無料会員募集中
.国際  投稿日:2020/5/31

仏の経済再開、第2フェーズ


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・仏、レストランや学校がほぼ全域にわたって再開

・パリの飲食店はいまだテラスのみの再開しか許可されず。

・飲食、教育現場は身体的距離を保つことが義務づけられ課題も山積。

 

フランスではとうとう、6月2日から新型コロナウイルス感染防止対策に対する規制緩和の第2フェーズがはじまる。5月28日には、エドゥアール・フィリップ首相をはじめとする関係閣僚から、第2フェーズの規制緩和内容についての発表が行われた。フィリップ首相によれば、現在、フランスは目標よりも早いペースで感染が収まりつつあるり、その結果、6月2日からは感染が大きく拡大している地域とされたレッドゾーンはなくなり、その代わりに感染は治まってきたがまだ注意が必要とされるオレンジゾーンと、感染が収まってきているグリーンゾーンにわけられることとなった。

フランス政府が行った発表の内容については、日本の外務省が出している、「フィリップ首相ほか関係閣僚の記者会見(6月2日以降の措置緩和)」がとても詳しい。このページに書かれていることは、在フランス日本国大使館からフランス国内に住んでいる日本人にメールで送られている内容であり、新型コロナウイルスに関する発表に関しては、毎回、全範囲、とてもていねいにまとめられている。

今回発表された第2フェーズが大きな一歩となった点は、レストランや学校がほぼ全域にわたって再開されたことだ。この日を待ちに待っていた市民は多い。しかしながら、1mの身体的距離(人と人との距離をとること、ソーシャル・ディスタンシング)の徹底がもとめられている間は、完全に元の生活に戻ることはできず、学校や、経営者はまだまだ頭を抱える日々が続いている。

▲写真 フィリップ首相 出典:Flickr; Jacques Paquier

 

■ パリはいまだテラスのみしか再開が許可されていない

飲食業は、外出禁止期間中に大きく打撃を受けた業界の一つだ。それでも、テイクアウトに変更することで多少継続できていた店もあるが、現在まで90%の店は閉鎖を余儀なくされていた。今回の規制緩和では、そんなレストランがすべてウィルス予防の規則を守った上で再開できることとなったのだ。ただし、イルドフランスを含むオレンジゾーンでは屋外に位置するテラス席のみが許可されると限定されたため、テラス席を多くもたないパリの飲食店経営者からは不満の声があがっている。

例えば、通常は室内に80席設けることで切り盛りしていたレストラン。経営を再開すれば現在一時的失業者に登録された従業員に通常の給料を払い、固定費を払っていくことになる。しかし、テラス席が20席しかない状態では、とうてい経営が成り立たないのだ。

パリ市はそんなレストランの悩みを解消するためにも、少しでもテラス席が増えるように支援を予定している。LCIに出演していたムニール・マジュビ議員によると、店の前にある駐車場をテラスとして使えるように許可を出すなど、テラスの面積を広げることを支援するとした。すでに案は練られている。駐車場など公共のスペースについては使用料を無料とし、使用の際はオンラインで申請すればよいこととなったのだ。また、いくつかの道路では午後7時から10時まで車の通行を止め歩行者天国とし、夜の食事の時間を楽しめるようにもするそうだ。

だがそれでも細い路地などにあるレストランではテラス席を持つことは難しく、最終的には、全体の約3分の1は、室内営業が許可される6月22日まで再開しない決断を下している。しかしながら室内の営業が再開されても、レストラン経営者の悩みが完全に解決するわけではない。今後、約40%のレストランの倒産の危機を心配する声もあがっている。

▲写真 パリ テラスのあるレストラン(コロナ前) 出典:Flickr; zoetnet

 

■ 約40%のレストランが倒産の危機

レストランの再開が認められたレストランの多くはもちろん再開できることを喜んでおり、どのように対応していくかの案を練り、再開に向けて準備をすすめている。しかしながら、再開できないとするレストランも多い。45000が集まる事業主のグループ及び、SOS Bistrotsでおこなったさまざまなアンケートから得られた結果によれば、約40%のレストランは「援助活動をしなければ」倒産するおそれがあるという。ボルドーのシェフ、フィリップ・エチェベスト氏はそう訴え、レストランへのさらなる支援を求めている。エチェベスト氏は、テレビの料理関係の番組にも出演している人気のシェフであり、外出禁止期間中にマクロン大統領からレストランの現状について意見を求められた人物の一人だ。

