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.国際  投稿日:2021/2/20

ミャンマー軍、頼みの綱は中国


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・ミャンマークーデター、国民の反軍の気運強く、デモ収まらず。

・中国が水面下でミャンマー軍を支援する動きあり。

・ミャンマー軍のデモ鎮圧方針は中国の顔色次第。

 

2月1日にクーデターで政権を奪取したミャンマー国軍は、着々と軍政体制を固める一方でアウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相ら民主政権幹部や与党「国民民主連盟(NLD)」関係者の拘束を現在も続けている

首都ネピドーや中心都市ヤンゴン、中部にある第2の都市マンダレーなどでは連日市民や学生などによる「クーデター反対」、「スー・チーさん解放」を求めるデモが続き、日に日に拡大する様相をみせている。軍や警察はこれまでのところ放水やゴム弾発射、一部実弾射撃などでデモや集会の沈静化を図っているが、国民の反軍気運は強く事態は収束する気配をみせていないのが実情だ。

国際社会も欧米などが軍関係者の海外資産凍結などの制裁に踏み切る姿勢で圧力をかけているが実効性の点でどこまで効果があるかは疑問だ。

ミャンマーもメンバーである東南アジア諸国連合(ASEAN)はインドネシアやマレーシア、シンガポールがクーデター批判の声を上げているが、タイやカンボジア、ラオスなどはASEANの原則である「内政不干渉」を盾に積極的な介入には否定的、と温度差が顕著となっている。

こうした中インドネシアのルトノ・マルスディ外相がASEANの2021年の議長国であるブルネイを訪問してミャンマー問題を協議する「ASEAN外相特別会議」の開催による調停策を模索しているが、開催の見通しはまだ立っていない。

軍はこのような国際社会の批判や姿勢は「想定内」として特に目立った対応をみせていない。というのも軍が最後の頼みの綱とする中国が目立たないところで支援の動きを見せ始めているからだ。

不可解な飛行とネット遮断に中国の影

ミャンマーからの情報によると、2月15日午前1時から同日午前9時までヤンゴンなどのインターネットが完全に遮断される事態が起きた。そしてこの間に国際旅客便が空港閉鎖で止まっているにも関わらずミャンマー国際航空2便がヤンゴンと中国南部雲南省昆明の間を複数回往復飛行したことが航空機情報追跡アプリで発覚。ヤンゴン空港関係者もその事実を認めたことが伝えられた。

同便に誰が搭乗し何の目的で中国との間を往復したのかはいまだに不明だが、海外からマスコミ関係者などの入国を阻止するために中断している国際旅客便が限定的とはいえ中国との間だけで運航されていることに軍と中国の「特殊な関係」が象徴されている、との見方が有力だ。

さらに軍が海外からの情報流入、海外への国内状況に関する情報や映像の流出を阻止するためにインターネット接続や携帯電話網の遮断や妨害も頻繁に行われており、日増しに通信状況は悪化しているという。

そうした中で軍は海外からのアクセスを阻止する強力な「ファイアウォール」の導入を進めているとの情報もある。それも中国の協力というのだ。

情報操作や情報統制では「先進国」ともいうべき中国から強力な「ファイアウォール」という新たな「武器」でネット環境の外堀を埋めようとしている軍。ここでも中国の影がちらついている。

「一帯一路」に重要なミャンマー

中国はクーデター前には民主政権のスー・チー氏とも軍とも良好な関係を維持していた。これはミャンマーが中国の進める「一帯一路」構想において極めて重要な地政的位置を占めていること無関係ではない。

ミャンマー国内南西部の港から雲南省昆明に至るパイプラインを中国はすでに確保している。これにより中東・インド洋から南シナ海に至るエネルギー・ルートがマラッカ海峡を通過することなく独自に確立できることになるのだ。

1月11、12日に王毅外相がミャンマーを訪問している。この時はコロナ対策として中国製ワクチン30万回分を提供することなどが訪問目的とされたが、2月1日にクーデターに踏み切った軍のトップ、ミン・アウン・フライン総司令官とも王毅外相は会談している。

▲写真 アウンサンスーチー国家最高顧問と会談する中国王毅外相 2017年11月20日 出典:TPG/Getty Images

果たしてその会談で何が話されたのかは不明だが、今となっては軍のトップとの会談だけになんらかの「キナ臭い話し」と「お墨付き」のようなやり取りがあったのではないかとの憶測もでている。

ミャンマー軍制にとっては国際社会で孤立無援となっても中国が後ろ盾となってくれるのであれば問題はないと考えているのは間違いない。それが表立っての支援でなく、密かな支持であっても心強いことだろう。

▲写真 デモ制圧にかかるミャンマー国軍兵士達 出典:Hkun Lat/Getty Images

ただ、収まる気配を見せない国民の反軍制デモや抗議活動に加えて公務員や銀行員などによる「不服従運動(CDM)」も拡大して日常の行政活動、経済業務に支障が出始めている。

それに従い軍の苛立ちが高まっていることから、軍が武力による大規模な弾圧に乗り出し流血の事態となった場合に果たして中国がどう出るかが注目されている。

「あの天安門事件の中国」であるとして、そうした事態すら中国が黙認する可能性もあり、今後のミャンマー軍のデモ・集会への鎮圧方針も中国の顔色を伺いながらになるとみられている

トップ写真:スーレースクエア前でミャンマー国軍に抗議する民衆 出典:Hkun Lat/Getty Images




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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