仏、コロナ対策に市民猛反発
Ulala(ライター・ブロガー)
【まとめ】
・仏、国民と政府のコロナ対策の認識、真っ二つに分かれる。
・政府のコロナ対策、国民の35%しか支持せず。
・仏国民も監視が無ければ規則を守っていない実情がある。
3月、全国一斉の外出禁止期間(ロックダウン)を設けることで新型コロナウィルスの感染拡大を抑えたフランスであったが、さすがに国外は避ける人も多かったものの、7月、8月の夏のバカンスにいつも以上の多くの人が国内旅行を楽しんだ。その結果、再び感染が拡大し始めている。しかしながら、国民と政府のコロナ感染対策に対する認識が大きくかけ離れており、現在、フランス国内で、意見が真っ二つに分かれているような状況だ。
9月24日には、24時間で16096人という感染者数を記録した。これは24時間において過去最高の感染者数となる。しかも最近まで、若者の感染者数が多く感染者数に対して死者が少ないと言われてきたが、病院への入院患者も上昇傾向にあり、9月16日以降は毎日病院だけで50人前後の死者がでている。
さらに高齢者施設の死者が加算される日には、死者は150人以上にのぼる日もでてきたのだ。前回の外出禁止が始まった3月17日の時点では、死者が27人であった。この数に比べても50人は決して少ない数ではない。ただ、今回はマスクをするなど予防策も同時に取られているため、前回は3.5日で感染者数が倍増したが、今回は15日で倍増となっており、第一波ほど急激に感染者数の上昇はしていない。
しかしながら、今、このまま何もしなければ確実に感染者が増加し、急激な増加を止められなくなる可能性もある。そこで、フランス政府は23日の時点で感染拡大を防ぐために、主要都市での飲食店の営業を制限する新たな措置を発表した。マルセイユのバー全てに閉鎖命令を出し、首都パリなどでも営業時間を短縮するとし、これらの規制は27日の0時より15日間を予定として実施されたのだ。
だが、この部分的な閉鎖を受け、パリ、マルセイユ両市の市長は、「レストラン閉鎖は意味がない」「国民を怖がらせるだけだ」と批判。またバー経営者の一部からは命令の無視を訴えられており、27日にはパリで反対のデモも開催されるなど、反発がおきている。
特に、マルセイユで反対する声が大きくあがっている。「規則、規則を課した上、今度は罰が与えられた」「すでに売り上げが少なくて、大変なのに、これでレストランが開けられないと店がつぶれる」「レストランは、中に入ればちゃんとみんな規則を守っているのに、意味がないことを政府がしようとしている」と訴える。
さらに、第一波の時に、治療薬としてヒドロキシクロロキンを用いて有名人となったマルセイユ大学病院研究所長ディディエ・ラウルト博士(のちにヒドロキシクロロキンの効果も否定され、現在「感染症協会」(SPILF)のメンバーに9つの医師倫理規範違反を理由に訴えられている)が、政府のデータは間違っており、政府の発表では200%前後の満室状態であると発表されているマルセイユのICU(集中治療室)に、まだ余裕があるなど主張し、政府の判断に反論している。
また、閉鎖になったスポーツクラブなどからも異議の声があがっている。全国チェーンで経営されているスポーツクラブ「Neoness」は、今回の措置でパリとリヨン、ルーアン、マルセイユのを閉鎖することになった。今まで、完璧にコロナ感染防止対策を取ってきたのにもかかわらず閉鎖されることに納得ができず、7000万人の会員にアンケートを取ったところ、一日で1000万人から回答が返ってきたそうだ。そしてその60%は、今回の政府の対策に納得がいかないと返答しているという。また80%はクラブの運営方法に安全を感じており、95%が閉鎖が解除されたらすぐに戻りたいと考えており、実際の話、33クラブのうち、現在までに見つかった感染例は7件のみで、危険度はほとんどないと主張している。
このような動きのなか、「政府の対策を信用しているいるか?」というBFMTVによって発表されたアンケートによれば、前回のアンケート時よりも3ポイント下がった35%という過去最低の信用率となった。しかも、その怒りは政府にのみ向けられているわけではなく、ビアボイス研究所の分析によれば、60%のフランス人は、メディアがコロナのことを過度に語りすぎていると考えている。この数字に、もう、規制されるのにうんざりなフランス国民の姿が垣間見れるようだ。
▲写真 フランス美容室 出典:Flickr; International Labour Organization ILO
しかしながら、ここで問題なのは、国民たちは政府から与えられた規則をちゃんと守っていると主張しているが、それがまったく結果にでてきてないことだ。だいだい身近な例を見てみても、完璧に対策されているとはいいがたい。
例えば高校の構内は全員マスクが義務付けられている。しかし休み時間になると、生徒はマスク義務がない門外に出てマスクをはずし、大勢が密になってタバコを吸ったり雑談しているのだ。確かに、監視がある場所では規則は守られているが、監視が無ければ守られてないことが多いというの実情である。これが日本だったら、規則がそこまでなくても自発的にマスクするなどして予防策を講じ、監視がなくても過度なのではと思われるほど自分で予防をする人も多いだろう。フランスでは規則を作ってもその辺りが守りきれない人が多い。その結果、気が緩んだバカンスで大きく全国に流行が拡散したともいえるのではないだろうか。しかし、反対者は、それは政府の対策が悪いからであると考えているのだ。
現在、政府としては、前回のような完全ロックダウンは避けたいと考えているが、ほんとうにそれが実現できるかは現在不確かな状況だ。今後フランスが新型コロナウィルスの急激な感染を抑制して完全ロックダウンをさけるには、よい対策を出せればそれに越したことはないが、実際は「ほんとうになぜ対策が必要なのか」ということを、どれだけ国民全体に理解してもらい、確実に実行してもらえるかにかかっているのではないだろうか。そして、反対者がどこまで妥協できる状態にもっていくけるかにかかっていると言えるだろう。
とりあえず、これから15日。一定の地域で、一定の規則を課しどこまで状況が改善するのか、希望をもって見守っていきたいところだ。
<参考資料>
Marie-Anne Teissier (Neoness): “Nos adhérents ne comprennent pas” la fermeture des salles de sport
SONDAGE. 72% des Français se disent prêts à respecter un reconfinement d’au moins 15 jours
トップ写真:フランス ネイルサロン 出典:Flickr; International Labour Organization ILO
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Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。