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.政治  投稿日:2020/9/14

「堅実の人」岸田文雄 自民党総裁選その3


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・チームプレー重視の良き常識人。時に「優柔不断」の批判も。

・「誰かのミスをみなでカバーすればいい」は謙虚で強い信念。

・新時代に「聞く耳」持った協調型リーダーが求められることも。

 

第3回は岸田文雄さんの「人間力」。外務大臣、防衛大臣を歴任した「大物」政治家、自民党政調会長を務める広島1区(広島市中区・東区・南区)選出の衆議院議員である。

とても落ち着いた感じの紳士に見られるが、広島カープの熱烈なファンであったり、奥様との写真が話題になったり(色々切り取られて大変だったみたいだが)、露出が増えるにしたがって、人間らしさがようやく国民に伝わってくるようになった。先日は著書『岸田ビジョンー分断から協調へ』を出版した。

しかし、まだまだ世間の目は厳しい。これまでも、あまり評価されてこなかった。中島岳志東工大教授は「当たり障りのないことを言う天才」と評価するほどだ。

個人的なことを言わせてもらうと3候補の中では唯一会ったこともない人であるが、高校の先輩でもある。「公平に」分析していきたい。

 

■ 岸田さんのエリート?キャリア

1957年7月29日生まれの63歳。広島市出身。血液型AB型。父親は政治家の岸田文武さん、祖父は岸田正記さんの政治家3世。とはいえ、父親は通産官僚出身で、祖父の政治家時代からは20年以上経っていたそうであるので厳しい言い方か。宮澤喜一元首相とも親戚のようだ。

小学校1年~3年生までNYの小学校(現地校)に通い、千代田区立永田町小学校、千代田区立麹町中学校を経て、私立開成高等学校に入学・卒業。高校時代は野球部で熱心に活動していて、1年からレギュラーだったそう。広島カープ好きというのもわかる。

2年の浪人生活を経て、早稲田大学法学部に入学・卒業。東大に3回挑戦して失敗したことに対してかなりの挫折感を持っているらしい。開成は当時、初めて東大合格者No1の座に就いたとはいえそんなに合格者数は多くないので周りとの劣等感なのかなと思ったが、それよりも家族・親戚もほぼ東大出身だったからという理由のようだ。

1982年に、日本長期信用銀行に入行し、87年まで勤務。バブル期ではあるものの、社会の矛盾を勤務で感じたそうだ。その後、父の文武の秘書に。1993年に出馬し初当選。以降8回の連続当選を誇る。

 

■ チームプレーを重視する良き常識人

多くの人から、温厚、良き常識人と評価を受けている。悪い意味で、優柔不断ともいわれてしまっていた。仕事面については「物静かで堅実」という評価をされていることが多い。会見ではメモを読んで、その言葉を思い出しながら話すなど、まさに堅実の鏡ともいえる。そのため、「話がつまらないまじめな人」「地味で優柔不断な優等生」などといろいろ言われているが、本当のところはわからない。

複数の関係者に話を伺うと、キーワードは3つ。「いいひと」「チームプレー」「聞く力」だ。

第一に、いいひと。これは高校OBや政治関係者から多く聞いた言葉である。穏やかな人柄まじめな人間性とのこと。ここまで他人に言われるのだからよほどであろうと思った。性格的には優しい安倍首相と仲が良いのもわかる。著作、「岸田ビジョンー分断から協調へ」にも書かれているが、白人から差別を受けたり、挫折から人の痛みを知った経験がうかがえる。

第二に、チームプレー。広島カープのファンで、野球を通じて学んだ。「誰かがミスをしてもみなでカバーすればいい」と著書にあるが、そうした人だから派閥を率いれるのだろう。

第三に、聞く力。これは著書でも言っているが、酒豪でもあり、交友も広いそうだ。高校OB会にもよく顔を出すそうだ。「山積する課題に取り組むため「国民の協力を引き出せるリーダー」をめざす」と主張するように他人の協力の重要性を理解しているし、そのためには「聞くこと」の重要性を示しているのだろう。

▲写真 地元産米のおにぎりをほおばりながら、農家の意見に耳を傾け、農業政策を語る岸田文雄政調会長(2020年9月10日 宮城県栗原市) 出典:岸田文雄 facebook

■ 声診断で分析してみると強い信念や軸を持っている

今回、人間力分析ではおなじみの日本声診断協会の中島由美子氏に依頼して、周波数で行う声診断をしてもらった。その声を分析すると「リーダーとして強い信念や軸を持っていることを表しています」とのこと。これは大変意外だったが、信念や軸を持っていなければ派閥を率いることはないだろうから納得である。

また、「いわゆる話すこと、答弁や、わかりやすく物事を伝えるスポークスマン的な能力がとても高い」そうである。様々な場面での伝え方や声の聴きやすさなどそのことはうかがえる。声については、演説時に「どのタイミングでどのような声を出すか」を徹底的に分析した経験もあるだろう。相当の努力家である。

さらに、「真面目さや周りと合わせていく協調性などもあり、信念もありながらこのような面も持ち合わせていらっしゃるのでとてもバランスが良い」との評価である。

 

■ 日本社会のための新たな「人間性・傾聴リーダーシップ」

声診断では「当たり障りのない綺麗な言葉で伝えるより、本当の自分の言葉で伝えていくことで多くの人に影響力を与えていくことが出来ると思います」との課題も提示された。たしかに、今回の「分断から協調へ」という主張は、ある意味安倍政権への批判にもなるが、それを掲げていることに信念を感じる。彼のビジョンや考え方はもっと、伝わってもいい。

21世紀に強いリーダーシップは本当に必要だろうか。政治のリーダーシップは安倍政権で非常に強くなった。制度的にも保障されて、強いリーダーシップをふるいやすい環境にはなった。「バランスが大切。謙虚さを忘れた権力は独裁になる」との発言が示すように、新たなリーダー像を提示してくれるかもしれない。まわりと協調するいい人・協調型リーダーというのも新たな時代に求められているのかもしれない。

その4に続く。その1その2。全6回)

トップ写真:自民党総裁選で街頭演説をする岸田文雄政調会長(2020年9月11日 東京・JR新橋駅前) 出典:岸田文雄 facebook


この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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