無料会員募集中
.経済  投稿日:2021/11/8

マイナカードが普及しないわけ


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・政府・与党はマイナカードの新規取得者や保有者に対し、1人3万円分のポイントを付与する方向で調整に入った。

・「コンビニ交付」を試してみたが、ちっとも便利ではなかった。

・まずは、マイナンバーカードサービスの使い勝手を向上させよ。

 

政府・与党はよほど「マイナンバーカード(以下、マイナカード)」の普及に力を入れたいらしい。マイナカードの新規取得者や保有者に対し、1人3万円分のポイントを付与する方向で調整に入ったという。その予算総額3兆円(1億人分)!今月中旬にもまとめる大型経済対策に盛り込む予定だ。果たして効果があるのか?

マイナカード普及促進といえば、もう忘れている人も多いだろうが、「マイナポイント事業」というものがあった。2020年9月に始まったもので、「マイナカード」を使って予約・申込を行い、選んだキャッシュレス決済サービスでチャージや買い物をすると、上限5000円として利用金額の25%分のポイントがもらえるサービスだ。キャッシュレス決済とは○○Payや交通系電子マネー、クレジットカードのことだ。

この事業は、政府が2019年10月の消費税増税の影響を抑える為、2020年の6月末まで9か月間、期間限定で行った「キャッシュレス・ポイント還元事業」の後に始まった。

2019年に予定されていたオリパラ後の消費下支えとマイナカード普及促進の二兎を追う政策だった。しかし、以前の記事(「マイナポイント9月1日から」)で指摘したように、上限5000円のポイントをもらうためにわざわざ「マイナンバーカード」を作った人は政府の予想より遙かに少なかった。

ちなみに現在のマイナカード交付枚数は、49,552,693枚、普及率は39.1%にすぎない。(2021年11月1日時点:総務省)2020年9月1日時点で交付枚数22,254,189枚、普及率17.5%だったから、確かに1年で2倍強に増えはしたが、それでもいまだに国民の10人中4人しか保有していないのだ。なぜか?

答えは簡単だ。メリットが感じられないからだ。それに加え、多くの人がお上に個人情報を把握されたくない、と思っている。いわゆる「国民総背番号制」に対するアレルギーがまだ国民の中に残っているのだろう。

しかし、「特別定額給付金」や、「新型コロナワクチン」の時に混乱したのは記憶に新しい。それもこれもマイナンバー制度が国民の利便性向上に十分活かされていないからだ。カードの普及より先なのはそちらの方だろう。

利便性が感じられない身近な例を紹介しよう。

筆者はつい最近、戸籍謄本(戸籍証明書)が必要になり、「コンビニ交付」を試そうと近所のコンビニに向かった。コンビニ交付とは、マイナカード(又は住民基本台帳カード)を利用して市区町村が発行する証明書(住民票の写し、印鑑登録証明書等)が全国のコンビニ等のキオスク端末(マルチコピー機)から取得できるサービスだ。いちいち役所の窓口に行かなくていいといううたい文句で、マイナカード取得のインセンティブとして昔からPRされていたものだ。

ちなみに、コンビニ交付で取得できる証明書(自分が住んでいる市区町村のもの)は以下の通り。ただし市区町村により、取得できる証明書の種類が違ったりするので要確認だ。

・住民票の写し

・住民票記載事項証明書

・印鑑登録証明書

・各種税証明書

・戸籍証明書(全部事項証明書、個人事項証明書)

・戸籍の附票の写し

また、居住地と本籍地の市区町村が異なる場合は、本籍地の市区町村へ戸籍証明書のコンビニ交付利用登録申請が必要となるのでこれも要注意だ。(参考:本籍地の戸籍証明書取得方法

▲図 コンビニのキオスク端末の画面例 出典:地方公共団体情報システム機構

早速、端末にマイナカードをセットして「行政サービス」に入り、証明書交付に進もうとしたが、結論からいうとその日、証明書は「取得できなかった」。その時点で理由が不明だったのだが、後に区役所に電話してわかった。(筆者は東京都在住)なんと自分が住んでいる区では、第3土曜、日曜、祝日、休日、年末年始(12月29日~1月3日)、メンテナンス時は取得できないのだ。しかも、利用時間は午前9時~午後5時だという。仕事をしている最中は取得できないではないか。全然、コンビニエントじゃない。コンビニに行ったのは確かに祭日だった。取得できないわけだ。利用時間は自治体によって異なるのでこちらも要確認だ。

また、マイナカードの健康保険証利用対応も10月20日から本格開始、と政府はPRしているが、実際に使える医療機関や薬局はまだ1割未満だという。海外への渡航者を対象とした新型コロナワクチンの接種証明書(ワクチンパスポート)も、マイナンバー制度の個人向けサイト「マイナポータル」でオンライン申請できることになっているが、運用している自治体はごくわずかだ。

マイナカード保有者は増えない一方で、マイナンバーの利用は着々と進む。2024年度末までには運転免許証との一体化も予定されている。

筆者はマイナンバーの有効活用は加速させるべきだと考える。行政の利便性を享受するためマイナカードが必要なら、国民は自然と保有するだろう。カード保有を増やすためにお金をばらまくより先にやるべきことは、今利用できるマイナンバカードサービスの使い勝手を向上させることだ。

私たちが日常必要な公的証明書1枚を入手するのに苦労するようでは、先が思いやられる。デジタル庁を作るのもいいが、まずは政治家、官僚の皆さん全員がマイナカードを作って実際に使ってみたらどうか。

本当に国民が欲しくなるカードかどうか、よーく分かると思うのだが。

トップ図:マイナンバーカードプロモーション画像 出典:総務省




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."