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.国際  投稿日:2020/8/12

コロナ禍で❝教育不平等❞ 浮き彫り 荒波の中、NY州が学校再開へ


柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)

【まとめ】

・米NY州知事が、9月から学校での対面授業再開を決定。

・「オンライン学習以前に、地域により教育機会に不平等発生」と州知事。

・学校再開に反対する保護者や教師も。荒波の中の再出発へ。

 

先週末、クオモ・ニューヨーク州知事は、9月から学校での対面の授業を再開する、という決定を行った。大都市圏では全米で唯一の再開である。感染率が1%まで下がり、状況が整った、との判断だが、全米がその成り行きを注目している。

我が家の小学生の息子は3月13日以来、学校閉鎖により自宅でずっとオンライン学習。一日たりとも登校できた日はない。

長い長い夏休みになってしまった。

その間、経済再開の一環としての位置づけで、9月からの学校再開をトランプ大統領が強制とも取れる態度を示すなどしたため、地方自治が広く認められているアメリカでは、再開の権限は連邦政府にないし、コロナ対策は政治では動かない、と宣言しているクオモ州知事が反発。全米でほぼ唯一コロナ対策が「成功」しているニューヨーク州としては、より慎重に可否を検討していた。

クオモ州知事がその決定を発表したのは週も終わりの金曜日、8月7日になってからだった。

▲写真 クオモ・ニューヨーク州知事 出典:ニューヨーク州公式ホームページ

再開の柱は「ブレンディッド・ラーニング」と呼ばれる、生徒が週に2~3日学校に通い、残りの日を従来どおりのオンラインで行う、という方式での授業で、保護者は、この方式を選択するか、すべての授業を家庭でのオンライン授業にするかの選択を迫られた。

再開可否の判断は発表の約束をした週が終わってしまう直前ぎりぎりまでなされなかった。そこには現場のコロナ対策だけでは済まない、ニューヨーク市ならではの事情が垣間見える。

ニューヨーク市は児童生徒が110万人以上もいる、全米最大の学区だ。児童生徒を平常の教育環境に戻してやる必要性もさることながら、家庭で子供がずっと学習を続けている状態では、働きに出られない親の数を無視できない。

夏休み前までの3ヶ月間、コロナ禍ですべての生徒は家庭でのオンライン授業に移行することとなったが、夏休みを迎える前までに、当初、あまり想定されていなかった問題が格差という形で目に見えるようになった。

数日しか準備期間がなかったオンラインに移行した授業は当初、パソコンやタブレットを持たない家庭には、学校や自治体から端末を貸与することで手探りながらも順調に滑り出したかに見えた。

だが、学校、という場を失った生徒の中には、コロナ禍で親が失業して住居を失い、オンラインで授業を受ける場所も失った、という生徒もいた。他にも住居はあっても家庭で物理的、金銭的にネット環境を持てないため授業が受けられない生徒、加えて私の近くには移民として来たばかりで親も英語を解さず、何が起きているか自体、理解していない家庭もあった。

こういうことから、オンライン学習の内容の良し悪しを議論する以前に、地域によっては生徒に対しての教育機会に不平等が発生していることを学んだ、と7日の会見でクオモ知事は語った。

▲写真 ニューヨーク州教育局ホームページより

ちなみに、ニューヨーク市教育局の統計によれば、市内の公立校に通う児童生徒は、13.2%が今、英語を学んでいて(親は新規移民で英語を解さない可能性がある)、20.2%の児童生徒がなんらかの障害を抱えて、72.8%は家庭が経済的に不利な状況にある、とされている。

また、人種民族の内訳が、

ヒスパニック系 40.6%

黒人 25.5%

アジア系 16.2%

白人 15.1%

となっており、コロナ禍でも英語以外での情報提供が当初少なかったことが、初期の被害拡大につながったとの指摘もあり、言語や経済格差の問題も、教育を受ける機会のさらなる不平等に密接につながっていて、学校再開に関しての最善策は見いだせない。

学校再開に不安を感じ、9月以降も完全なリモートラーニングを選択した家庭もあるだろう。だが、自分の経験からも、それらを積極的に選択できる親は、生活に余裕がある世帯のみ可能で、積極的な意味で子供を学校に通わせる意思がなく、家庭で親が子供の世話をできないがために「やむを得ず」通わせる、という判断をせざるを得ない家庭もあっただろうと想像する。

ちなみに我が家は「ブレンド授業」を選択した。理由は言わずもがな、親が働きに出なくてはならないからである。実質一択である。アメリカでは一般に親が12才以下くらいの子供だけを家に残して外出することは認められない。外に一人で出すのも同様だ。はじめてのお使い、アメリカではありえず犯罪扱い、「ホーム・アローン」はコメディーである以前に「タブー」を題材にした映画である。ここでは子供が大きくなるまで親はずっとつきっきりなのだ。

州知事は9月までに陽性率5%を超えた場合は、学校の再開はない、とした。だがデブラシオ・ニューヨーク市長はより厳しい3%という基準を設けた(6月8日以降、3%を超えたことはなく、現在、市内の陽性率は1.3%前後)。細かなことも含め、最終的な判断は学区ごとに委ねられているため、ニューヨーク市の学校の再開が実現するかの判断は市長がすることになる。ただ安全面への配慮が不十分、などの理由で教師や保護者からの反発も多い。

UFT(United Federation of Teachers)という教師の団体は、9月からもオンラインでの授業を主張し、市の教育長に相当する人物に辞任を求め署名活動を行っている。州知事は保護者や現場の意見を最大限尊重する、との立場で、9月までに保護者を交えたミーティングの開催を最低3回(ニューヨーク市は5回)義務付けた。

学校再開の目標日までひと月を切ったが、こういう状況下で、実際に再開されるまでにはまだ紆余曲折が予想される。9月はアメリカでは年度初め。日本の4月に相当する。これを号令に新しいスタートが切れるのか。全米での感染は広がり続けている。他の地域と逆の動きをするニューヨークはある意味孤立状態。だがこれらの行動が経済再生の鍵となるか。荒波の中の再出発になることは間違いないと思う。

 

▲動画「夏のNY 9月から学校再開が決定」(Japan In-depth Youtubeより)

▲トップ写真:ニューヨーク市内の公園で水遊びに興じる子どもたち。 出典:筆者撮影


この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー

1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。

柏原雅弘

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