NYでコロナワクチンを接種
柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)
【まとめ】
・ニューヨーク市内で新型コロナワクチンを接種してきた。
・50才以上か、最前線で働く各職業、持病がある人が受けられる。
・今後、接種証明などが求めらるようになるかもしれない。
亡くなった人たちへ思いを馳せると、不覚にも涙がこぼれてしまった。
今、自分が健康でいられて、ワクチン接種を受けられたのは結果的には幸運というしかない。この1年、新型コロナに感染することもなく、今日を迎えられたこと考えるとすべての人へ感謝する気持ちでいっぱいになってしまう。
先日、ニューヨーク市内で新型コロナのワクチン接種を受けた。
アメリカでのワクチンの接種は現在、まだ優先順位がついており、ニューヨーク州でも現在接種を受けられるのは、50才以上か、最前線で働く各職業、および、持病がある人だ。接種当日はまだ60才以上という年齢制限があったが、私は持病があるので、ハイリスクのカテゴリーの資格で接種を受けさせてもらうことができた。
年齢制限はついこの前まで、65才以上だったので、接種資格は加速度的に広げられていると言っていいと思う。
これらはバイデン大統領が求める「5月1日までにすべての人に接種資格を」という号令に呼応する計画の一環と思われる。
ニューヨーク州では26%以上の人が最低一回はワクチンを接種済みで、全米では1億2000万人以上がすでに接種を受けたという。
予防接種は、アメリカ国民のみならず、16才以上の住人であることを証明ができれば、たとえ保険に加入していなくとも、誰でも無料で受けられる。
保険料が高額なアメリカでは、保険に加入できないため病院に通わない「持病」を抱えている人たちは相当数に上ると想像される。持病があるひとたちはワクチン接種を優先的に受ける資格があるが、資格となる病状を証明できないこれらハイリスクの人たちに対して、ニューヨーク州では必ずしも書類などでの証明を求めていない。
代わりに求められるのは「宣誓誓約書」だ。過去に診断を受けたことがあれば、法的責任のもと、これにサインをして提出すれば良いことになっている。診断書などを必須とすると、感染のリスクも、感染を広げるリスクも大きい人たちが一番接種を受けられない事態になりかねない。このあたりは、アメリカはいつもいい意味で現場主義だ。
現在は、近所の薬局でも接種が受けられるようになった(アメリカではインフルエンザなどの予防接種は薬局でも受けられるのが一般的)。
どこで接種を受ける場合でも予約が必要だが、これらの場所で当日になって接種の予約がキャンセルされてしまったり、本人が現れなかったりで、準備されていたワクチンを廃棄せざるを得なくなった場合、薬局の外に「ワクチンあります」の看板がだされ、優先接種資格に関係なく飛び込みで接種を受けられる場所もある。
また、これらの余ってしまったワクチンが近所の接種場所で出た場合、通知してくれたり、キャンセルが出た接種の予約枠を知らせてくれるインターネット・サイトもある。
私はニューヨーク州が運営する「ジャービッツ・コンベンション・センター」という巨大な見本市の会場に設けられた接種会場で接種を受けることができた。幕張メッセとほぼ同じ規模の会場だ。
▲写真 筆者がワクチン接種を受けたニューヨーク州運営の会場「ジャービッツ・センター」(撮影:著者)
会場は広大だ。
一歩足を踏み入れたとたん、妙な気持ちの高まりがあった。
これは何だ?
