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.国際  投稿日:2021/7/15

日本人「侮蔑」動画の教訓


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・スペインのサッカー2選手が日本人やアジア人侮蔑の言動。

・非難が噴出。2選手は謝罪し、契約解除も。

・抗議の声を続けることが「アジア人揶揄」の〝常識〟を変えていく。

 

この数日、2本の動画が日本はもちろん、世界で、大きな論争を呼んだ。なぜなら、その動画には、スペインのサッカークラブFCバルセロナに所属するウスマン・デンベレ選手が、クラブのツアーで日本を訪れた際にホテルの従業員を侮辱している姿が映し出されていたからである。また2本目の動画では、アントワーヌ・グリーズマン選手がアジア人の訛りを真似をしている声が記録されており、これらの映像は多くの人に大きなショックを与えた。

■事の発端

これらの動画が撮られたのは2019年の夏のことだ。バルセロナのプレシーズンツアーで来日した2人は、宿舎ホテルでPES(欧州版のサッカーゲーム)で遊ぶことにした。しかし、日本語では遊べないため、言語設定をしようとしたがうまくいかず、解決してもらおうと日本人スタッフを呼んだのだ。その際に日本人スタッフの顔を「酷い面」と表現し、その顔をアップで写したり、侮辱に満ちた会話をスタッフの目の前でしたのである。しかも、もちろんそれはプライベートでの記録ではあったが、SNSで公開したのが今になって世界中に拡散したのだ。

さらに、FCバルセロナがアップしていた動画の中に、グリーズマン選手がアジア人の訛りを真似ている場面が見つかった、しかも、その言葉にはアジア人をからかう時に使用されることで知られている言葉「チン・チャン・チョン」も入っていたことで、日本人のみならず、各国のアジアに関係する人たちにもショックを与えたのである。

非難を受け、デンベレ選手は自身のインスタグラムで「どこでも、プライベートではこのような表現を使うことがある」としつつ、謝罪。一方、グリーズマン選手は自身のツイッターで、差別には反対の立場であることを強調しつつ、「日本の友人たちを傷つけてしまったのならば謝罪する」とコメントし、FCバルセロナも公式に謝罪文を公開した。

しかしながら、騒動はそれだけでは収まらなかった。カードゲームのアンバサダーとしてグリーズマン選手と契約を結んでいたコナミは、「スポーツの理念がそうであるように、いかなる差別も許されるものではないと考えています」と契約を解除。(参照:株式会社コナミデジタルエンタテインメントのプレスリリース

また、バルセロナとスポンサー契約を結んでいる楽天の三木谷社長も「このような発言はどのような環境下でも許されるものではなく、クラブに対して正式に抗議するとともに見解を求めていきます」と、自身のツイッターに投稿し、クラブに対して抗議する意向を表明した。

▲写真 楽天・三木谷浩史社長 出典:Jun Sato/WireImage

一方、フランスのサッカー連盟のノエル・ル・グラエ会長は、「アントワーヌ・グリーズマンのことを思うと、この少年の優しさが伝わってくるし、ウスマン・デンベレも同じだ。彼らは心のある選手であり、オープンで、献身的であり、このビデオが与えようとしているイメージとはかけ離れている。彼らのことを思うと胸が痛くなる」と、選手らに寄り添う姿勢を見せたのだ。

■この論争に対する反応

実のところ、この論争について、 フランスのメディアは 起こったことは伝えてはいるが、そこまで深く突っ込んで語ってはいない。それでも、今回、それなりに多くのメディアがこの論争を取り上げたことには注目したいところだ。

それはやはり、コナミがグリーズマン選手との契約解除したことの衝撃と、FCバルセロナのスポンサーである楽天が抗議の声を発したことで、すでに新型コロナの感染拡大の影響で財政的に危機に陥っていたFCバルセロナが、さらなる存続の危機にさらされたことが影響しているのは間違いないだろう。

また、この件に対する日本人の態度にも以前と比べて違いが見られた。

フランスで書かれている複数の記事を見ても、「1本目の動画では、日本人の従業員を侮辱、もしくは敬意を欠いた行動をし、2本目の動画でアジア人の訛りをバカにする言葉を発したので、差別ではないかと非難されている。」といった書き方で、決して差別であるとは断定はしていない。

このような場合、以前なら、日本人の誰かが「これは差別ではない。騒いではいけない。そんなことで騒ぐのは恥ずかしいことだ。」などと言い出し、わけがわからないままに沈静化させられていた。そして、そんな様子を見たフランスのメディアも、日本人が不満がないなら問題なしと判断し、何事もなかったように終わっていたのだ。実際、今回も、同様の動きがあった。しかしながら、今回のこの論争では、そういった意見に対して強固に反対する声がとても多く、不満を表明し続けたのだ。

