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.国際  投稿日:2021/7/30

ベトナム、反政府ブロガーに長期禁固刑


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・「ベトナム共産党」、体制維持のため、事実上の報道管制体制を敷いている。

・ブロガー2人が裁判所から禁固9年と同5年の実刑判決を受けた。

・ベトナムの「報道の暗黒時代」はますますその闇を深めている。

 

ベトナム共産党」による1党独裁政治が続く東南アジアのベトナムは、体制維持のために報道統制を強め、事実上の報道管制体制を敷いており、政府寄りの報道機関以外は公式には存在を許されていない。

そんな中でも当局の警戒監視、身柄拘束などの危険を覚悟でベトナム共産党の問題点を告発する報道関係者や個人での情報発信者がインターネット上のSNSなどを通じて懸命にベトナム政府の人権問題や政治犯問題、国内経済問題、土地収用問題、環境破壊問題などに言及して、国際社会を含めた内外に実態を伝える努力をしようとしている。

そんな中、7月19日と20日にSNSで情報発信を続けていたブロガー2人が裁判所から禁固9年と同5年の実刑判決を受けたことが明らかになった。

フランス・パリに本拠を置く国際的なジャーナリスト団体「国境なき記者団(RSF)」が毎年公表している「報道の自由度」の2021年の結果でベトナムは180カ国中、175位と低く評価されている状況が続いている。東南アジアショック連合(ASEAN)加盟10カ国でもベトナムの評価は最低となっている。

■反政府という刑法犯違反容疑で禁固刑

北部ゲアン省の裁判所はインターネット上のSNSに反政府的メッセージを掲載したり、反政府的動画をアップしたりしたことによる「国家の名誉棄損」容疑で7月20日にブロガーのグエン・バン・ラム氏(51)に禁固9年の実刑判決を言い渡した。

ラム氏はインターネットなどを通じてベトナム政府に批判的なメッセージや動画などをアップしていた。2020年6月には「ベトナム人は国際刑事警察機構(インターポール)などの国際機関にベトナムの政治、経済を監視するよう求めるべきだ」と書きこんだ。

こうした情報発信がベトナム共産党や共産党幹部、政府指導者らへの「侮辱罪」に当たるとされ、身柄を拘束されて、起訴、裁判が続けられていた。

また7月19日には、インターネットのフェイスブックにある自らのアカウントで情報発信を続けていたトラン・ホアン・ミン氏に対して首都ハノイの裁判所が禁固5年の実刑判決を下した。

ミン氏は主に住民と当局の間の開発に伴う土地紛争に関して情報を発信していた。特にハノイの南に建設が予定されていた空軍基地に関する土地収用、補償、移転問題などを専門に取材して住民の立場から実態をネット上で伝えていた。

こうした活動が刑法331条の「国家や民主主義への批判」に当たるとして身柄を拘束されて公判が続いていた。

■共産党への批判を許さない政府

ベトナムは共産党1党支配の下で、官製メディア以外はことごとく摘発の対象となっており、フリージャーナリストやブロガー、地下メディアなどは「命の危険」を冒しながら、懸命に共産党支配の政治的、経済的、社会的不正や人権侵害について情報発信を続けている。

2021年1月から2月にかけて開催された共産党大会で新たな最高指導部を選出することが予定されたため、開催前に反共産党とみなされた記者などのメディア関係者と人権活動家、環境活動家などが一斉に逮捕される事態となった。

さらに7月1日にはオンラインチャンネルを運営するベトナム人記者、レ・グァン・ドゥン氏が当局に「反国家的報」の容疑で逮捕される事件も起きている。ドゥン氏は5月に警察がハノイの自宅を同氏逮捕のために訪問した際は逃亡し、潜伏生活を送っていた。

しかし当局が逮捕状を公開し、官製メディアもこれを報道、一般市民の情報提供を広く呼びかける態勢を執拗に敷いて同氏を追い詰めた。

このようにベトナム共産党に対して反政府、反共産党の立場をとるジャーナリストやネットのブロガーなどへの情報統制、監視、検挙摘発は以前にも増して厳しくなっているとされ、ベトナムの「報道の暗黒時代」はますますその闇を深めている。

トップ写真:第13回ベトナム共産党全国大会のポスターの近くで信号を待ちするハノイ市民(2021年1月23日 ベトナム・ハノイ) 出典:Photo by Linh Pham/Getty Images




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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