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.国際  投稿日:2021/11/17

比大統領選 主要顔ぶれ出揃う


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・来年春の比大統領選は期限を迎え、立候補者が確定した。

・最有力候補が副大統領としての立候補をし、国民を驚かせた。

・これにより大統領選は2名の候補者で混戦しそうだ。

 

2022年5月に投票されるフィリピン大統領選は11月15日に政党候補者の入れ替え締め切り期限を迎え、最終的に立候補者が確定した。これまでの各種世論調査で常に「最も大統領の相応しい人物」のトップを占めていたドゥテルテ大統領の長女でミンダナオ島ダバオ市のサラ・ドゥテルテ市長は紆余曲折の末、最終的に副大統領候補としての届け出を済ませ、大統領候補のマルコス元大統領の長男フェルナンド・マルコス・ジュニア(愛称ボンボン・マルコス)氏と組んで選挙戦を戦うことになった。

ボンボン・マルコス氏は世論調査ではサラ市長に次ぐ人気の高さを誇っており、人気トップの2人がタッグを組むという「最強のコンビ」候補となると同時に、ドゥテルテ大統領の長女とマルコス元大統領の長男という新旧の大統領の子供によるという異例の組み合わせとなり、大統領選はこの2人を軸に展開されるのは間違いないとみられている。

去就が注目されたドゥテルテ大統領は、届け出締め切りの15日のギリギリまで最大与党「PDPラバン」から副大統領候補として出馬するとの観測が強かったものの、最終的には少数政党の「血盟連邦党(PDDS)」から上院議員候補として出馬することになった。

■ 副大統領選はサラ市長を軸に展開

フィリピン大統領選は10月8日に一度候補者届け出が締め切られたものの、その後政党による候補者の入れ替えは11月15日まで認められており、この間に各政党がそれぞれの思惑で候補者の異例替えを行った。

最も注目されたサラ市長は当初大統領選への出馬はない、としてダバオ市長として再選を目指すために市長選への立候補を届け出ていた。

ところが世論調査での高い人気とドゥテルテ大統領の長女という看板から与党「PDPラバン」は「いつでも届け出た大統領候補と入れ替える用意ができている」とサラ市長を大統領候補として選挙戦に臨む戦略を公にしていた。その他の政党もそれぞれにサラ市長に秋波を送っていたことから、サラ市長の動向が最大の関心事となっていた。

こうした動きを受けて、サラ市長は11月9日に市長選への立候補を取り下げ、代わりに弟のセバスチャン・ドゥテルテ副市長を市長候補として届け出た。このため、サラ市長が大統領選に出馬するのはほぼ確実となり、果たしてどの政党から出馬するのかに注目が集まっていた。

2日後の11日、サラ市長は大方の予想を裏切ってグロリア・アロヨ元大統領が所属した「ラカスCMD党」の副大統領候補として届け出を済ませたのだった。

ドゥテルテ大統領の最大の支持母体である最大与党からでもなく、また大統領候補でもなく副大統領候補としての届け出は国民にとっては驚きとなったが、ペアを組む大統領候補が人気ナンバー2のボンボン・マスコス氏ということで納得を得たもようだ。

フィリピン大統領選は大統領と副大統領はそれぞれが個別の投票で選ばれることから、政党や政治的姿勢、主張が異なっても問題はなく、現在のドゥテルテ大統領は与党だが、レニー・ロブレド副大統領は野党で、主要政策などで意見が対立することもしばしば起きているが、それ自体は問題ではない。

■ 大統領選は主要候補者間で混戦か

一方の大統領選はボンボン・マルコス氏の有力対抗馬として与党「PDPラバン」の内紛から事実上「党除名」を受けて、「地方第一開発運動党」から立候補した世界的なプロボクサーでフィリピンの国民的英雄でもあるマニー・パッキャオ氏が挙げられている。

▲画像 10月6日、公の場で話すボンボン・マルコス氏 出典:Photo by Rouelle Umali – Pool/Getty Images

いずれも世論調査ではサラ市長にはおよばないものの高い支持を得ており、この2候補者を中心として選挙戦が繰り広げられることになるとの見方が有力だ。

このほか「反ドゥテルテ」を掲げて政権交代を目指す野党連合「イサンバヤン」のレニー・ロブレド副大統領、貧民街出身の元俳優でマニラ市のイスコ・モレノ市長や元国家警察長官のパンフィロ・ラクソン上院議員らが大統領選に立候補しており、「ドゥテルテ政権の継承か転換か」が大きな争点になるとみられている。

フィリピンはコロナ感染拡大防止策や南シナ海を巡る対中外交、貧困格差の拡大、麻薬犯罪対策、イスラム系テロ組織や非合法組織「フィリピン共産党」などとのテロとの戦いなど多くの内外の課題を抱えており、新たな正副大統領による舵取りへの期待が高まっている。

フィリピン大統領選は2022年2月8日から5月7日まで、3か月に渡る長い選挙戦が繰り広げられ5月9日に投票が実施される。選挙結果は最終的に5月16日までに発表され、その選挙結果を受けて新正副大統領は6月30日に正式に就任、任期6年をスタートすることになっている。

トップ画像:天皇陛下の即位の礼に参列するため日本を訪れたサラ氏とロドルゴ・ドゥテルテ現大統領(2019年10月22日) 出典:比大統領府




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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