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.政治  投稿日:2021/8/1

五輪後はスガノミクスこそ必要!その1【菅政権に問う】


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・日本経済の国際的地位は低下。「スガノミクス」に期待。

・経済的豊かさを示す「1人当たりGDP」は、2016年からアメリカの3分の2。

・経済的影響の大きい「平均賃金」は、約20年間伸びていない。

 

五輪開幕で日本メダルラッシュ。一方、コロナ陽性者数増加、東京都4058人(編集部注:2021年7月31日20時15分の発表。出典は「新型コロナウイルス感染症対策サイト」東京都)。

欧米と比較して相対的に死者も圧倒的に少なく、医療体制不足ゆえ「医療」緊急事態になっているだけ。感染拡大したといっても、無症状も2割。高齢者にはコロナワクチン接種が進行しているし、都心に人通りが戻っているのも仕方のないことだろう。医師会を中心に医療関係者はこういう時だからこそ是非とも頑張ってほしい。

■経済指標にみる国際的地位の低下

こうした中、経済はどうかというと、令和2年の自殺者数は21081人、対前年比912人(約4.5%)の増加、これまでの減少傾向が止まった。(編集部注:「令和2年中における自殺の状況」令和3年3月16日、厚生労働省自殺対策推進室, 警察庁生活安全局生活安全企画課)これはコロナの影響があるだろうが、日本の経済地位低下を示す指標が数々でてきつつある。そうした指標を見ると「アベノミクス」は「成功した」と本当にいえるのだろうか?という疑問すら出てくる。株価上昇、円安政策による大企業支援と業績向上以外に具体的な成果は出ていないともいえる。具体的な数字を見てみると「日本経済大丈夫か?」ということを示す指標が2つあるので紹介しよう。

▲グラフ 【出典】筆者作成「1人当たりGDP」2019年度

・1人当たりGDP:G7最下位、OECD21位、

・平均賃金:G7最下位、OECD23位

詳しくデータを見てみよう。

■1人あたりGDPは韓国と競り合う

1人あたりGDPは経済的な豊かさを示す。民間消費、住宅投資、設備投資、在庫投資、政府消費、政府投資、政府在庫、輸出などから構成される(これらの合計額である)「GDP(国内総生産)」を「人口」で割ることで、国民1人当たりで算出される。

しかし、この指標の数値。なんとアメリカの3分の2という恐ろしい現実がそこにある。それも、ここ最近のことではなく、2016年からずっとなのである。

▲グラフ 【出典】筆者作成「1人あたりGDP」年次推移

韓国には2019年度ではなんとか上ではあったが、ほぼほぼ変わらない。

■平均賃金が韓国以下!

さらに恐ろしいのが平均賃金である。

日本:38617ドル

韓国:42285ドル

アメリカ:65836ドル

となっているのだ。

▲グラフ 【出典】筆者作成「平均賃金」年次推移

アベノミクスの開始した2012年後、数年をして、韓国に抜かれてしまっている。問題なのは、第一に、20年近く横ばいで、ほぼ伸びていないこと。アメリカは4割、韓国は9割近く上昇しているのにもかかわらず、である。第二に、経済的に影響が大きいこと。格差拡大、経済的困窮の広がり、未婚率上昇・出生率低下にもつながる。

■平均賃金が韓国以下になった理由は?

この問題の理由を考察してみると以下のようなロジックになる。因果関係は正確ではないが、だいたいこんな感じになる。

▲図 【出典】筆者作成

やはり、平均賃金の低さは、企業レベルでは新規サービス・新商品がでてこなかったこと、競争力の低下、生産性の低さ、雇用レベルでは賃金抑制で賃金保証が進まなかったことなどの問題、経済政策などの問題に要因が推察される。戦後の成功をモデルに従来型モデルを変革が進まず、そのまま20年、いや40年が過ぎてしまった感じである。

■菅政権に期待すること

日本の経済の現状をまとめると、

・人口規模でなんとか世界有数の経済大国には見えるが、人口当たりでみると凡庸

・日本産業はスカスカに:部品産業に転落したこと:液晶、半導体、アンテナ周りの製造業は強いが最終製品は過去の世界市場を席巻したレベルから転落

・顧客ニーズよりも、機能やモノづくりにこだわってしまい、新しいサービスや事業が開発できず

ということだろう。

問題構造を踏まえると、東京五輪後の菅政権に期待するのは「スガノミクス」の推進である。

アイデアとしては

・東京一極集中解消

・デジタル生産性革命

・最低賃金アップ

・中小企業の構造改革、生産性の引き上げ

・個別業法による外資規制の緩和

・政府調達における中抜きビジネスの規制、大手企業への補助金削減

あたりだろう。そのためにもどこかの段階で菅首相は「日本はもう先進国ではない」というくらいの発言も必要だろう。菅政権に期待したい。

海外旅行や出張で外国を訪問した人からも「日本の物価は安い」「月給が低い」という声もよく聞くし、アメリカではラーメンや牛丼が500円では食べられない。根深い問題がそこにはあり、経済改革を進めないと立ちいかないだろう。この問題はこの連載で考えていきたい。

トップ写真:菅義偉首相記者会見(2021年7月30日) 出典:Photo by Issei Kato – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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