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スポーツ  投稿日:2020/7/18

母に捧げる五輪 セブンズラグビー日本代表候補藤田慶和選手


神津伸子(ジャーナリスト・元産経新聞記者)

【まとめ】

・代表引退した福岡堅樹らの思い受け継ぎ五輪へ。

・知名度低いセブンズのスポーツとしての価値を五輪で上げたい。

・母の夢である五輪出場を何としても叶えたい。

 

リオ五輪では4位入賞、東京ではメダルを狙う男子7人制ラグビー(セブンズ)日本代表候補選手の藤田慶和パナソニック)のオンライン記者会見が開かれた。

現在、セブンズ代表候補は新型コロナウィルス感染予防のため、北海道、東京、名古屋、福岡、大阪の全国5カ所に分散してトレーニングを行っている。もちろんノーコンタクトだ。この日、藤田は東京での練習に参加した後、
「自粛期間が長かったので、こうして集まってトレーニング出来て幸せです」などと、今の思いを語った。

何としても恩返しがしたい。母の夢は「息子をオリンピック選手に」「母は、息子をオリンピック選手にしたいという夢を持っています。色々とずっとサポートしてもらっているので、次は僕がプレーで母に恩返しがしたいです。何としても、オリンピックに出場して、母の夢を一緒に叶えたいと考えています」

それまで、自身のプレーやチーム状態などについて語っていた藤田の表情が、一人の息子のそれに戻った瞬間だった。優しい思いが溢れ出た。

▲写真 オンライン会見後に、すこし和む藤田選手 出典:©︎JAPAN RUGBY FOOTBALL UNION

実は、藤田はリオ五輪でもセブンズ日本代表候補に選出されながらも、間際で外されバックアップに回っていた。スタンドから眺める仲間のシーンは、嬉しいはずなのに心から喜べなかった。それは、母へのこのような思いも強い事にも起因するのかもしれない。

早稲田OBによると、母親の里美さんはバスケットボールをやっていたという。藤田の弟・達成(NTTドコモ)らと共にスポーツ一家だ。緊急事態宣言による自粛期間中は京都にある実家に帰省して、自主トレに励んでいた。

「いい坂を、近くに見つけたんですよ。で、上り下りしたり、家の中で器具を使って身体を作り、長いシーズンを故障なく戦い抜くために鍛えました」
早稲田大学時代も、怪我に泣いた藤田ならではの思いだ。

毎日、母親は藤田の体重の増減を心配して、栄養やカロリーを考慮したメニューを考えて、食事作りに励んでくれた。

そんな中、いつもは一緒に過ごす事が出来ない5月の母の日を、弟の達成と一緒に祝う事が出来た。自身のブログにも、こう綴っている。

「母親はいつも僕たちのことを陰で支えてくれていて、本当に心強い存在です!!これからも僕たちのことをよろしくお願いします」
大きくて、心優しい2人の息子たちは色とりどりのカーネーションと、ロキシタンのボディクリームをプレゼントしている。

 

■司令塔の自覚を持って突き進む

そんな孝行息子も26歳。

チームでも「今までは若手として引っ張ってもらいましたが、年齢的にも中堅になって来たので、これからは自分で引っ張って行きたい」

4カ月後に東京五輪を控えたタイミングで、延期がアナウンスされた。正直、一度はモチベーションが下がったが、

「1年間多く、自分たちが成長していく時間が貰えた」と、今は気持ちを切り替えて、練習に励んでいる。週に一度はセブンズ代表候補で集まり、それ以外はホームチームのパナソニックワイルドナイツの群馬県太田市にあるグラウンドで汗を流す。

チームメイトである福岡堅樹が、昨年の15人制W杯の大活躍を花道に、代表からの引退を表明した。最近は直接連絡は取っていないと言うが

「本音としては、一緒に戦えなくなるのはすごく残念です。堅樹さんとは共にプレイしてメダルを取りたかったです。でも、今まで一緒にやってきた仲間である、引退した選手たちの分までオリンピックで活躍できるように頑張りたいです」