外出禁止が始まった最初の頃から、レストラン救済を訴えていたエチェベスト氏だが、「再開の許可は、経済危機の終わりと同じ意味ではない。」と説明する。なぜなら以前と違い、現在は感染予防のために、客同士の間には1mの身体的距離をおかなければいけないからだ。

人の間隔が1mの距離があくようにテーブルを並べてレストランを運営した状態では、高級レストランでもない限り、全てのレストランが利益を得られるれわけではない。庶民にやさしい値段のレストランでは狭い空間をやりくりしながら席数をそろえて経営しているのだ。30席しかない小さなレストランでは、1mの身体的距離をおくと10席しかとれない。これでは働いても利益がでないだろう。その解決策として、グリーンゾーンでもテラスを拡大し屋外の席を増やすよう支援が行われる予定だ。パリ市同様に車の一時的な通行止めによる歩行者天国も実施される町は多く、今年いっぱいテラス席に税金をかけないなどの支援がおこなわれる町もある。

しかしながら、テラス拡大もできない立地の小さいレストランはどうなるのか。そこはパリと同様な問題を抱えている。もちろんレストラン側も、ケータリングサービスを増やすなどの違う方向での営業努力が求められているが、全部の店が対応できるわけでもない。エチェベスト氏が参加している22000人が登録しているチャットグループでも、すでに倒産した店も出てきているそうだ。中には自殺未遂をした人もおり、今、何もしなければ、もっと悪化するかもしれないと心配をかくせない。こういった人々を助けるためにも、一時的失業の期間延長と、救済基金を設立すべきだと提案し、経営者を安心させる策を求めている。

 

■ 学校も人数制限で行きたくても通えない生徒もいる

また、学校でも身体的距離を保つことが義務づけられていることにより、同じように多くの生徒を受け入れられないという問題をかかえている。5月11日より小学校以下はすでに82.5%の学校が再開されているが、一人あたり4m2のスペースを保とうとすると、クラスには15人以下しか入れないということもあり、学校が一日に受け入れられる児童は20~25%のみだ。2週目に再開された中学校もすでに95.5%が再開しているが、通学している生徒は現状28%となっている。現在、約50%の親は子供が学校に通うことを望んでいるが、学校にくることを希望する全員を受け入れられないことが問題になっているのだ。

確かに厳格な衛生管理のおかげで、校内での感染はほぼ報告されていない。4000件再開した学校で1週目には70件の学校が一時閉鎖をしたが、いずれもほとんどが外部で感染した生徒もしくは職員が一人いたため、規則に従い閉鎖されのだ。厳格な衛生管理は子供たちをウィルスから守ってはいるが、しかし、学校側もスペースの関係からこれ以上の人数を受け入れできない。その結果、仕事に復帰したくてもできない家庭もあり、一時的失業状態を続けている保護者もいる。

しかしながら、ジャン=ミシェル・ブランケール国民教育大臣は、29日に出演したFranceInfoで、6月1日以降も衛生管理の内容は変えないとした。科学評議会や関係者との話し合いがもたれた結果だ。現在は、安全に子供たちを学校にいかせることに重点がおかれている。それでも、できる限りの子供たちを学校に行かせ子供たちにとって重要になる社会生活を再開させるとし、市の体育館などに活動範囲を広げ体を動かすことを主とした課外プログラムを計画している。これにより、さらに多くの児童、生徒が復帰できるだろうと述べた。

課外プログラムでは、どこまで勉強ができるのかはわからないが、いずれにせよ、最後まで残すように議論されたバカロレアのフランス語の口頭試験も中止となり、学校側も今年の教育カリキュラムをすべてを通常通りこなすことを目標にしていないのは明白だ。子供たちの社会的生活を取り戻したり、働く親の支援のため子供を学校に受け入れたり、オンラインではついていけない子供のフォロー、卒業するのに十分な成績が取れていない生徒のフォローを主としている。今学校に行っても、通常の学校生活に完全に戻るわけではないのである。

▲写真 教室(イメージ) 出典:Flickr; Allison Meier

 

■ 解放感と身体的距離と経済活動のバランスを保つべき期間

現在、フランスは日本が行っているのと同様にクラスター発生の予防を重視するアプローチを行い対処している。それがようやくできるほどに新規感染者の数も減り、PCR検査ができる施設も増加されたのだ。その結果、5月11日以降、確認されたクラスターの数は109件であり、その65%が5人以上感染しているというが、すべてがコントロール下にあるという。しかし、これだけ気を付けていても100件以上のクラスターが発生していることを考えると、まだまだ今後も身体的距離を取り、気を付けていくことは必要な理由も理解できるだろう。

