョコ・ウィドド政権1期目でも財務相を務め、再任されたインドネシア財政のベテランであり、政党色に染まっていない数少ない「プロの閣僚」として以前から高い評価を受けているが、それが維持されていることが証明された。

▲写真 スリ・ムルヤニ財務相 出典: Public domain

エリック国営企業相は、「マハカ・グループ」の創業者とビジネス界出身者ながらインドネシアの巨大化し放漫体質だった国営企業の体質改善に容赦なくメスをいれる手腕が高く評価されている。世論調査では「専門知識を備え、勇気をもって決断し、効率よく効果的に政策を実行している」と創業元のグループの調査とはいえ高い評価を得ている。

スシ財務相、エリック国営企業相はほぼ毎日テレビのニュースや新聞報道でその言動や活動が報じられており、マスコミの取材にも丁寧に応じる姿が国民に好印象を与えているのは事実である。

 

■ 大統領の閻魔帳次第で閣僚交代も

ジョコ・ウィドド内閣の目玉で35歳と最若手の配車サービス「ゴジェック」創業者から抜擢のナディム・マカリム教育文化相も教育制度や教員待遇で斬新な施策を打ち出して話題を振りまいている。

さらにジョコ・ウィドド大統領の政敵ながら入閣したプラボウォ・スビアント国防相も頻繁に海外を訪問して各国国防関係者と会談するなどして話題を振りまいているが、それほど高い評価を得るまでにはなっていない。

 

▲写真 入閣したプラボウォ・スビアント国防相(2019年10月23日) 出典:Sekretariat Negara twitter

また再任されたヤソナ・ラオリ法務人権相は人権問題発言で批判を受け謝罪に追い込まれたり、与党関係者の汚職捜査で捜査介入とみられる言動で法曹関係団体から「閣僚辞任要求」が出されたりするなど「適格性」に疑問も投げかけられている。

▲写真 ヤソナ・ラオリ法務人権相 出典: Public domain

こうした良きにつけ悪しきにつけニュースで取り上げられる閣僚がいる一方で、就任以来ほとんどニュースにならない閣僚がいるのも事実。現在は肺炎を起こす新型コロナウイルス対策で手一杯のジョコ・ウィドド大統領だが、密かにつけているだろう大統領の「閻魔帳」での採点次第では遠からず閣僚交代もあり得るとの見方もでている。

 

トップ写真:新型コロナウイルス対策に関連して取材を受けるインドネシアのジョコ・ウィドド大統領(2020年2月13日) 出典:Sekretariat Negara twitter


この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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