どこかで以前、似たような風景を見た気がした。
巨大な会場に入ると、接種に訪れた人が私の前に50人ほど、受付デスクに向かって行列を作って並んでいた。目を引くのが、迷彩服姿の多くの州兵(ナショナル・ガード)だ。
ここでは、自衛隊の災害支援部隊に相当する役目の州兵が、人の案内や、医療行為と関係ない事務作業などの業務をすべて担っておるように見えた。巨大な会場の規模に比べて、私の前に人が少ないのは予約時間が15分単位で区切られており、1時間以上以上前に会場に来ないよう(予約時のサイトの記述では30分以上前)、通知されているからだと思う。
▲写真 会場で受付業務に当たる州兵(会場の外から撮影。筆者)
▲写真 接種を受けに会場に入っていく人々(撮影:著者)
広い会場を黙々と進む。100近くの数の接種用ブースが用意されていたように思う。会場内は撮影禁止だ。
働く人の数が多い。アメリカではめずらしく、無駄口を叩いている人もおらず、静かだ。列に並んで接種の順番を待つうち、この風景が何であったか思い当たった。
昨年の大統領選挙の時の、投票所の行列がこれであった。空前の投票率と言われた選挙の投票所で、自らの一票に未来を託して人々が並んでいた風景と重なった。
とたんに、この1年にあったことが思い出された。
自分自身も、家族の生活も、かつて経験したことがないくらい大変だったが、多くの人がこの会場で接種を受けている姿を見て、自然と、この病に倒れ、亡くなった多くの人たちが頭に浮かんだ。
1年前。
この病気が何かもわからずに亡くなっていった多くの人達。世界中で失われた270万もの命。その人たちに、今、人々が接種を受けているこの風景を見せてあげたかった。そういう思いに強く駆られた。
私は今、生きていられて、ワクチンを受けることができる。
すべての人に、ただただ、感謝しかない、と思った。
ほどなく、自分に接種の順番が回ってきた。会場には小さな音量でヴィヴァルディーの「春」が流れていた。
▲写真 この日、ワクチン接種が予定されている人の数。背景は出口に設けられた、接種後15分、副反応があった場合にに備えて待機する場所。イスは数百、用意されていた。(撮影:筆者)
ワクチン接種が進むに連れ、社会も開かれつつある。
今まで閉鎖されていた、映画館、劇場なども次々と開かれ、ヤンキー・スタジアムなどでも大規模施設でも観客の入場が許可される(4月はとりあえず定員の20%まで)ことになったが、入場する観客はPCR検査での陰性証明か、接種がすべて完了したことの証明が義務付けられる。
この先、接種者が増えるにつけ、接種証明を要求されるケースは増えていくと思う。
▲写真 ワクチン接種を記録したCDCの手書きのカード(撮影:著者)
接種証明は現在、全米どこでも接種時に手渡されるCDC(アメリカ疾病予防管理センター)の手書きのカードだけだ。このカードは透かしも何もない普通の紙に印刷されているため、偽造が限りなく容易で、ネット上で盗んだ個人情報を書き込み、売買したり、これらを利用して本人になりすました詐欺が報告されている。政府関係者、医療機関、保険会社などを装った「コロナ詐欺ビジネス」も横行しているという。
そのような流れを受け、運転免許証形式の接種完了カードを「発行」する業者も現れた。
▲写真 「ワクチン接種証明カード」を「発行」するとする業者のサイトからキャプチャ
しかし、それにどうやって本物の「お墨付き」を与えるかがまだ課題であり、それ自体も詐欺業者が混ざっている恐れもあるから見極めが難しい。だが、実際のとこと、今後接種完了者が大多数になれば、飛行機に搭乗する時に必要な身分証明のようなものが施設の出入りや、イベントの参加に標準化するかもしれず、未接種の人と、接種完了者との差別化が進む恐れもあるのではないか。ワクチン接種反対の立場の人達も依然として多いので社会問題化するかもしれない。
社会が現実に開かれていくに連れ、現実としての次の段階を迎えた「ニューノーマル」に対応していくことは容易ではないかもしれない。
接種後の私だが、まる24時間が経過した段階で、当日あった、軽い倦怠感は消え、やや激しかった腕の痛みも今は気にならないほどになっている。
2回めのワクチン接種は4月の上旬に予約されている。
その頃、ニューヨークでは桜が満開か。
トップ写真:2021年3月23日 メリーランド州セバーンでワクチン接種する人住民 出典:Win McNamee/Getty Images
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この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー
1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。