都議選公約分析「維新の会」ベーシックインカムと改革提案はさすがだが・・・
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・東京維新の会、政党の公約に「ベーシックインカム」を入れた。
・政治改革についての問題意識はとても素晴らしい。
・ 規制緩和や市場原理を重視する割には、都政の無駄を指摘できていない。
都議選恒例公約分析。今回は、維新の会。「【東京維新の会】2021 都議選マニフェスト~『コロナ敗戦』から立ち上がる 維新八策~」を掲げている。
ついに、政党の公約に「ベーシックインカム」が出現する、しかもリベラルな党ではなく、維新からというのが興味深い。
・「東京版ベーシックインカム」 返済不要の貸付金制度を導入 コロナ禍で生活が困窮した都民を対象に、毎月定額無利子無担保で借りられる貸付金制度を新設する。マイナン バーと紐付けて所得を捕捉し、所得が一定額に満たない場合は返済を免除(実質給付)とする。
こうして、政策をイノベーションしていくのだ、ということを見せつけた公約ともいえる。
■既存の政治を改革する
行政改革、経済政策など流石の内容である。特に、その問題意識である。
コロナ禍で人々が苦しむ中、今なお政治家・議員だけが過剰な報酬を受け取り続けている。ボーナスを含む都議会議員の報酬・議員定数の3 割カットを断行し、「身を切る改革」により都民に寄り添い、パンデミック終息と経済復興への覚悟を示す。
都議会議員の圧倒的な厚遇への警鐘と経済政策についての指摘である。特に、政治改革についての問題意識はとても素晴らしい。
◆開かれた、あたりまえの都政の実現
・公正を疑われる金品授受を禁止し、罰則を設ける。
・議員の不当な口利きを禁止し、罰則を設ける。
・議員の不当な都庁人事への介入を禁止し.罰則を設ける。
・議員の外郭団体職員採用への介入を禁止し、罰則を設ける。
・公職がまず自らを律する姿勢を示す
小池都政が掲げ、少しは進んだ「都政のブラックボックス」の解消についても厳しい指摘になっている。
■3つの特徴
これらをまとめると、3つの特徴にまとめられる。
①様々な経済政策
②ベースになる改革姿勢
③先端技術の活用
・区市町村や事業者・都民に2兆円規模の大胆な経済対策
・デジタルサービス局が中心となり、都庁をデジタル空間に仮想的に移転し、都庁第二本庁舎を売却・もしくは 民間に貸し出す。
・都立全校で ICT 機器をフル活用した授業を展開する。目の前の教員が行う授業にとどまらず、同じ単元であれば他校の教員の動画授業を受けてよい仕組みを構築する。
・オンライン教育を自宅で学習し、教室でその習得度を共有するいわゆる「反転授業」で、生徒同士が教え学び合える教室に。教員への研修制度も設けノウハウを共有する。
こうした政策に、3つの特徴が明らかになっている。
しかし、課題は、第一に、実効性である。AI、IoTなど、先進的な政策提案が並ぶが、ビジネスの最前線からみたら、ユニコーン企業は育てるものなのか?本当にできるのか?この国の経済レベルで?と思ってしまうほどである。
・都が保有する遊休施設を開放し、スタートアップのユニコーン企業を育て、東京のシリコンバレーを創り出す。
イノベーション政策など専門的な領域に入れば入るほど、あらが目立つ。
第二に、東京一極集中問題への言及である。コロナ禍が多くの国民も東京一極集中への問題意識を深めるようになった。今回、過度の集中による弊害を持つ東京の存在意義が問われているのにもかかわらず、それに対して出てこない点が問題であろう。大阪での実績があるからこそ、東京だけが栄えるのではない「東京と地方の共存共栄」のモデルが出せるのではないかと思う。
■政策評価の専門家としては
さて、政策評価の専門家として5つの視点から評価を下そう。
①コンセプト:〇 ⇒【理由】改革意欲は明確
②都民視点:△ ⇒【理由】改革意欲を持たない人の視点が弱い
③問題解決:〇 ⇒【理由】多面的
④未来志向:〇 ⇒【理由】社会の変化を見据えている
⑤政策としての基本要件:△ ⇒【理由】網羅しているが、アイデア先行
リベラルな政策にも目配りしていて、かなり手厚い印象である。
・都のデータベース上で旧姓併記を実現し、国にも選択的夫婦別姓を働きかける。
・大阪府で導入済みのパートナーシップ宣誓証明制度を東京でも導入する。
しかし、規制緩和や市場原理という理念を重視する割には、都政の無駄を指摘できてはいないことも確か。東京維新の会の公約提案に期待したい。
トップ写真:吉村洋文大阪府知事(左)2019年02月20日(水) 出典:Tomohiro Ohsumi/Getty Images
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。