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.政治  投稿日:2021/11/16

風を「読み違えた」マスメディア(上)似て非なる日英「二大」政党制 その1


林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

 

 

TBS系列で毎週日曜朝に放送される情報番組「サンデーモーニング」に「風を読む」というコーナーがある。

 この番組については、色々なことを言う人が多いのだが、私は面白く見続けてきた。特に「風を読む」はよくまとまった回が多い。つまりは今回のタイトルも、決して悪意をはらんだパロディではないことを最初に明記しておく。

 さて、本題。
 自民党というのは、つくづく強運に恵まれていると思う。

 1995年の阪神淡路大震災の時は、政権の一翼を担ってはいたが、首班は社会党(当時)の村山富市であり、新党さきがけも加えた「自社さ連立」であった。

よく知られるように、この震災は未明の出来事で、もう2時間ほど遅く、通勤ラッシュ時に起きていたら、高速道路や駅の倒壊による犠牲者が一桁多かったであろうことは疑う余地がない。

 あまりこういうことを書くと、ご遺族に不快な思いをさせかねないので気が進まないのだが、ひとつの歴史的事実として、不幸中の幸いという要素があったことは記憶にとどめられるべきであろう。

 加えて、いや、こちらが主たる論点なのだが、事後処理や復興について、自民党が批判の矢面に立たされることはなかった。

 2011年の東日本大震災の時などは、野党の立場であった。

 この時の民主党政権の対応について詳細に検証する紙数はないが、
「自民党政権だったら、もっとうまく対応できたはず」
 などと考え得る要素はほとんどない、ということは指摘しておきたい。しかし、有権者はそのような判断を下したりはしなかった。

 ここでも念のため述べておくが、時の民主党政権の失政を免罪すべき、などと言いたいのではない。多くの有権者が今もって
「あの時、民主党を勝たせたのは失敗だった」
 との考えに傾くのも、無理からぬことであると思う。ただ、安倍元首相が「悪夢の政権」などと連呼していたことに対しては、彼を熱烈に支持し続ける人たちも含めて、もう少し冷静になられてはいかがか、とは言っておきたい。

写真) 東日本大震災の対応に当たった当時の菅直人首相(2011年3月15日)
出典) Photo by Yamaguchi Haruyoshi/Corbis via Getty Images

 そして、今次の総選挙は新型コロナ禍が世界中に暗い影を落とす中でのそれであった。

 当然ながらコロナ対策が大きな争点となったわけだが、もともと「アベノマスク」やワクチン確保の遅れなど、自民党政府は失点を重ね、当然ながら総選挙では厳しい逆風にさらされることが予想された。なにしろ安倍首相は体調不良で辞任し、後任の菅首相も逆風に耐えかねて政権を投げ出してしまったほどだ。

 ところが、神風が吹いた。

 衆議院においては久々の任期満了にともなう解散総選挙であったが、選挙戦の幕が切って落とされたのと前後して、コロナの患者数が劇的なまでに減少したのである。

 東京など、1日5000人を超えたことまであったものが、総選挙終盤の10月下旬には100人を下回っていた。25日には緊急事態宣言も解除され、投開票日であった31日、ハロウィンでもあったこの日、渋谷のスクランブル交差点は仮装した若者であふれた。多くがマスクを着用していたようではあるが。

 もちろん、コロナの患者数が減少したことだけが、自民党が単独で過半数を維持できた要因と決めつけるのは愚かなことである。そうではあるけれども、人々がようやく「飲みにも行けない生活」から解放された、という気分の高揚を味わったことは事実で、このことが投票行動になんの影響ももたらさなかったとも考えにくい。

選挙結果について、風が吹いたとか吹かなかったとかいう表現が昔から使われるけれども、今次のように「急に風向きが変わる」ということもあるのではないだろうか。

その結果、事前の世論調査などを根拠に、
「自民党は過半数を維持するのか困難」
としてきたマスメディアの読みは、見事に外れたのではないか。

次回、もう少し具体的に検証してみよう。

(その2に続く)

 

トップ写真:衆院選の結果を受け、会見に臨んだ岸田首相 (2021年11月1日)
出典: 自民党

 




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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