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.国際  投稿日:2021/7/4

空自と比空軍、初の共同訓練


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・フィリピン空軍が日本の航空自衛隊と共同演習を実施予定。

・空自から輸送機C130が参加人道支援、捜索救難の分野で訓練実施

・米中の狭間で外交戦術を駆使するドゥテルテ政権下、自衛隊が比軍と関係を深化させることは意義がある。

 

フィリピン空軍が日本の航空自衛隊と共同演習を実施することが明らかになった。空自とフィリピン空軍の共同訓練は初めてで、7月5日から8日までルソン島の首都圏マニラの北西に位置するパンパンガ州マガラパット市にあるクラーク空軍基地を拠点として行われる予定だ。

クラーク空軍基地は太平洋戦争前の1903年以来米軍の空軍基地となり、太平洋戦争では日本軍が1942年に占領、終戦前の1945年1月に米軍が奪還した。1975年のベトナム戦争ではスービック海軍基地と並んで米軍の重要な出撃拠点の役割を担った。

この間1944年10月には日本軍が増設したクラーク基地周辺の飛行場のうち「マバラカット飛行場」から最初の特別攻撃隊が出撃しているなど日本とは馴染みの深い戦地、戦跡が周辺に広がっている。

■空自からは輸送機C130参加

初のフィリピン空軍との共同訓練には空自から輸送機C130が参加し、比空軍の航空機と連携して、人道支援、捜索救難の分野で訓練を実施する予定という。

フィリピン空軍などによると具体的には孤立した被災地への救援物資の輸送に共同で当たることなどが予定されている。

自衛隊とフィリピン軍は2015年に両国政府が国防分野での関係強化で合意して以降、海上自衛隊とフィリピン海軍はすでに17回の共同訓練を実施している。今回の空自初参加の共同訓練実現で日本とフィリピンの国防関係のさらなる強化が図られることになる。

在マニラ日本大使館も今回の共同訓練実施に関して「両国の国防関係のさらなる深化に繋がる重要なマイルストーンである」と評価を表明している。

また空自関係者も「日本とフィリピンは共に自然災害の多い国であり、人命救助の観点からもさらなる協力と災害の捜索救難の現場でのオペレーションなどで共有することが可能であると考える」と共同訓練の意義を強調している。

▲写真 フィリピン海を通過する、海上自衛隊駆逐艦と米誘導ミサイル駆逐艦 (2017年4月28日) 出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Z.A. Landers/Released/Getty Images

■対中国でも意味ある比との共同訓練

フィリピンは南シナ海で中国と島嶼の領有権を争っている。軍や沿岸警備隊などは中国に対して強気の対応を兼ねてから主張しているが、ドゥテルテ大統領は「領有権問題には真正面から取り組む」との姿勢を示しながらも、中国の「一帯一路」構想に基づく多額の経済支援、インフラ整備援助、中国人労働者受け入れ、そしてコロナワクチンの供与という「ワクチン外交」で実質的には「親中国」に止まり、野党などから批判を受けている。

対中国では「優柔不断」な姿勢に終始しているドゥテルテ大統領は2022年に迫った大統領選での後継者選びが影響しているとの見方もある。

現時点で最有力の次期大統領候補の1人として世論調査結果などではドゥテルテ大統領の娘でミンダナオ島ダバオのサラ・ドゥテルテ市長が取り沙汰されている。

そうした現政権の「はっきりとしない」あるいは「はっきりとしたくない」対中姿勢とは距離を置いて、日本がフィリピン軍と関係を深めることは日米豪印の戦略対話で進められている「自由で開かれたインド太平洋」という構想には大きく貢献するものとして歓迎されている。

フィリピンと米軍

フィリピンは米軍との間で「訪問軍地協定(VFA)」に延長問題を抱えている。VFAは1992年の米軍撤退後にフィリピン国内で米軍の活動を認める協定で、ドゥテルテ政権は2020年2月に協定の破棄を表明したが、その後破棄延長などを続けている。VFAは規定で破棄通告から180日後に失効するが、このため破棄か延長かは未だに決着していない。

米政権はVFA延長を望んでいるとされ、VFA延長問題でドゥテルテ大統領は決定権を維持してイニシアチブを握ることで交渉を有利に運ぼうとしているとされる。

一方で米国務省がフィリピンに対して新たな武器の供与を認める方針との報道も流れた。その中にはF16戦闘機やサイドワインダーなどの空対空、地対空のミサイルも含まれているといわれている。

中国への強硬姿勢を鮮明にしている米バイデン政権としては中国に」対抗する意味でもフィリピン政府、軍との関係強化に神経を使っている状況といえる。

このように中国と米国という超大国の狭間で独自の外交戦術を駆使するドゥテルテ政権の下で自衛隊がフィリピン軍と関係深化を着々と進めることは十分に意義があるのは間違いないだろう。

トップ写真:比クラーク空軍基地 出典:Gabriel Mistral/Getty Images




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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