それはYouTubeなどで、個人の自由な発言ができるようになっている現在、世界中で、デンベレ選手とグリーズマン選手の行為は明らかによくないことだとし、こういった侮辱や差別的な言葉を発してはいけないと表明している動画が多く上がっていることも影響しているかもしれない。実際、この論争について言及している動画は複数の言語でかなりの数存在しており、日本に住むフランス人から発信された、デンベレ選手とグリーズマン選手を非難する日本語での動画もある。

フランス語圏だけに限定してみても複数見つけることができる。例えば、「Les Vidéos de Riles」の動画では、現実問題として、人々は、アジア人に対する悪口をよくいう事実を語っている。アジア人に対して差別したり、からかったりするが、ほんとに何にも考えないでやってしまう。アジア人に対する差別やからかいは、今日、日常化しており、あまりにも差別することが日常化しているから自分が何やっているかわからない人がいるというのだ。

だが、彼自身は、個人的な会話の中ではある程度あっても仕方が無いとも思ってはいるが、公の場でやることは許されないと考えており、そしてこの動画を見ている視聴者に対し、何度も、何度も絶対するなと呼びかけている。

また「Le Japon en Noir et Blanc©」️の動画では、彼らは、アジア人に対してなら許されると思ってユーモアとしてやっているかもしれないが、これを黒人やユダヤ人にやったら完全に終わりだ、と怒りの声をあげている。彼らは、こういったいわれのないからかいを、アジア人に対してだからやっていいと思っているのだ。なぜならそれはアジア人が弱いと思っているからであるとし、そしてこれは完全に差別行為であると断言する。

また、彼は、デンベレを殴りたくてしょうがないという。なぜなら、日本人はみんながいろいろな場面で手伝おうとしてくれる人々で、この時もゲームをしたいっていうからこんなに沢山の人が集まって助けようとしてくれたのに、デンベレはその様子をバカにして笑ってるからだ、と熱く語る。

この動画では、最初から最後まで、ぎっしりと、デンベレ選手や、同様にアジア人に差別行為を行う人たちに対して、文句を言い続けているのだ。

Psyhodelik」の動画では、目の前にいる人をダイレクトにからかっていることが救いようのない愚かで狂った行為だと語っている。これは冗談とかユーモアではない。目の前にいる人をあざわらっていて、その人が話す言語を嘲笑しているのだ。彼にとっては、許しがたい行為であり、これは、完全に差別だと語る。また、この動画では、デンベレ選手が、他のビデオでテイクアウトの中華料理を撮りながら、アジア人の言葉を真似ているシーンについても、これは完全に差別と断言している。

言葉を真似ることは「差別である」と認識している発信者は、他にも何件かあった。 また、これらの動画からはアジア人という理由で日常的に侮辱する人がいることを経験として知っているフランス人たちは、ああいう言動は差別からきていると認識しているため、はっきりと差別問題としていることも垣間見れる。

このような動画やSNSなどで様々な意見を聞くことにより、世界の人の意見も学んでいる日本人が多くなってきているのは間違いないだろう。

■ 声を上げ続けていくことが大切

現時点では、デンベレ選手とグリーズマン選手の動画に対する論争の盛り上がりは沈静化しつつあり、グリーズマン選手の今後の行き先が話題になる程度で、それ以上の発展はみせていない。が、しかし、謝罪に追われ、契約解除された時点で、ある一定の制裁は受けているとは言える。侮辱の言葉を発することは誰かを不快に感じさせることであり、そのことはなんらかの影響を及ぼすことを、本人もニュースを見た人も認識できただろう。

こういった流れを見ても、声をあげることの大切さを再認識させられる。声をあげればなんらかの反応が返ってくるが、不快だと思うことをちゃんと不快であると表明して抗議しなければ、それは誰にも認識されないままずっと続くのである。

時代によって常識は変化していく。今までは、アジア人を揶揄することは許される行為という常識がまかり通っていたが、現在は、その常識が大きく変化している真っ只中でもある。フランス国内でも、アジア人への差別に対抗する活動が続いている。(※参照:2021年3月28日『仏でアジア人差別に対する裁判開始』/ 2021年5月28日『仏「中国人狩り」投稿者に有罪判決』)誰もが対等に生きていける未来に向けて、前進しているところなのである。

もちろん、一気に全てが変わることはない。だとしても、今回の論争は、多少なりとも人々の意識を変えさせるきっかけになったことは間違いない。そして、今後も、同様なことが起きれば、声を上げ続けていかなくてはいけないのだ。

トップ写真:UEFAユーロ2020選手権グループFのハンガリー対フランス戦に出場したフランスのアントワーヌ・グリーズマン選手(左)とウスマン・デンベレ選手(右)(2021年6月19日 ハンガリー・ブダペスト) 出典:Laszlo Balogh – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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