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.国際  投稿日:2021/10/16

比大統領選、台風の目ドゥテルテ氏長女


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

・来年のフィリピン大統領選の候補者出揃う。

・ドゥテルテ大統領の長女サラ氏は不出馬の姿勢。

・しかし11月の締め切りまでに「土壇場の出馬」の可能性も。

 

2022年5月に実施されるフィリピン大統領選は10月8日に立候補の届け出が締め切られて、予想された主な立候補者の顔ぶれが揃った。しかし各種世論調査で常にトップの人気を誇るドゥテルテ大統領の長女、ミンダナオ島ダバオ市のサラ・ドゥテルテ市長が市長再選への届け出をして、大統領選へは出馬しない姿勢を示している。

しかしフィリピンの大統領選は、個人や政党を通じた立候補は8日に締め切られたものの、政党が届け出た立候補者を代理に交代させることは11月15日までは認められている。

つまりであることから、サラ市長の今後の去就に注目が集まっている。

今後もしサラ市長が大統領選に正式に立候補を決めた場合、これまで届け出を済ませたドゥテルテ大統領支持の候補者とともに反ドゥテルテを掲げる野党側の候補にとっても国民の人気が抜群であるサラ市長だけに、大きな脅威となり、選挙戦略の見直しを迫られることになるのは間違いないとみられている。

■主要な立候補者出揃う

これまでに大統領候補者として届け出をしたのは最大与党「PDPラバン」からは、国民的英雄でプロボクサーだったマニー・パッキャオ上院議員ロナルド・デラ・ローザ上院議員の2人だ。

▲写真 マニー・パッキャオ上院議員(2021年08月21日) 出典:Photo by Ethan Miller/Getty Images

ただこの2人はそれぞれの党内支持派が独自に擁立した候補者で、デラ・ローサ上院議員はドゥテルテ大統領の側近であるクリストファー・ボン・ゴー上院議員を副大統領候補として組む一方でパッキャオ氏は他党である「ブハイ党」のジョセリート・アティエンザ下院議長を副大統領候補とするという複雑な状況で党分裂の危機に直面している。

さらにマルコス元大統領の息子、フェルナンド・マルコス・ジュニア(愛称ボンボン・マルコス)元上院議員がドゥテルテ大統領の政治継承を掲げて大統領候補として出馬している。

▲写真 マルコス元大統領の息子、フェルナンド・マルコス・ジュニア(愛称ボンボン・マルコス)元上院議員(2021年10月06日) 出典:Photo by Rouelle Umali – Pool/Getty Images

一方反ドゥテルテを掲げて政権交代を狙う野党側はレニー・ロブレド副大統領が野党「自由党」などで組織する連合体「イサンバヤン」の統一候補として大統領選に正式に名乗りを上げた。

さらにドゥテルテ政治からの転換を掲げるマニラ市長のイスコ・モレノ(本名フランシスコ・ドマゴソ)氏も大統領選に参戦。貧民街出身でその後俳優としても活躍した異色の経歴から貧困層、女性票の支持で大統領を目指している。

このほかに元国家警察長官のパンフィロ・ラクソン上院議員ティト・ソット上院議長と組んで正副大統領に立候補している。

▲写真 大統領に立候補したフィリピンのレニーロブレド副大統領(右):2021年2021年10月7日、マニラ首都圏 出典:Photo by Jes Aznar/Getty Images

■「土壇場の出馬」という父の前例

最近の世論調査では大統領候補としてトップを走るのは依然としてサラ市長で20%の国民が支持、次いでボンボン・マルコス氏の15%、モレノ市長が13%、パッキャオ氏が12%となり、野党統一候補のレニー・ロブレド副大統領は8%にとどまっている。

こうしたことからダバオ市長再選を目指して市長候補としてすでに届け出を済ませたサラ市長に対して大統領候補としての出馬を求める声は依然として強い。

11月15日の最終的な届け出締め切りまでにすでに登録した政党からの立候補者は交代することが可能なため、ドゥテルテ大統領が総裁を務める与党「PDPラバン」としては、大統領候補として届け出たデラ・ローサ氏がサラ市長と交代する可能性が指摘されている。

ローサ氏も「土壇場でサラ市長が大統領選への出馬を決めた場合には候補を譲る用意がある」としており、最大与党として準備はできていることを明らかにしている。

こうした土壇場での大統領候補の変更は2016年の前回大統領選でサラ市長と同じくダバオ市長だったドゥテルテ氏が大統領選への出馬を最後まで否定していたものの、2015年10月の登録締め切りの後、同年11月の「政党が届け出た候補者の代理」という形で突然出馬表明して登録、大統領選で勝利したという「父親の前例」がある。このためサラ市長に対して与党側には期待感、野党側には警戒感がいずれも根強く残っているのが現状なのだ。

■候補者調整、合従連衡の動きも

こうしたサラ市長の今後の動きをにらみながら、野党側も反ドゥテルテを掲げるレニー・ロブレド副大統領とイスコ・モレノ市長による候補者調整の可能性も取りざたされている。

世論調査の結果からも両候補が共に大統領候補として票を争って「分散」するより、どちらかが副大統領候補に回るなどして票を「統合」する方がドゥテルテ政治の継承を掲げる与党系候補に「善戦」できるとの読みがあるからだ。

レニー・ロブレド副大統領は同じ大統領候補のパンフィロ・ラクソン氏とも会談して合従連衡、候補者調整などの道を探っているとされ、なんとしてもドゥテルテ政治に終止符を打って政権交代を実現したいとしている。

だがこうした現時点での動きはあくまでサラ市長が大統領選に出馬しないことを前提としており、今後のサラ市長の去就次第では正副大統領候補者間での動きが大きく変化する可能性もある、とみられている。

いずれにしろサラ市長の今後の動きという不確定要素をはらみながら、フィリピンの大統領選は波乱含みの展開をみせようとしており、片時も目が離せない状況が11月15日まで続くことになる。

トップ写真:河野外務大臣とサラ・ドゥテルテ・ダバオ市長との会談(平成31年2月10日) 出典:外務省ホームページ




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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