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.政治  投稿日:2020/9/14

「改革志向の人」菅義偉 自民党総裁選その2


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・安倍政権の政策を踏襲後に大胆な改革へ。

・中小企業再編、デジタル庁、縦割り打破、最低賃金引上げなど。

・「結果にコミットする」久しぶりの実務派総理になる可能性。

 

自民党総裁選。各候補の「人間力」「政策」を見ていく特別企画。

第2回は菅義偉さんの政策。秋田県湯沢市出身、法政大学に通い、企業勤めの後、政治家秘書に。横浜市議後、衆議院議員に当選。総務大臣、安倍政権で官房長官を長年務めて長期政権を支え、一気に総裁候補にたどり着いた。加藤紘一氏の「加藤の乱」にも同調したり、派閥に忠誠を誓ったわけではない。その有能さで一気に駆け抜けた感じ。本人は「『たたき上げ』ではない」というが、際立った有能さが目立つ。

 

■ 菅さんの政策スタンス

今回掲げている政策は安倍政権の継承ということのようだが、大きく言うと、以下のような政策があげられる。

▲表 【出典】筆者作成

話題になっているのは、不妊治療支援、携帯料金値下げといったところだが、筆者は中小企業再編と最低賃金のアップに注目した。

これらの政策を掲げた理由の詳細を知るヒントとして、評論家で現在は日本文化保護の企業の経営者、元外資金融マンのデービット・アトキンソンさんの主張を見てみよう。アトキンソンさんは観光戦略実行推進タスクフォースの有識者メンバーだったこともあり、菅さんとは雑誌など様々な場面で対談している。

アトキンソンさんの著作から彼の日本論をまとめると

 【強味】

 経済力、治安が良い、清潔、住みやすさ、細かさ、器用さ、真面目さ、高い技術力、職人魂、極める美学、技術力、アレンジのうまさ、足し算

 【弱み】

 効率性の低さ、生産性の低さ、柔軟性に欠ける、頭が固い、長時間労働、行き過ぎ、完璧主義、無駄な事務処理、面倒になることを極端に避ける、リスクをとりたがらない

また、アトキンソンさんの『新・生産性立国論―人口減少で「経済の常識」が根本から変わった』などの著作では

 【主張まとめ】

 ・日本企業は1990年代から生産性が向上していない。一方、金利の低下を筆頭にプレッシャーも受けていない。そして生産性が向上しなかった分を国が穴埋めしているのが現状。

 ・中小企業が意識を改革する必要がある。政府自身が守るべきではない企業を守ってしまう。

 ・今の最低賃金は日本人労働者を馬鹿にしている水準。人材の質の高さに対する最低賃金の低さ。欧州並みに引き上げたとしてもなんの問題はない。

 ・最低賃金の低さが経営者の無能の原因。企業にとってこれほど能力が高く真面目に働いてくれる人材を安い賃金で働かせられるのは極楽浄土。しかし労働者にとっては地獄。

という考えである。生産性を上げるため、平均賃金を引き上げ、中小企業を再編するということらしい。

アトキンソンさんは賃金を上げられない企業は市場から淘汰されてしまえという考え方なのだが、そう簡単にいくのか?という疑問もある。それを政治がやるべきことなのかというそもそも論もそうだし、日本には独自の企業風土がある。中小企業の中には、成長より雇用を重視している企業もある。効率性重視で再編し、大きめの企業に統合されてしまっては、経営(ホワイトカラー)とブルーカラーに完全に分断されたような、階層化されたような欧米の企業みたいじゃないかと個人的には思う。

菅さんがアトキンソンさんの考えと同じかどうかは分からない。しかし、中小企業再編と最低賃金のアップという政策については、国民が納得できる丁寧な説明が必要なのではないだろうか。

 

■ 改革志向の政策

菅さんに話を戻して、具体的に見ていこう。基本的には安倍政権の踏襲ということなので、それほど変わりはない。独自色を出すのは次の段階であろう。

▲表 【出典】筆者作成

新型コロナウイルスで落ち込んだ経済を立て直すことを中心に、基本は安倍政権の継承となっている。また、日本の生産性の低さの現況でもあるDX(デジタル・トランスフォーメーション:デジタル技術やデジタル化された情報を活用することで、企業がビジネスや業務を変革し、これまで実現できなかった新たな価値を創出すること)が遅れているため、デジタル庁を設置し、縦割り打破で進めることなどが語られている。やはり最低賃金の引き上げが安倍政権との違いとして特徴的だ。

▲写真 豪雨での「ダム事前放流」でも省庁縦割り打破の手腕を発揮した菅官房長官。写真は群馬県みなかみ町の須田貝ダム視察時(2020年8月12日) 出典:菅義偉ツイッター

 

■ 3つの特徴

特徴は3つ。第一に、現実思考であること。理念やイデオロギーにとらわれない、実務派ぶりがわかる。やるべきことはやり、野党が好きそう、野党が従来主張していた政策でもよいと思ったら取り入れる。したたかという印象である。

第二に、行革の姿勢デジタル化を進めて、一気に縦割りや問題を解決してしまおうと思っている。そのほかも行政改革的な意見は根強い。福田隆之さん(PFIや水道民営化の専門家)を官房長官補佐官(公共サービス改革担当)に抜擢したように、まさに行政改革路線を推進することは間違いないだろう。財政再建については「行革前提の消費税増税」を掲げている。

第三に、「敵を作らない」菅さんらしさ。困っている観光業界への支援、中国・韓国との協調を主張することなど、まさに体現している。米中関係の動向は別として、欧米で巻き起こる中国の人権問題(香港、新疆における人権状況と中国政府の弾圧への)への批判のような姿勢を期待するのは難しそうだ。

安倍政権を踏襲するといっているが、ほんとうのところどうなるか。特にポスト・アベノミクスのところ。「官製市場」といわれるほど日銀が買い支えている。日本銀行はETF(上場投資信託)の購入を増やし続けてきた。こうした状況が、いつまで続くとも思っていないだろう。もし政権を担った場合、政権が安定した段階で、動くことになるだろう。

 

■ 菅さんの政策で日本はどうなるか?~日本社会のためのリーダーシップ

これまで「やりたいことは見えてこない」などと言われてきたが、実務家は必要とされていることをやるべきだし、あいまいな理念やできもしないことを大言壮語をする人よりもよほどましである。人事権を掌握したからといって官僚は平伏するはずがない。ある一定の知識・幅広い交友からの視点などそれなりに官僚さんたちが評価していることも事実であろう。

朝5時に起きて全主要新聞に目を通し、官僚含め多方面から話を聞いて学んできた。外交も不安を持たれているが、それなりにできる男のはず。目立った政策をぶち上げるのではなく、これといった政策を推進してきた。聞き役の実務派ふるさと納税は長短あるが、やはり各地域の活性化に貢献できたという面が大きい。

実務でどれだけ力を発揮できるのか。「結果にコミットする」総理総裁になる可能性を秘めている。大きな風呂敷を広げたり、単純化された理念や世の中で騒がれているような二番煎じの価値観を叫んだり、目立った主張や大きな物語をかたらない人でもある。総理になる場合は、久しぶりの実務家総理となる。期待したい。

その3に続く。その1。全6回)

トップ写真:総選挙を終えて青年スタッフへの感謝の言葉を記す安倍首相と菅官房長官(2012年12月18日) 出典:菅義偉 facebook


この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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