と、前を向く。

個人の目標としては、代表チームがセブンズのワールドシリーズのコアチームに昇格したので、そこで勝てる力作りだ。

「世界一速く起き上がって、世界一速く動ける選手に」

藤田自身は東福岡高校時代、花園で行われる全国高等学校ラグビーフットボール大会3連覇の立役者で、早稲田大学に進学。高校3年生で7人制、大学1年生にして15人制のキャップを獲得している。熱烈なラグビーファンが多い同大学。その一人は

「怪我多かったが、手足が長く、しなやかなプレイぶりに魅了された。お願いすると一緒に写真も撮ってくれて、優しかった」と、振り返る。その後、パナソニックでプレイを続けるが、2018年にはサンウルブズにも追加招集されている。

チームとして目指すところは、“BEE ラグビー”。

少し耳慣れないが、BEE(蜂)のように機敏に速く動いて、相手を翻弄するプレイで、メダルを目指す。日本人選手の得意とするところだ。敏捷性、華麗なるステップワークに磨きをかけたい。

そのチームの中で、藤田は司令塔の役割を担う。ウルグアイで行われた南米シリーズではMVPにも輝く活躍を見せた。ゲームメークをする“司令塔”である藤田は

「絶対に自分はブレてはいけない。雰囲気に流されない。自分がブレたらチームが混乱する」

と、チームの中での役割をしっかりと自覚する。

▲写真 HSBCワールドラグビーセブンズ チャレンジャーシリーズ チリ大会終了後、仲間と引き上げる藤田選手 出典:©︎JAPAN RUGBY FOOTBALL UNION

セブンズを見たことが無い方には、イメージしにくいかもしれないが、7人制ラグビーは15人制と同じ広さのグラウンドを、7人の選手で駆け巡る。個々の選手の走力や判断力、広いエリアの中での少人数での駆け引きや、タックルに来る相手を巧みなステップワークでかわしていく場面が見せ場となる。前後半各7分で勝負を決する。1日に3試合ほどこなすのは当たり前のスポーツだ。観客席も華やかに仮装したりして、お祭りのように楽しむ競技。15人制とは、別モノというファンが多い。

 

■7人制ラグビーのスポーツとしての価値を高めたい

さて、練習の再開を心から喜ぶ藤田だが、「今は、コロナの終息が一番」と、話す。
来年の東京五輪の開催さえ、世界中の現状を鑑みて、まだまだ予断を許さない。状況次第ではワールドシリーズなどの世界大会やなども、どうなるかわからない。

「(公式試合や五輪が執り行われるかどうかは)自分たちで、そこはコントロール出来ないところなので、どうしようもない。自分たちに出来る事は、今のスケジュールでしっかり準備をすることだけです。世界で勝つために」と、きっぱり。

目標はまずは東京五輪、セブンズでメダルを獲ることだ。そして、その先は2023年の15人制のW杯へと。15人制では、2015年W杯イングランド大会では代表を経験したが、昨年の日本中が熱狂した東京大会では外れてしまっている。

それでも、藤田は常に前を見据える。

「オリンピックでは、日本中でスポーツ自体の価値が上がると思うのです。そして、セブンズもメダルを獲って活躍出来れば、価値が上がる。まだまだ多くの人に知られていない7人制ラグビーを多くの皆さんに知ってもらうチャンスだと。多くの人々に感動を与えるプレイをしたいです」

こう、セブンズの発展も、しっかりと心に誓いながら―。

トップ写真:HSBCワールドラグビーセブンズ チャレンジャーシリーズ チリ大会で躍動する藤田選手(左端) 出典:©︎JAPAN RUGBY FOOTBALL UNION


この記事を書いた人
神津伸子ジャーナリスト・元産経新聞記者

1983年慶應義塾大学文学部卒業。同年4月シャープ株式会社入社東京広報室勤務。1987年2月産経新聞社入社。多摩支局、社会部、文化部取材記者として活動。警視庁方面担当、遊軍、気象庁記者クラブ、演劇記者会などに所属。1994年にカナダ・トロントに移り住む。フリーランスとして独立。朝日新聞出版「AERA」にて「女子アイスホッケー・スマイルJAPAN」「CAP女子増殖中」「アイスホッケー日本女子ソチ五輪代表床亜矢可選手インタビュー」「SAYONARA国立競技場}」など取材・執筆

神津伸子

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