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.経済  投稿日:2022/8/14

マイナ保険証ドタバタ劇からみる日本停滞


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・マイナ保険証利用者の加算措置を巡り、混乱。

・行政は医療機関へのインセンティブを優先し、利用者への説明を怠っている。

・マイナンバーカード普及の遅れに見る日本行政の停滞。国民への説明と理解が先決。

 

これまで幾度となく指摘しているが、マイナンバーカードの混乱は日本の停滞を代表する問題だと思う。

政府はマイナンバーカードの普及に躍起になっている。いつまでたっても申請する人が増えないからだ。国費を投入し、有名タレントを使ったCMを流したり、ポイントを配ったり、涙ぐましい努力を重ねてきたが、未だにマイナンバーカードの人口に対する交付枚数率は45.9%にとどまっている。総務省調べ)つまり、マイナンバーカードを持っている人は国民の2人に1人に満たないと言うことだ。

マイナンバーカードを持っていない人にその理由を聞くと、「メリットが感じられない」、「申請が面倒くさい」、などと口々に言う。かくも人気が無いのだ。

そうした中、最近筆者が脱力したのは、マイナンバーカードを健康保険証として利用した患者に上乗せされている追加の医療費負担が、ことし10月から軽減されることになったというニュースだ。

マイナンバーに興味ない人はなんのこっちゃ、と思うだろうが、実はマイナンバーカード、様々な公共サービスとの連携が着々と進んでいる。その1つが、健康保険証との連携だ。

▲図 「マイナ受付」のポスター 出典:厚生労働省

マイナンバーカードを健康保険証(通称:マイナ保険証)として活用する「オンライン資格確認」は、2023年4月から原則義務化される。オンライン資格確認とは、厚労省が医療機関や薬局に無償で提供する「顔認証付きカードリーダー」で患者のマイナンバーカードの顔写真データをICチップから読み取り、窓口で撮影した「本人の顔写真」を照合して本人確認を行うシステムのことをいう。

しかし、筆者が通っている病院、歯科医院、クリニック2カ所、調剤薬局3カ所でこのカードリーダーが設置されているところは、調剤薬局2カ所だけ。7月時点での普及率は病院・薬局で4割程度、一方クリニックでは2割以下という状況だ。

先に述べたマイナ保険証を巡る問題を説明しよう。

厚労省は今年4月の診療報酬改定でマイナ保険証に対応した医療機関に対する加算措置を導入した。マイナ保険証の患者を診察した病院などに、初診患者で70円、再診患者は月に1回40円を加算するというものだ。3割負担の患者で初診21円、再診12円の負担増となることから、「マイナ保険証を使った患者の負担が増えるのはおかしい」との批判が強まった。

これに対して、中央社会保険医療協議会(中医協)が8月10日に診療報酬の見直しを答申した。現行の加算措置を廃止し、10月から新たな加算措置として、マイナ保険証を利用した患者の初診料の加算が20円に減額、再診時の加算はなくなった。

マイナ保険証を利用した際は21円から6円に引き下げ、従来の健康保険証を利用した際は9円から12円に引き上げられることになり、マイナ保険証利用者が損をする矛盾は解消されることになった。

なんとも滑稽なドタバタ劇ではないか。行政は一体どっちを向いているのか?医療DXの義務化を課すために医療機関にインセンティブを与えようとしていたことは明々白々だ。

国民の利便性を優先しないから、マイナンバーカードの普及が進まないのも当然だ。2024年度末をめざし、マイナンバーカードと運転免許証の一体化も進んでいるが、知っている人はわずかだろう。

カード普及のためにポイントを配ったり、テレビCMをうったりするのに、国費を使う前に、なぜマイナンバーカードが必要なのか、保有するとどのようなメリットがあるのか、国民に説明するのが先であろう。

閣僚の常套句、「高い緊張感とスピード感」は、日本の行政にみじんも感じられない。

無駄に時間と金を使う政策にエネルギーを浪費している余裕は我が国にはない。感染症対策しかり、電力ひっ迫問題しかり、防衛費増額問題しかりだ。国民のために何が必要なのか、まず、説明することだ。理解し納得すれば、大多数の有権者はその政策を支持するだろう。

トップ写真:顔認証付きカードリーダー(マイナンバーカード対応) 出典:パナソニックグループ




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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