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.国際  投稿日:2020/4/2

TOKYO2020の行方 ウイルスより人間が怖い 3


林信吾(作家・ジャーナリスト)

林信吾の「西方見聞録」

【まとめ】

・五輪の2021年3月11日開催はできないか。

・大震災からの復興、コロナ克服を同時アピールできれば世界が喝采。

・被災地復興と首都圏耐震化による経済再生で「禍転じて福」も。

 

近年これほど「驚かれない」ニュースも少なかったのではあるまいか。

7月24日に開幕する予定だった東京オリンピック・パラリンピック(以下、五輪)は「1年程度の延期」が決まったと発表された。日本時間の3月24日、安倍首相とIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長が電話会談し、延期の話は日本側(=安倍首相)から提案され、バッハ会長は「100パーセント同意」である旨、即答したそうだ。

このニュースに驚かされた人がほとんどいなかったのは当然で、2月下旬の段階で、

「春の風物詩である選抜高校野球までが中止に追い込まれたのに、このまま夏になって国際的なスポーツイベントなど開催できるわけがない」

と、皆が思っていたからに違いない。一方で「中止」を強硬に主張する人もほとんどいなかったのは、もしも中止となれば巨額の経済的損失が生じることを皆が承知していたからだろう。様々な試算があるが、その額は5兆円近くとも7兆円に達するとも言われる。

延期される期間は前述のように「1年程度」で、3月末の段階で、2021年7月24日の開幕が有力視されているとの報道があるが、問題は山積している。会場はあらためて確保しなければsならないし、すでに売れているチケットをどうするか、スポンサーとの再契約問題、さらには代表選考をやり直すべきか否か、などなど。

大会コストも大きく膨らむが、これについては、もともと

「コンパクトな大会では、全然ないではないか」

という批判があったものを、非常事態だから、という理由でかわせる「怪我の功名」だと考えることもできる。よいことではないかも知れないが。

▲写真 安倍首相とバッハIOC会長は3月24日の電話会談で東京大会の「1年程度の延期」で合意した。写真は2019年9月23日 米・ニューヨークでの会談。

出典: IOC MEDIA twitter

 

それより問題なのは、ちょうど1年ほど延期して、つまり2021年夏の開催となった場合、大きなスポーツイベントとかちあってしまう。具体的には、6月にはEURO(サッカー欧州選手権)とコパ・アメリカ(南米選手権)が、7月から8月にかけては水泳と陸上競技の世界選手権がそれぞれ予定されている。スケジュール的に「丸かぶり」となりかねず、会場や選手の調整の問題が一段と深刻になるのだ。

そこでひとつのアイデア……いや、現段階でこのようなことを言うのは、理想論どころか単なる夢想だと我ながら思えるのだが、どのみち先行きがまったく不透明であるし、後述の自粛ムード一色で気が滅入る、という方も少なからずおられると思える中、夢物語のような記事を1本あえて掲載したところで、バチは当たるまい。

2021年3月11日に開幕することは、できないものだろうか。

読者ご賢察の通り、東日本大震災からちょうど10年目の節目だ。

開会式は夜にして、昼間は最終リハーサルを兼ね、参加者・関係者全員が国立競技場に集まる。慰霊式典の模様はパブリックビューイングで中継する。そして地震発生時刻の日本時間14時26分、全参加者に黙祷してもらうと同時に、TV中継を通じて世界中の人に、鎮魂の祈りをささげるよう呼びかけるのだ。

さらには慰霊式典の会場において、

「10年かかってしまったけれども、今や仮設住宅での避難生活を強いられている被災者は、ただの1人もいない」

と宣言することができれば、五輪開幕に先駆けて、世界中から拍手喝采となるだろう。

開会式を夜にするのは、どうせ開催コストも膨らんだことだし、いっそのこと大花火大会で式典に花を添えれば、という、まあ思い付きだが、昼間の鎮魂ムードから一転、

「人類は新型コロナウイルスの脅威を乗り越えた」

という祝賀ムードを演出すれば、これもまた世界から歓迎されるだろう。過去に多くの五輪が、夜に開会式を行った先例もあるではないか。

3月開催が理想的である理由は、他にもある。

延期となったことで、前述のように出場選手は調整のやり直しを迫られるわけだが、その期間は短ければ短いほどよい。半年の延期と丸1年の延期では、条件がかなり違う。とりわけ年齢的にピークを過ぎて、今次の五輪を「現役最後の花道」と考えていたような選手にとっては、そうである。

もともと7月24日開幕というスケジュールは、TV放映権料などが高く売れるから、という理由で決まったのだと言われており、酷暑の東京での大会となることについては、選手やボランティアの負担が大きすぎるのではないか、という心配の声が根強くあった。本来は五輪の目玉種目であるマラソンが、開催地を札幌に変更されたほどである。

▲写真 小池百合子・東京都知事(2020年3月19日 都庁)

出典: 東京都知事 小池百合子の活動レポート facebook

 

この件については小池百合子都知事が、

「春に開催できれば、マラソンを札幌から取り戻せる」

などと発言したと報じられたが、残念ながら都知事とはあくまで「開催都市の首長」であって、五輪の個別具体的な問題については、なんの権限もない。ただ、国際世論の後押しさえ得られれば、IOCに再考を促すことも可能だろう。

 

もうひとつ、東京では3月上旬に桜が咲き始めて、大会期間中に満開になると思われる。五輪開催とセットで、海外からの観光客を呼び戻すための目玉とできる。

……先ほども述べたが、これは夢物語のような話だ。

3月27日には、全米の感染者がついに10万人を超えたと報じられたし、英国ではジョンソン首相とチャールズ皇太子までが感染した。

これから本格的に寒くなる南半球においては、医療・衛生環境がいずれも北半球に劣る地域が多く、それだけ状況の急激な悪化が懸念される。

なにより、今の世界は人・物・カネ(資金)、そして情報が国境を超えて行き交うからこそ、経済活動が成り立っているので、それが止まってしまったからには、世界的に、それもリーマン・ショックを凌駕するほどの大不況に見舞われるのは避けられない、と多くのエコノミストが警告している。

この問題は次回・最終回であらためて見るが、今ここで言っておきたいのは、土壇場まで「予定通りの開催」を公言しておきながら、なんの説明もなく態度を豹変させた上、延期と決まった途端に「自粛」一辺倒に転じた、安倍首相と小池都知事は、いずれ必ず、その責任を問われなければならない、ということだ。

その前提で、大胆な財政出動を行って、被災地の復興と首都圏の耐震化を経済再生のテコ入れに利用して行けば、たとえわずかながらでも

「禍を転じて福と為す」

ことができる可能性は、まだ残されていると、私は信じたい。

(その4最終回に続く。1,2,3

 

▲トップ写真:羽田空港に設置された来日客を歓迎するパネル(2018年12月)

出典: 東京都オリンピック・パラリンピック準備局 facebook

 


この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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