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.国際  投稿日:2020/6/23

小学生も「差別」学ぶアメリカ


柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)

【まとめ】

・米「黒人奴隷解放記念日」を祝日に制定する動き。

・米小学校ではキング牧師の歴史、黒人射殺事件についての授業。

・子供たちも差別や暴力の現実には向き合わなければならない。

 

6月19日はアメリカでは「Juneteenth(ジューン・ティーンス)」と呼ばれる「黒人奴隷解放記念日」である。

国の祝日では無いものの、今年はこの日を祝日として制定しようという動きが活発である。言わずもがな、ジョージ・フロイド氏殺害事件がきっかけとなっている。

恥ずかしながら、この6月19日、という日が、アメリカにとってどういう日であるかを全く知らなかったので調べてみた。直接の動機は、小学校1年生の息子のリモート授業に「Juneteenthってなに?」というビデオが含まれていたからだ。

Juneteenthとは6月を示す「June」と19日の「Nineteenth」をかけた造語だと言う。

テキサス州・ガルベストンはヒューストンの南に位置する島で、歴史ある街である。

リンカーン大統領の奴隷解放宣言から2年後の1865年「6月19日」に南北戦争に勝った北軍のグレンジャー少将が2000人の連隊を引き連れガルベストンに到着、奴隷の解放を告げたこの日に黒人奴隷はようやく自由の身になる。

以来、150年以上、この日は、黒人の人々にとって自由を獲得した第一歩の日、としてお祝いをする日となった。

先日、取材の一環で、父親がナイジェリア人だという日本人女性と知り合った。名前をリジーさんという。22歳。一見してアフリカ系だが、日本生まれの日本育ち。高校卒業まで日本在住で、現在はニューヨークで大学に通う。

リジーさんは自らの境遇と照らしあわせて、今回のBLM運動やデモで感じたことを6月の初旬にSNSに動画で発信したところ、その再生回数は200万回を超えた。

見た目が黒人、ということで、日本で差別的な扱いも受けたこともあるという。アルバイト先で、黒人だから、という理由で苦情を受けたり、黒人で見た目が怖いからレストランで働けない、と言われたこともあって、日本にいる時、自分の肌の色や髪の毛がいやになったこともあったという。

▲写真 デモに参加するリジーさん 出典:筆者撮影

「ただ、それが日本でよかった。こっちだったら肌の色だけで殺されたり、捕まっちゃうこともある人もいたりする状況を、日本の人にもっと知ってほしい」「デモで皆が声を上げていることをどう思うかを言葉に出してほしい。何も差別されたことがない人は、黒人は生まれてから黒人だから差別されてもしょうがない、と教えられて過ごして(いる)」

今は、自身が黒人であることを自らにしかない魅力だと感じ、モデルの仕事もしている。そして、自分の立場を通して見たことを、日本語で、引き続き自身のSNSで発信し続けている。

差別や、黒人が置かれた立場を日本語で語るリジーさんの言葉は重く、説得力がある。

6月19日にはアメリカ生まれの小1の息子と、その日のリモート授業に出されたビデオを見た。

ビデオはJuneteenthのお祝いの日を前に、その日が何の日であるかを、娘に語って聞かせる絵本の朗読で、まさに1865年6月19日にガルベストンで起きたこととその後が描かれる。

息子の学校は地域の影響もあり、クラスの白人児童が3割で、その他は有色人種児童。アジア系に至っては息子と2人だけである。

息子はビデオを見て、人が人を所有していた歴史を知り、真っ先に「そんなのおかしいよ」と言った。

息子の学校の授業内容は、小学校1年生に教えられる内容としては、日本では考えにくいものかも知れない。

1月のマーチン・ルーサー・キング牧師の誕生日を前にした授業では、キング牧師が銃で殺された、という歴史を教えられる。当然、クラスには黒人の児童も、白人の児童もいる。

そして、暴動やデモがNYで吹き荒れた6月初旬のリモート授業は、課外授業という位置づけで「わたしたちのまちでおこったこと」という絵本が朗読された。

▲写真 ユニオンスクエアの集会 出典:筆者撮影

絵本は自分たちの街で起こった白人警察官による黒人射殺事件が描かれている。もちろん子供向けの絵本である。

人が人を殺す、という内容を、正直、小学校1年生の授業で扱うことに抵抗がないといえば嘘になる。だが、現実に自分たちが住んでいる街が破壊され、人々が叫びを上げているのをテレビなどを通して目の当たりにしている子どもたちに、大人の問題だから、と話題にせずにいられる事だろうか。

多様な人種で構成されるこの土地に住む以上、現実にいずれは自身か、家族か、友達か知り合いが肌の色が原因で暴力に遭ったりするであろう現実からは逃れられない。その時、人として、何を思うか。

差別や暴力を幼いうちの教育の現場で扱わずにいても、遅かれ早かれ、子どもたちも皆、その現実には向き合わなければならない。

日本人に住む大多数の日本人は肌の色による差別を経験しない。

だが、日本にも「いじめ」という肌の色によらない「差別」も存在する。こどもにも大人にも。

アメリカでの差別の現実は、時には命を落とすことに繋がる。

現実から目を背けずそれを見据えた教育を行うことが、より多様的な考え方ができる人間を育てることにつながらないだろうか。

▲写真 歌う人 出典:筆者撮影

息子を教える先生方は、いわゆる「ミレニアル世代」

アメリカでは2001年の同時多発テロが成人のころ発生し、理不尽や不正を嫌い、社会変革に介入するのを肯定的に捉える世代と言われる。

そして、先に紹介したリジーさんや、今、中心でデモ行進を支える若者はそれに続く「ジェネレーションZ(Z世代/スマホ世代)」が多い。

SNSで横とのつながりを重視する彼らは違う人種でも普通に友人、仲間ととみなす。今回のデモには白人の参加者も多い。

今、毎日メディアに登場するZ世代を眺めていると、自ら積極的に未来を作り上げていこうとする頼もしさを感じる。彼らは、親の世代にはもう任せられない。

個人的には、不自由であっても今までに感じたことのない価値観を得ることも出来たコロナ禍。

その騒ぎのさなか起きた一連の出来事は、長い目で見れば新しい時代の幕開けとなる予感もする。

日々の変化を肌で感じていると、先に待ち受ける未来は、困難であっても、さほど悪いことばかりではない気もする。

 

トップ写真:花でかたどられた「George」の文字@タイムズスクエア  出典:筆者撮影


この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー

1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。

柏原雅弘

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