徐々に規制が緩和されていくが、映画館やディスコ、サッカーの試合などが開催されるスタジアムはまだ再開されない。5月11日から外出禁止が解除されてから、若者たちがパリのサンマルタン運河のほとりにあつまったり、ボルドー近くのアルカッションでは100人ほどが海岸に集まりDJが流す音楽に合わせ踊ったり、東部ストラスブールでサッカーの試合を許可なく行い約400人が観戦し、イルドフランスのグリニーでも300人が集まりサッカーを行ったことが問題になったが、そこに集まる人々は、まったく身体的距離などとれていなかった。この状況でディスコやサッカー観戦など再開しても、予防は徹底されないであろうし、再開されないのはいたしかたない。

今回、再開が許可されたのは、困難が多少あっても、工夫しだいでなんとかやっていけるだろうという施設がほとんどだ。ルーヴル美術館も含む、全国のすべて美術館も再開した。その他にも、パリの百貨店プランタンやギャラリーラファイエットも再開された。グリーンゾーンでは、劇場やスポーツジムなども再開が許された。さらに、100Kmの移動制限もなくなり、欧州連合(EU)内ならどこにでも移動可能になった。6月15日からは、EU域内からの旅行者の入国も許されることになり、人の行き来もまたぐっと増加していくだろう。夏のバカンスも近づき、現在、フランス人の多くは解放感でいっぱいだ

そんな中だからこそ、身体的距離をとり感染の再蔓延(まんえん)も防いでいかなくてはいかない。これから数カ月はレストランを含む企業は、知恵と努力と衛生への配慮など多くのことがいつもより要求される期間となるだろう。7月10日までの非常時宣言が出されている期間は、当たり前だが通常の状態ではないのだ。

あれだけの状況だったフランスが、学校再開だの、バカンスの準備だの、はやばやと規制緩和が行われたように感じるが、このように現状はそれなりに厳しい状況となっている。BMFTVに出演したシベット・ンディアイ政府報道官によれば、夏の間はまだウィルスが存在していることを忘れないためにも、多くのことを通常に戻しながら違う段階としての規制は残す予定だと述べている。気持ちは解放感であふれていても、いくら太陽がまぶしくても、新型コロナウイルスはまだ存在しているのだ。まだまだ気を引き締めていかなくてはならず、通常通りには戻らず我慢が続く状況は、どこの国でも同じことなのである。

 

-参考記事 –

https://www.franceinter.fr/retour-des-enfants-a-l-ecole-faut-il-assouplir-le-strict-protocole-sanitaire-du-ministere

https://www.francetvinfo.fr/sante/maladie/coronavirus/reprise-des-cours-la-plupart-des-proviseurs-sont-prets-les-lyceens-rentreront-le-3juin-ou-le-surlendemain-le-4juin-assure-jean-michel-blanquer_3986313.html

https://www.lci.fr/police/video-deconfinemen-covid-19-coronavirus-fete-improvisee-sur-une-plage-d-arcachon-la-prefete-promet-des-sanctions-2154780.html

http://www.leparisien.fr/video/video-grigny-un-match-de-foot-illegal-reunit-300-spectateurs-27-05-2020-8324550.php

https://www.lci.fr/politique/video-coronavirus-envoyez-les-enfants-a-l-ecole-jean-michel-blanquer-veut-un-mois-de-juin-plein-et-entier-de-rescolarisation-2154778.html

https://www.francetvinfo.fr/sante/maladie/coronavirus/coronavirus-109-foyers-de-contamination-en-france-mais-pas-de-reprise-de-l-epidemie-selon-sante-publique-france_3987189.html

https://www.lci.fr/population/deconfinement-a-paris-certaines-rues-fermees-entre-19h-et-22h-pour-laisser-la-place-aux-terrasses-de-cafes-et-restaurants-2155117.html

https://www.huffingtonpost.fr/entry/comment-les-restaurants-et-bars-de-paris-vont-rouvrir-leurs-terrasses_fr_5ed11c50c5b6392ca7783253

https://www.francetvinfo.fr/sante/maladie/coronavirus/difficultes-des-bars-et-restaurants-je-connais-des-cas-de-suicides-et-j-ai-peur-que-si-on-ne-fait-rien-ca-risque-de-s-aggraver-previent-le-chef-philippe-etchebest_3987997.html

写真:マスク生産 出典:フランス政府Facebook


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."