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.社会  投稿日:2021/4/1

同調(圧力)よりカネ配れ!(上)日本メルトダウンの予感 その4


林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

【まとめ】

大阪府まん防」申請、中身は飲食店利用者「マスクの義務化」。

・今さらマスクや時短の話など、国民はもはや聞きたくない

・問題は自助・共助の限界を超えた人たちへの生活支援ではないか。

 

裸眼でものを見るのに不自由なく、花粉症でもないという「上級国民」にはお分かりいただけないかも知れないが笑、マスクをしないと外出もままならない昨今の日本は、本当に生きづらい国になったと感じる。

花粉症なのに今までマスクをしていなかったのか、と言われそうだが、症状は色々で、私の場合くしゃみ鼻水よりも目の痒みが深刻なのだ。一方ではマスクをしていると眼鏡が曇るという問題があった。くしゃみ鼻水のせいで窒息したなどという話は聞いたことがないが、眼鏡が曇ると実際に危険である。なにより布製のマスクなど、花粉にはあまり有効ではない。

もともと「在宅ワーカー」なので、家には目を洗うためのアイボンと、殺菌効果のあるサルファ剤入りの目薬を常備して事足りていたし、外出時はくしゃみが出そうなときだけハンカチで口元をおおっておけば、やはり問題なかった。新型コロナ禍の以前は。

しかし今では、もはや多くを語るまでもないことだが、マスクなしで電車に乗ろうものなら、いつ周囲の乗客とトラブルになるかも分からない。スーパーなどでも、マスク着用と客同士の距離(いわゆるソーシャルディスタンス)を、店内放送で呼びかけているし、レジにはビニール製のシールドがある。

なんと言っても少林寺拳法の道場で、検温と手指の消毒、そしてマスク着用が義務づけられているほどなのだ。なおかつ私は、たまにマスクをずらしてふざけあっている子供がいたりすると、立場上、

「よしなさい。万が一ということがある」

などと注意せねばならない。これでは自分がちゃんとする他はないではないか。

道場自体も「時短」を強いられているのだが、マスクをしての修練は、むしろ疲れる。まあこれは、経験しないと分からないことであろうが。

幸い、というのも妙なものだが、表を歩いている分には「顎マスク」の状態で、これまでなんの問題もなかった。屋内や電車内ではちゃんと口と鼻を覆っている。

なので、飛行機の中で騒ぎを起こして警察沙汰になったという「マスク拒否おじさん」の出現は、起きるべくして起きた騒ぎだとは思いつつも、やはり腹立たしかった。

起きるべくして起きた、とはどういうことかと言うと、日本社会に特有の「空気」の問題が、ひとつ指摘できる。外出時のマスク着用は法律で定められてもいないし、鉄道会社や商店からも「お願い」されているに過ぎない。マスク未着用の乗客を拒否できるのは営業権の範囲内だと解釈されているわけだ。

にもかかわらず「マスク必須の空気」に支配されていると感じる人が一定数いることは事実で、そうした同調圧力を耐えがたいものと感じる人も、やはり一定の比率でいるものなのだ。

ならばどうして腹がたったのかと言うと、他の乗客に迷惑をかけただけのことを、なにか自分が不当な圧力と戦っているかのように思い込むのは、とんでもない勘違いだということである。決して「空気読めよ」と言いたいのではない。

ホリエモンこと堀江貴文氏も、昨年秋に広島市内の餃子専門店でトラブルを起こした。

三人連れで店を訪れたのだが、うち一人がマスクをしていなかったことを、店主の奥さんにとがめられた。これに対して「食べるときはマスクを外すでしょ」などと反論し、入り口で押し問答になったため、見かねた店主が入店を拒否したという。

ところが話はそれで終わらなかった。堀江氏が、店を特定できるような文面で、ネットで悪口雑言を並べ立てたことから、これに反応した一部の人が店に嫌がらせを繰り返し、ついには休業に追い込まれてしまった。

すると今度は、店に対する同情の声が一挙に高まり、クラウドファンディングで多額の寄付金が集まったのみならず、ネットには「ホリエモン叩き」の声があふれた。

これもまあ、私見マスクの是非が問題の本質ではなく、ネットビジネスで巨利を博した人が、ネット社会の怖さについてあまりに無頓着であったということではないか。

そうかと思えば麻生財務相が、

「マスクなんて、いつまでするのかね。マスクのせいで皮膚病になった人までいるというじゃないか」

などと発言して物議をかもした。これまたネット民の間では、

「政治家たちはさっさとワクチンを接種したので、もう大丈夫だと思っているのだろう」

などと見る向きが多いようだ。ワクチン云々は、信憑性の高い話ではないが、ひとつ確かなのは、大臣ともあろう人が、誰も好き好んでマスクを外せない生活などしていないという事に、まったく考えが及んでいないことである。

こんな風だから、新型コロナ禍のせいで仕事をなくしたり、収入が激減して困窮している国民のことなど、まともに考えてもみないのだろう。事ここに至っても、再度の給付金支給に踏み切れない理由は、他になにがあり得ようか。

このような中、3月末までに各地の緊急事態宣言は解除されていった。すでに盛り場の人出などは戻りつつあったのだが、宣言解除と前後して感染の再拡大が見られ、第4波が来たなどと言われるまでになった。

とりわけ、東京を上回る規模での感染再拡大が見られた大阪府では、まん防(蔓延防止等重点措置)に乗り出すとして、4月からの適用が確実な状況だが(3月末段階)、防止策の具体的な中身とは、飲食店利用者などへの「マスクの義務化」だと言われては、それこそマスクの中で開いた口が塞がらない。

▲写真 吉村洋文大阪府知事 2019年2月20日に日本外国特派員協会(当時は大阪市長) 出典:Tomohiro Ohsumi/Getty Images

もともと3月6日まで予定されていた緊急事態宣言を、経済活動に配慮するとして2月末で早期解除した際に、感染再拡大のリスクは考慮されていなかったのか。

しかも立憲民主党の枝野代表に、

「時期尚早の宣言解除が感染再拡大を招いたのではないか」

と批判されるや、吉村洋文府知事は、

「枝野さんはコロナを政治利用している」

などと逆ギレする始末だ。この連載でも取り上げたことのある、大阪都構想をめぐっては新型コロナ禍を顧みずに住民投票を強行し、その後、安倍前総理の「桜を見る会」問題が国会で取りざたされるや、

「今は桜よりコロナだろう」

などと発言してヒンシュクを買った、その同じ口から、今度はこれである。

何度でも言おう。今さらマスクや時短の話など、国民はもはや聞きたくないのだ。麻生財務相に言わせれば「民度の高い」人たちのことを信用しておけば事足りる。

問題はすでに自助・共助の限界を超えた人たちへの生活支援ではないのか。

分かり切ったことではないかと思うが、現実に政府がやっていることと言えば、これで公助と呼べるのか、と言いたくなることばかりである。

次回、その問題をあらためて見てみよう。

その1その2その3

トップ写真:大阪道頓堀の様子 出典:Buddhika Weerasinghe/Getty Images




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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